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愛しいものが遠いとき

作者: 懐拳

ヨンウン


幽霊は

全能なんかじゃ

ぜんぜんなかった


なってみてから

だいぶたつけど

最近やっと

それがわかった


好きなときに

下界と行き来

できるからって

何になる?


気が向いたとき

人間たちに

ちょっかいが

出せるからって

何になる?


永遠に年を

取らないからって

それがいったい

何になる?


ヨンウン


君が死ぬ

くらいなら

俺がその

身代わりになる

後悔はない


嘘じゃなかった

今でも誓える


君の命さえ

助かるなら

黄泉の国から

永遠に君を

見守ろう


あの瞬間

そう思ったんだ

ほんとだよ


だから

どうか

罪の意識に

さいなまれたり

しないでほしい


俺のことなんか

早く忘れて

幸せになれ


それを言って

やりたくて

幽霊の身で

下界を探した


身代わりになって

死んだ俺に

申し訳ないと


君が自分を

未だに責めてる

ような気がして


不憫で不憫で

たまらなくて


だけど

人の想いなんて

いや

幽霊の想いなんて

脆いもんだ


下界のどこかに

いるはずの

君を10年

探し回った


探し当てて

そしてすぐに

後悔した


それを

望んだはずなのに

探し当てて

恨めしかった


幽霊のくせに

生きてる君の

心のひとつも

楽にして

やれないなんて


それどころか


下界の男に

励まされる

君の周りを

漂って

なすすべなく

嫉妬するしか

ないなんて


バカは死ななきゃ

治らないって

下界じゃしょっちゅう

聞かされたけど


焼きもちっていう

醜い気持ちは

もっとひどい


幽霊に

なってもぜんぜん

治らない


幽霊になった

今でさえ

かつて愛した者の心が

自分から

去ってゆくのを

この目で見るのは


こんなにも

未練たらたら

往生際が

悪いんだ

笑ってくれ


こんなにも

情けないけど

その俺が


ほんとに

たったひとつだけ

君にして

あげられたこと

それは


「俺はああして

死んだけど

少しも

後悔していない」と


君の肩の後ろから

そっとささやいて

あげたこと


聞こえたかな?

俺の声


ヨンウン

笑えるだろ


幽霊は

全能なんかじゃ

ぜんぜんなかった


だけど

こんなに

救いようのない

幽霊でも


ひとつだけ

下界の人間に

ない能力を

持ってるんだ


最近知ったよ

何だと思う?


それは

下界の記憶を

自分の意志で

消し去ること


それこそが

自分が下界で

愛した者を

解放して

あげられる

たったひとつの

方法なら


俺は堂々と

行使しよう


大切な者

愛しい者を

忘れ去るのは

いかなる時も

罪だろうか?


それも

故意にだとしたら


それは

いついかなる時も

残酷な

仕打ちだろうか?


俺に言わせりゃ

断じて否だ


共に存在することが

許されない

者どうしには


他方を

忘れてやることが

哀しいけれど唯一の

慰めに

なることもあると

俺は信じる


遠い遠い

黄泉の国から

今も君を

見つめながら

俺はそう

信じてる


ヨンウン


もういいかげん

君を自由に

してやりたい


そして俺は

君を忘れた

幽霊になり

君を知らない

幽霊として


この世界で

新しく

歩いてみるよ


俺たち

もうそろそろ

互いに

赦し赦されても

いいよな



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