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ジキルとハイド  作者:
4/4

04

 


「じゃあ"深窓の姫君"っていうのは…」



「表でのシルクの姿。本当の姿は一度捕らえた獲物は掴んで離さない生まれながらの戦士よ」



「そ…そんな…」




 バターン!




 真相を聞いた侍女の一人がとうとう気絶してしまった。


 そこまですごい話ではないと思うのだが、なぜそんなに顔面を蒼白にしているのだろうか?



 シュナは首をコテリと傾げ、やがてハッとしたようにシルクの方へ振り向いた。



 そこには今までシュナの話を聞いていたであろう王子が、今にも死んでしまいそうな表情で目の前に立つシルクを見上げていて、それをシルクは冷ややかな目で見下ろしていた。




「き、君の国って…」



 狼に狙われているウサギのように、プルプルと震えながら口を開いた王子様に、シュナではなくて、シルクが「ふんっ」と鼻で笑って答えた。



「我が国では代々そういう教育を受けているんだ。もちろん国王を始め、その王妃もそれなりの教育を受けている。我が国は今でこそ平和だが、一昔前までは戦争に明け暮れていたからな。その名残か武術と剣術は大陸一の強さを誇る。

 ま、今はその力を戦争の為に使うんじゃなくて、自国を守る為に使っているんだがな。だから表には出ないんだよ」



 分かった?と可愛く首を傾げたシルクに、王子は頭を抱えて項垂れた。


 それをみたシュナがシルクの肩をポン、と叩く。



「シルク」



 シルクがゆっくりとシュナの方を振り向くと、シェナは相変わらず黒い笑顔を貼り付けたままだった。

 その意図を感じ取ったシルクもニヤリと口の端をあげる。



「もう、シュナったら喋りすぎ。これじゃあ私達の計画が遂行できないじゃない」



「今更姫口調を使っても意味ないですよ、シルク様」



「シュナこそ。その敬語やめてくんない?気持ち悪いし違和感ありまくり」



「えー?シルクの姫口調には負けるよぅ」



「おほほほほ」



「うふふふふ」




 姫と侍女はその場にはそぐわない、なんとも浮わついている笑いを交わすのであった。



「さて、シュナ。これからどうしようか?」



 

 ひとしきり笑った後、シルクは王子の後ろで気絶していた騎士の腰から剣を抜き取り、肩に担いだ。

 シルクは軽々しく担いだが、本来剣はものすごく重い。

 剣を持つ事に慣れていないと持ち上げる事さえ難しい品物なのだ。



 それを担ぎながら、やる気(殺る気ともいう)満々のシュナを振り返る。




「そうねぇ。まずはこの国の騎士団を乗っ取りましょう。そうすれば世界征服も夢ではないわ」



「いいですわね!それ!」



 シルクは剣を、シュナはナイフを持って部屋を後にしようとする。

 すると「待ってくれ!」という、懇願にも似た声が後ろから聞こえてきた。


 シルクは嫌々ながら後ろを振り返る。

 そうすればギラギラとした目をした王子と視線がかち合った。



(あ、これやばい気がする)



 本能でそれを感じとったシルクは慌てて部屋を出ようとしたが、それよりも先に王子の腕が腰に伸びた。



「ふぎゃっ!」



 そのまま振り払う間もなく抱きしめられ、兄弟以外の男性に抱きしめられた事のなかったシルクは顔を赤く染めながら奇妙な声を発する。




「僕を殴ったのは君が始めてだ。気に入ったよ。必ず君の心を手に入れてみせる」



 

「無理に決まってんでしょ!私はあんたとは対象的な男性が好みなの!」



「ならその好みになるまでだ」




「はぁ!?」



「その怒った顔も可愛いよ」



「さっきと言ってる事が矛盾してる!何よコイツ!」



「あはははは」



「…って、いい加減離れろナルシス王子!!」



「ふぎゃん!」



(どうしようこれ…止めた方がいい感じ?でもシルクの尻に敷かれる王子ってのも見物かも)



 二人の攻防戦をしばらくの間傍観していたシュナは、一人怪しくほくそ笑むのだった。





 *・*・*・*・*・*・*




 王子様らしい王子様と、男らしい王女様が衝撃的な対面を果たしてから5年。




「「「シルク様!我々は一生貴女に付いていきます!!」」」



「まぁ。それは心強いこと(ニコリ)」



「「「(なんて素晴らしい女性なんだ…!)」」」



 シルクはというと、シュナの宣言通り騎士達を陥落させていた。



「ねぇマイハニー。いい加減ライアンばかり構ってないで僕の相手をしてくれない?」



「はぁ?嫌だ、めんどくさい。というかあっち行って」



 ナルシス王子はというと、見事なまでにシルクの好みの容姿に肉体を改造させ、あの手この手でシルクの愛を手に入れるために奔走したおかげで、少しばかりの愛をもらったらしい。



「母様、父様、喧嘩はお止めください」



 そしてなんと、あんなに(最初だけだが)対立していた二人の間に、とても二人の子供とは思えない、常識をわきまえている大人顔負けの立派すぎる息子が生まれていた。



 これには産んだシルクもびっくりした。




「ライアン様、すぐにここを離れましょう。」



 二人…いや、三人の様子を静観していたのはシュナで、今はライアンの乳母兼教育係として誠心誠意尽くしている。



「しゅな」



「シュナ様とお呼び」



「シュナ様」



「結構。さすがライアンね、賢いわ」



 その教育方法とは…シュナ曰く、企業秘密だそう。




 そんなイシュレイ王国の王城は、今日も平和な1日になりそうです。





 えんど。





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