02
誰もが皆、私が兄弟達と並ぶ剣の腕前を持っているとは、夢にも思わないだろう。
ちなみに、外で訓練していても肌が白いままなのは体質だ。
「ところでシルク、イシュレイ王国に行ったらどうするの?」
物思いに耽っていた私を呼び戻したのは、ニヤニヤと素晴らしい悪戯を考えついたような表情を浮かべたシュナだった。
それに私は顎に手を充て、「ふむ。」と考え込む。
「そうだなぁ…。まずは騎士団宿舎を覗いてみよう。イシュレイの騎士がどれぐらいの力があるのか、知りたい」
「知ってどうするの?」
「愚問だな。シュナには分かっているだろう?」
「まぁ…ね」
二人の少女は年に見合わない黒い笑みを浮かべ、醸し出されている不穏なオーラに外で馬を走らせていた従者が背筋を凍らせた事に気がつかない。
「それにしても…本当のシルクを知った時の股間王子の顔、見て見たいわぁ」
「対して変わらないんじゃないか?私に興味もないみたいだし」
「分かんないよぉ?股間王子のような俺様で股の緩い男って、シ ルクみたいなギャップにやられやすいんだから」
「ぎゃっぷ…?」
「おっと失礼。つい下町の言葉が」
悪びれた様子もなく、口元に手を当てて「ふふふ」と笑うシュナに、私は怪訝そうに眉を潜め、首を傾げたのであった。
*・*・*・*・*・*・*
イシュレイ王国の城に着いた私達がまず案内された場所は来賓室だった。
長旅で疲れただろう、というイシュレイ王国国王・ジェロの意向で歓迎式は夜が更けてから行われる事になり、それまでゆっくりしてていいと言われ、私はここぞとばかりに厚すぎる待遇を満喫していた。
しかも有難い事に従者や護衛達の部屋まで用意してくれていて、私は更にご機嫌だった。
「〜♪」
小さな鼻歌は、広い浴室でもよく響く。
白湯に浸かりながら、「ほぅ…」とうっとりするようなため息を漏らした。
だって、気持ちいのだ。
アロマを焚いているのもあるだろうが、すごく落ち着く。
「シルク様、そろそろ出ていただかないと我々の仕事が終わらなくなります」
外から私に付いてくれた侍女が声をかけてくる。
私はその声に渋々ながら返事をすると、名残惜しそうに浴槽から出た。
(もっとゆっくりしたかったんだけどな…)
シルクはこう言ったが、実際彼女は1時間と17分、お風呂に浸かっており、他の人からしたらもう充分すぎるぐらい浴室に籠っていたのだ。
自他共に認める短気なシュナだったら確実に引きずりだしていた事だろう。
ちなみにそのシュナはこの城の侍女長の元に挨拶に行っていて今はいない。
侍女長に変な事を口走っていなければいいが…
彼女は短気な上に毒舌だから、被害が出てこちらまでとばっちりを受けるような事態になるのだけは避けたい。
だから頼んだぞ、シュナ。
…と、シルクの願いも虚しく、城に来て早々シュナは問題を起こしてしまった。
当然そのとばっちりは主であるシルクまで飛んできて。
「シュナ…。お願いだから、大人くしてて」
「極力頑張ります」
全く反省している様子もなく、ケロリとした顔であまり期待できない口約束に私は重いため息をついたのだった。