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前奏曲
誰もが皆、過去を持っている。誰もが皆、経験を記憶に刻んでいる。
けれどもそれを全て理解して、納得している者など誰一人としていない。
自分の事を全て分かっている者など、誰一人としていない。
しかし例えば、自分の事を他人が覚えていたらどうだろう。
自分の知らない自分を、他人の言葉から聞かされたとき、その者はその言葉を素直に信じられるだろうか。
自分自身でも分からない事を知る者。それはきっと、自分ですら分からない自分の中に居る誰か。
その誰かを目の前にしたとき、その容姿は一体どんな風だろうか。どんな形で、どんな色で、どんな雰囲気をしているだろうか。
過去を振り返る行為は鏡の前に立つことだと誰かが言った。
だったら自分の過去の姿は、今の自分の姿と同じではないだろうか。
鏡映しに見えないのならば、それは成長した証であり、既に過去など見ていない。
だから自分自身は……過去は……後悔は、今の自分と同じ幻想で彩られているだろう。
けれども鏡の中の自分と対話する方法は無い。その自分は一瞬たりとも過去にも未来にもならない自分自身だ。
ならばどうやって過去を振り返るというのだろう。どうやって自分の過去を知るのだろう。
自分自身は、何処にいるのだろう。
問いかけに答えるのは、自分だけ。




