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フェアリー・クインテット  作者: 芝森 蛍
望郷の協奏曲(コンチェルト)
74/138

第三章

 割れた西瓜は町の外の野生動物のたまり場のような場所へと置いてきた。

 不法投棄と言うならばそれまでだが、ならば逆に問いたい。割れて転がって食べられなくなったものをどう有効活用しろと。別にクラウスは田畑を持っているわけでもない。肥料にすらならない不良在庫だ。無慈悲に捨てるだけなら誰にだって出来る。

 それをどうにか意味のある方法で処理をしようとした結果だ。偉大なる大地への供物だと大義名分に胸を張れば幾らか気分も晴れる。

 と、何事かにして言い訳をしつつミドラースの地へと再び戻る。

 さて、本格的に目的遂行のために動き出したいところだが、どこから手をつけようかと。

 この町でクラウスができる事は限られている。方法論だって幾つもあるわけではない。しかし何も行動を起こさなければ変わらないのはわかりきった事だ。そう考えて、まずは簡単なところから手を伸ばす。

 ミドラースに幾つか存在する植物を取り扱った店。そこを回って一番手に入りやすいだろうミズナラの苗木を注文して回る。

 中々に取り扱われない商品だけに特注でも引き受けてくれる店は殆どない。

 そんな中で、一箇所だけ無理を聞いてくれた店があったのは僥倖と呼ぶほかないだろう。

 どうやら先ほど市場であったやり取りを人伝に聞いたらしく、クラウスの事を知っていたのだ。まぁたしかに、灰色の髪に眼鏡の少年。隣に虹色の髪を持つ者を連れていれば記憶には残りやすいか。

 これまた偶然に感謝しつつ、面白い話だと頷いてくれたのは草花を取り扱うには少しだけ威勢のよすぎる男店主だった。

 個人的な見解として、こういう仕事は女性がしている想像ばかりが先行するのだが、別に男性がしたっていいわけで。売り上げ云々は度外視して付き合いやすい同性に一時の契約を結びながらその場を後にした。

 流石にその場で物を持っているというほど都合よくは運ばなかったが、仕入れが出来次第クラウスの留まる宿へ連絡してくれるとのこと。

 クラウスの何をそんなに買ってくれたのかは分からないが、利用できるならそうするまでだ。取りあえずこれでミズナラは確保。

 残るはサンザシとトネリコ。

 少しだけ考えて次に手を伸ばしたのはサンザシだった。

 サンザシは赤い実をつける落葉低木だ。その実は加工されてお菓子の材料などにも使われる。甘酸っぱい実をそのまま使う事もあれば、潰し、冷ますと固まる別の材料と混ぜて棒状に乾燥させたものを普通の料理に使うこともある、食用の実をつける樹木だ。

 ならば完成品から逆に辿ればサンザシの仕入れ道に合流できるはずと。

 問題は舌がものを言う事。時代が違えば食品の使い方も異なる。クラウスの知っている知識だけでは全てを語る事はできない。

 となればする事は一つ。サンザシを探して食べ歩くだけだ。


「次はあれっ」


 何よりも興味を示したのは言わずもがなピスカ。隣を歩くその歩調は弾み、声に歓喜の色が宿る。

 どれだけ人の世界に飢えていたのだと。それともその興味の扉を開けてしまったのはクラウスが原因か。


「妖精はいいね。太ることとか気にしないで食べられる」

「人間みたいに非効率的な力を必要としないだけっ。妖精には妖精力があれば寿命なんてないよ」

「寿命がないって……それじゃあまるで不老不死みたいな言い方だね」

「…………その通りだよ、何言ってんの?」

「え…………?」


 考えつつ交わした言葉。その着地地点が思わぬ音で、クラウスは聞き返す。


「妖精は妖精力があれば生きていける。別にそれ以上必要なものなんて何処にもない」

「……けどそれだといつか枯渇するんじゃ?」

「何で? ほら妖精力ならそこら中に溢れてる」


 さも当然のように言い放つピスカ。その声に、ようやくクラウスも間に横たわる歪みに気付く。


「……もしかして妖精力を好きなように取り入れられるの?」

「……? 何当然のこと言ってるんだ? 妖精なんだから出来て当たり前だろ?」


 クラウスの知見が根底から覆される。

 クラウスの知る妖精とは、体の中に幾つかの妖精力を内包し、それを使い切ることで消滅する。その供給は、交わった回路でしか行われないというものだ。

 人に宿る妖精力と言うのは言わば精神力のようなもので使えばなくなるが、時間が経てば回復のするものだ。それこそピスカの語ったように大気中からの吸収と見るのが正しいだろう。

 だからこそ、その半永続的供給で長く生きるために妖精は契約を結ぶのだと……それが契約の正しい見方なのだと知っていたのに。

 それが覆る。妖精は、自力で妖精力を手に入れる事ができていた? それが何らかの拍子にできなくなってクラウスの知る妖精のあり方へと変容した?

 それではまるで妖精という存在が書き換わってしまったようではないかと。


「……それじゃあ契約は? どうして結ぶの?」

「はぁ? 契約って……あぁ、そっか、そういうことか」


 クラウスが新しい視点を得るたびに、ピスカもまた未来についてを知る。それぞれの世界観の交換といえば神秘的に聞こえるかもしれないが、クラウスにとっては誰も知りえない真実で、ピスカにとってはこれからそうなる未来の歴史。

 もしかすると辿るべき流れを歪めてしまうかもしれない要因だ。

 考えつつ、左手の薬指に嵌った指環を見つめる。


「じゃあこれは?」

「監視。流石に人の中に入られると見つけ出すの苦労するから。回路繋げておけばそれも楽になる」


 僅かに視線を逸らしながら答えるピスカ。その微かな変化に何かあると感じながら、けれどそれ以上の追求はやめた。

 この契約にピスカの言う事以上の理由があるのならばそれでも構わない。クラウスだってピスカからこうして何かを聞きだせるのだからそこは暗黙の了解だ。クラウスに被害がないのなら一々干渉するべき話ではない。そんなところに首を突っ込んでいる余裕はないのだ。


「この世界では、妖精自体はその存在を認められてる?」

「多分」


 と言う事は妖精が現れて、人間との友好的な関係か築かれ、それから妖精従き(フィニアン)が誕生するまでの間の時代。それが今クラウスがいる時間というわけだ。

 ならばもしかすると最初の妖精従きと契約妖精の誕生に立ち会えるかもしれないと夢物語を描く。


「質問いい?」

「何?」

「未来の妖精はどうなってるの? 契約をしないと生きられない?」


 想像していると今度はピスカから質問が飛んでくる。

 真っ直ぐな問いに、少しだけ沈黙を挟んで答える。


「……別に、契約をしなくても存在はしていられると思うよ。ただ少し制限はあると思うけど」


 少しずれた視点で言葉を返せばピスカの瞳に険が宿る。そんなに気になるならオーベロンにでも聞けばいいのに。未来を見通せるのだから簡単な事だろう。クラウスの言葉よりよっぽど信用に足るはずだ。


「そ……」

「どうでもいいけれど妖精ってどうしていきなり人間の前に現れたんだろうね?」

「……それこそ妖精の気紛れだろ」


 またどこかずれた視線で答えるピスカ。

 何か理由があるのかと。けれどやはりそれも追いかけるには重過ぎる話題で、そう簡単に手出しが出来ないものだと悟る。

 そこに理由があるのなら、それはきっと妖精側の都合だ。ならば妖精の国(アルフヘイム)やオーベロンと言う名前も関わってきて、話は一筋縄ではいかなくなる。

 それぞれに抱える疑問は話したくないという理由を胸に各々の奥底に疑問の火種を燻らせる。

 すべてはきっとオーベロンに聞けば解決するだけの単純な事だけど。クラウスはそれで納得できるほど考える事を辞めたつもりはない。

 そしてそれはきっとピスカも同じ事なのだ。

 妖精として誇りを持つからこそ、妖精の知見で納得できる理由が欲しい。僅かに掴んだ未来の事を、真実として認識したい。

 根底の部分で似ているのかもしれないと。隣を歩くその姿を少しだけ見つめて、それから次の屋台へと向かう。

 そこは生菓子を売る店。時代のお陰か、クラウスの知る生菓子とはまた少し違う形を持った売り物だ。

 撹拌された凝乳(クリーム)を使うような贅沢品はない。あるのは食べ歩ける一口台の焼き菓子だ。味付けは牛酪(バター)だろうか。生地に果物の欠片が入っていて宝石のように光っている。


「すみません、これ二つください」

「あいよー。お、なんだい兄ちゃん、女連れかい?」

「……まぁそんなところです」

「なら男が恥じ掻かせるんじゃないよ。ほらおまけだっ」

「ありがとうございます」


 どうやらピスカが女性に見えたらしい。

 確かに中性的ではあるが、男と言われても納得できる顔立ちだ。それともあれだろうか、リャナンシーのように見る者によって姿が変わるような細工をしているのだろうか?

 意図せず貰ったおまけに儲けだと考えつつ再び人の流れに戻る。


「……詐欺師」

「別に僕が二つ食べてもいいんだよ?」

「あの人はピスカにって言って余計にくれたんだっ。何でクラウスにあげなくちゃならないんだよ」

「なら半分に分ける? それなら公平でしょ」

「図々しいやつ……」


 言って上目遣いに見上げてくるピスカ。

 それは女性としての振る舞いか。けれど性別不明にそんな事をされたとてクラウスは揺るがない。


「情に訴えるならピスカがどっちなのか白状したら? 女性ならそれ相応の応対をしてあげるよ」

「……負けたくないからいや」


 一体何に負けると言うのだろうか。

 意外と強情なピスカに呆れつつ別に最初から張り合うつもりのなかったクラウスは自分のだけを取り出して残りを全て渡す。


「ならさっきの店員さんに免じてピスカにあげるよ。そうしないと僕が悪者になるからね」

「既に十分悪者だよっ」


 酷い言いがかりだ。

 けれど悪者よりもなお質の悪い悪魔なのだから仕方ないだろうと。歪んだ四分の一を理由に振り翳しつつそのやり取りに懐かしささえ覚える。

 ……早く戻らなければ。彼女に必要以上の心配は掛けたくない。 


「やっと見つけたっ!」


 と、そんな事を考えていると少し前に聞いた声を再び耳が捉えた。

 途端肩に重く圧し掛かる億劫な感情。また面倒臭い事に巻き込まれるのかと思いつつ、けれど振り返らなければ余計に面倒臭いので振り返る。


「今度は何……」


 回した視界にいたのは少し前に別れた少年。そういえば名前など聞いていなかったと。きっと会う事もないと思っていた再会に辟易しながら言葉を返す。


「……用がある、時間あるか?」

「どんな用?」

「くれば分かるっ」


 言えない事なら着いて行く考慮をする義理もないと。

 溜息を零せば彼の後ろから姿を現した少女の姿に少し苛立ちを募らせる。

 その華奢な肩は上下し、頬は上気して赤く色付く。それを気にも留めない身勝手さに少年であることの価値を見出せない。


「あの、ごめんなさい……。お二人を連れてきて欲しいって、お店の人に頼まれてて」

「店?」

「えっと、西瓜の……」


 息を整えるより先に先走った少年の後を追いかける少女の言葉。健気なその身を、けれど案じもしない少年に更なる嫌悪感。

 それは豪胆さではないと。ただ余裕がないだけで、視界の狭さを露呈させているだけだ。

 そんな事に気付いて怒りが呆れに変わるのと同時、ピスカへと視線を向ける。


「……いってみようか」

「え、いくの?」

「商人相手だよ。うまくすればこっちの利益に繋がる。幸い交渉権はこっちが持ってる」


 脳裏に描く道程。

 どれ程の交易経路を持っているか分からないが商人ならばこちらの望むものを融通してくれてもおかしくはないはずだ。

 そうでなくても西瓜の件で少し恩を売った程度の貸しはある。そう難しくない注文のはずで、代金は支払うのだから引き受けてもらいたいものだが。


「……まぁ任せるって言っちゃったからね。いいよ、好きにすれば?」

「よし、それじゃあいこうか。案内してくれる?」

「あぁっ」


 クラウスとしては少女の方へ声を掛けたつもりだったのだが、答えたのは少年。もういい、彼について考えるだけクラウスの徒労だ。

 諦めて、それからようやく息を整え終えた彼女の傍に寄って話しかける


「大丈夫? 疲れてたみたいだけど」

「あ、はい。ありがとうございます。それからあの時も……」

「そんなに感謝されるほどの事をしたつもりはないけど」

「わたし一人ではきっとどうにも出来ませんでしたから」


 そう言って困ったように笑う少女の笑顔にクラウス個人として少し親身になる。


「あ、わたしマーヤって言います。えっと、クラウスさん、でしたよね?」

「まさか覚えてもらってると思わなかったよ」

「あんな親切な正義感の強い人、忘れたくありませんよ。まだ御礼も出来てませんでしたし」


 親切で正義感の強い人。これほどクラウスの外面を端的に表した言葉なんてないだろう。

 もちろん、中身の事を語ればそれは第一印象で、自分で名乗ればアンネくらいは楽しそうに苛め回してくれるかもしれないが。


「それから、その、すみません。エメ君が失礼な事ばっかり」

「彼のこと?」

「はい。エメリヒ・ルーデン。わたしの許婚です」


 ピスカの疑問にマーヤが答える。

 一人先導するように随分前を己の歩調で歩く身勝手な彼の名前はエメリヒと言うらしい。別にそこまで仲良くなる気もないから呼び方なんてどうでもいいが。

 クラウスはこの時代では異邦者だ。いつかは元の時代に変える爪弾きものだ。だからこの時代にそれほど沢山の人脈を作ったところでそれ以上利用できる価値など感じない。

 たった数瞬、時を同じくするだけの、しかも男にそれほど時間を避けるほどクラウスだって余裕があるわけではないのだ。

 彼がマーヤのように可憐な淑女だったなら男心として優しくはなれたのかもしれないが……。


「許婚って、やっぱり親が決めた?」

「はい。けどエメ君にもいいところは沢山あるんです。少し喧嘩っ早いですけど、優しいですし……。だから迷惑は掛けるかもしれませんがよかったら許してあげてください。エメ君にとってはそれが一所懸命なんです」


 そうしてから見つめるマーヤの瞳。蜂蜜色の揺れる双眸の奥に、情愛の色を見て上がった溜飲を下ろす。

 彼女からの直々のお願いなら仕方ない。彼女の顔を立てて深く考えるのはよそう。


「その言い方だと何だかお姉さんみたいだけど……」

「わたしの方が一つ年上なんです。クラウスさんも、わたしと同じくらいだとは思うのですが」

「17だよ」

「そうでしたかっ。そのお年で……旅行ですか?」


 ちらりと動いた視線はピスカへ。……もしかして変な勘違いをされただろうか?


「あぁ、いや、旅をしてるだけだよ。確かに少し若いかもしれないけどね」

「いえ、そんなことはないですっ。お一人で考えて、行動に移して……少しだけ憧れます」


 不意にくすんだ瞳の色。それは彼女が話に聞いたブレンメ家のお嬢様だから感じる籠の鳥という鎖だろうか?

 さすがのクラウスもそれをどうにかする事はできないが、けれど一つわかった事はある。

 マーヤの、エメリヒへの感情は、彼がそうして自由に振舞う事への憧れをも含んでいるのだろう。


「許婚か……」

「何?」

「ん、あぁ、ちょっと思い出してただけ」

「ご友人の事ですか?」


 ピスカの問いは回路に由来する直観か。誤魔化すように答えればマーヤからも声が飛んでくる。

 脳裏を巡ったのはヴォルフとレベッカのこと。二人の許婚としての関係は、夏前のあの時に切れてしまったものだが。


「そんなところかな。その縁談は、結ばれはしなかったけど。けど二人とも今でも仲良くしてるんじゃないかな?」

「……少し悲しいですね」

「仕方なかった、って言えばそれまでだよ」


 今更彼らの事をどうこう言うつもりはない。彼らが今幸せならいいではないか。


「それに、その先に生まれる関係ってのもあると思うしね」

「……そうですね」


 返った共感に、彼女は随分と大人びた感性を持っていると少しだけ嬉しくなる。

 ここへ来てからオーベロン、ピスカと、まともに会話するには捩れすぎた者ばかりだった。そんな中で、彼女は常識を弁えた淑女であるとようやくクラウスの心休まる場所を見つける。

 もちろんと言えばそうだが、彼女は噂で聞いたブレンメ家の息女。いつものクラウスのように冷淡に利用価値だけ考えればこの場限りの関係で終わる事は望んでいない。

 その場合、前を歩く件の少年も首を突っ込んで来るだろうが、それは一旦横へ置いておくとしよう。


「おっちゃん、連れてきたぞっ」


 そんな風にマーヤの歩調に合わせながら色々な事を話しながら歩いて、気付けばやってきていたのミドラースの中心地だった。

 既に朝市は終わり、いくつかの店は天幕を片付け始めていた。その中で、目的地である西瓜の一件で世話になった露店でエメリヒは足を止めた。

 エメリヒが叫べば、大きな樽の向こうで何かをしていた店主が顔を見せる。顔、と言っても見えたのはその頭。禿頭の眩しい肌だった。

 次いで立ち上がった巨体でこちらにしっかりと向き直った男性は、その視界にクラウスを見つけて僅かに姿勢を正した。


「おう、やっと捕まえたか。商人にとって時は金なりだ。余り時間がないから話をさっさと済ませるぞ」

「話ですか?」


 単刀直入。商人らしい豪胆な切り口に、けれど瞳の奥に燻る色をクラウスは見過ごさない。

 単純に利益を追求する自己の為の意思の炎。何があろうとただでは転ばないという商人魂。


「おうよっ。後になって気付いたが兄ちゃんには迷惑掛けたからな。売り物にならなくなったあれも買ってもらったしなっ。礼をさせてもらおうと思ってよ」

「どんなお礼です?」

「俺は商人だ。信用を買い、物を売る。ならその道理に従って俺の誠意で礼を返す。取引だ、何が欲しい?」


 思わぬ風に転がった話題。けれどすぐに都合がいいと笑っていつもの笑顔で答える。


「……ではそうですね。サンザシの木の苗とかどうですか?」

「サンザシ……ってあのサンザシか?」

「はい。別に手に入り辛いって程難しい注文ではないと思いますけど」

「いや、そうだが……ほんとにそんなのでいいのか? もっとこう珍味だとか取り寄せても──」

「ありがとうございます。けどそれくらいが丁度釣り合いが取れると思うので」


 欲はかかない。もし彼の言うように彼が感じる借り以上のものを要求すれば、今度はマーヤの方に飛び火するはずだ。

 こんなものを取り寄せられる、前にこんなものも取り扱った。その実績と彼女との僅かな関係を踏み台に、ブレンメ家との直接商談へ……。一商人としては野心的で向上心のある考えだろう。

 けれど会って間もない商人にそこまで手を貸す義理はクラウスにはない。例えそんなことでのし上がったとて直ぐに足を掬われるのが落ちだ。

 何より商人にとって信用は大切な商売道具だ。それを蔑ろに契約を結んだとて失敗するのは目に見えている。

 言わばこれはクラウスなりの優しさだ。大きなものを追いかけて失敗する危険の芽を摘んでいるだけだと。


「お願いします」

「っ……。そうか、分かった。嬢ちゃん達もあの時は怒鳴ったりして悪かったな」

「こちらこそごめんなさい」


 思わずそのままマーヤへと手が伸びるのではないかと危惧したクラウスだったが、けれど続いた言葉は素直なもの。彼も商人として引き際は弁えているという事だろう。ここで食い下がったところで印象が悪くなるだけだ。

 そうして次がれた謝罪の言葉に返ったのはエメリヒの言葉。それが先ほどまで落ち着きのなかった彼のものとは思えないほど、礼儀正しく背中を折って丁寧に謝る。


「あの時は俺もちょっと苛々してたんだ。前に寄った店で欲しかったものが売り切れてて……だからっておっちゃんに当たるのは違うよなって。だから、本当にごめんっ」

「ったく、謝れるなら最初からそうしやがれってんだ。……ん、これやる」


 しおらしい姿だけ見れば、なるほどマーヤの言うように彼にもいいところはあるのだろうと。可能ならずっとそのままの彼でいてくれればどれ程楽な事だろうか。

 考えつつ、商人が差し出した小さな袋。受け取った中身を覗き込んでエメリヒの瞳が光る。


「あ、これっ……! マーヤ、手出して」

「え、なに……?」

「いいからっ」


 疑問符を浮かべるマーヤが、言われるまま両手を広げればそこへ袋の中から色鮮やかな小さな星が幾つも転がり出てくる。あれは確か……。


「南でよく取れる植物を原材料にした砂糖菓子だ。名前は確か…………」

「トーカでしたっけ」

「何だ、兄ちゃんも知ってたのか」

「はい旅をした中で何度か食べた事もあります」


 トーカ。クラウスの知識でもっと詳しく語れば──金平糖。名前の由来はその別名である、糖花と言う名からだった気がした。

 クラウスも元いた時代で幾度か食べた事があるが、少し値の張る砂糖菓子だ。

 何でも作るのに時間が掛かるらしく、大量生産する体制が整っていないのだ。未来でも手作業で作る手間の掛かる嗜好品。砂糖の塊で、ただ甘いだけなのにその色鮮やかな見た目から星の欠片とも呼ばれる御菓子だ。

 見た目も楽しく保存が利くために長く楽しもうとクラウスも随分昔に買ったものを少しずつ食べていたが、ここへ来る前にフィーナに見つかって献上品となったのが記憶に新しい。


「ならしかたねぇな」


 言って笑う男性。

 その笑顔には、けれど惜しいと言う気持ちは感じられない。

 確かに彼にしてみればブレンメ家との交渉の場を設けるいい機会だったのかもしれない。それを潰したのは利益の面から見れば不合理なやり方だ。

 けれどきっとそれ以上に、話の分かる相手との繋がりは尊いものだ。

 商人として、金よりも信用を信頼する。それが彼にとって大切な事なのだろうと。

 考えているとマーヤがこちらへ振り返って尋ねてくる。


「クラウスさんもどうですか?」

「貰っていいのなら」

「迷惑掛けたしな……」


 どこか恥ずかしそうに顔を背けて告げるエメリヒ。そうして受け取った一粒は、それ以上に価値があるような気がしたクラウスだった。




 それからしばらく話をしてその場で別れると、クラウスとピスカは町の外へ向けて歩き出す。

 クラウスの隣では口の中でトーカを転がす上機嫌なピスカ。可能な事ならずっとそうしていてくれればどれ程楽かと夢を描いて目的地を思い出す。

 向かう先は妖精の国。ピスカと話し合って、一度オーベロンに報告をと言うところだ。

 ミズナラ、サンザシと順調にその確保が出来ているのは好都合と言うほかない。ここまではクラウスの思惑以上の運び方だ。

 残るはトネリコだがどうやって手に入れようかと考えを巡らせる。

 一番理想的なのはマーヤ……ブレンメ家を利用する事だがその線は少し遠い。そう簡単にはいかないはずだ。ならばまだエメリヒを焚きつける方が幾らか楽だ。

 何かマーヤに関する大きな問題でも手元に転がってくれば話は別なのだろうが……とりあえずは他の方法も考えつつやっていくとしよう。

 禍福は(あざな)える縄の如し。ここまで順調だと逆にこの後が怖いと思いつつそうならないために最善を尽くす。

 と、そんな事を思案しながら辿り着いた獣道の入り口。鼻唄さえ滲ませたピスカに先導されながらその後をクラウスも追っていく。

 どうでもいいがクラウスがエメリヒから貰ったトーカは一粒だったのに対し、ピスカは片手に握りこめないほど沢山貰っていた。一体何の違いだろうか……。

 小さい不満を渦巻かせながら進めばあっという間に周りの景色が色鮮やかに変わる。

 七色の葉をつける樹木。ミズナラやトネリコよりも、こっちの方が数段珍しい気がすると思いながら景色を楽しんでいると、前を歩くピスカが足を止めた。

 続いてクラウスも隣に並べば、目の前には小さい妖精姿のオーベロン。中空に奔らせた妖精語を片手間に弄るその姿に相変わらず威厳のない事だとあまり敬う気持ちにならないまま話に入る。


「進捗はどんな感じだ?」

「順調ですよ。あとトネリコだけです」

「ふむ、そうか。何、もっとゆっくりとしていてもよいのだが」

「待たせてる人がいますから」


 それはクラウスと一緒の時間を過ごしたいという妖精としての楽しさを求める本能か。それとも彼にも何か思惑があってそれまで時間が欲しいという事だろうか。

 どちらにせよ、最終的には彼の手のひらの上だ。幾らクラウスが望んだところで彼が帰したくなければクラウスも帰れない。

 ……いや、帰るための術式を作り出せば或いは、か。


「随分と人らしい事だな」

「人間ですからね」


 心の内を覗いたのだろう言葉にいつものように返す。

 今更そんな事を言葉にするのに抵抗もない。本心でどう思っていようがそれは変わらない事実だ。

 この身には人間の血が流れていて、たった四分の一だけの妖精の証。それにどれ程助けられたのかと問えば明確な答えは返せない。

 ただそれがなければフィーナとも、そしてアルとも出会わず、こうしてここにいる事もなかったのだろうとは思うけれども。

 そんなつまらない人生を送ったところでクラウスに意味などないのだからやはりその四分の一には少なからず感謝はしているのかもしれない。

 それでもやはり、この身を(かたど)るその殆どは人間なのだけれども。

 考えているとふとオーベロンが空を見上げた。しばらくの後、彼は小さく何かに納得するとクラウスを見据えて糾弾するように零す。


「……君のせいでこれまでに積み上げてきたものが台無しになりそうだ」

「…………何の話ですか?」


 さすがのクラウスもいきなり飛んだ話題について行けずに聞き返す。すると彼は呆れたように溜息を吐いて面倒臭そうに続きを紡いだ。


「男と女が一人ずつ、この森に迷い込んだ。君が連れてきた人間だ」

「そんな覚えは僕には…………あぁ、そういうことですか」


 オーベロンの言葉に否定しようとして、けれど直ぐに脳裏を過ぎった可能性にクラウスも呆れる。

 どちらが言いだしたのかなんてのは考えるだけ無駄なほど明白だ。きっと町の外へ向かうクラウスを尾行して来たのだろう。それを止める彼女の心配そうな顔が目に浮かぶ。


「全てを僕のせいにしないでくださいよ。勝手についてきたのは彼らです」

「君がいなければありえなかった景色だ。君の所為以外に理由があるか?」


 確かにクラウスを追いかけてきたのだからクラウスがいなければそうならなかったはずだが。そもそもクラウスをここへ呼んだのは目の前の彼なのだからその原因は彼にあるべきではなかろうかと責任転嫁。


「……で、追い払ってくればいいですか?」

「ここは迷い込めば最後、妖精の手引き無しでは外には出られない聖域だ。君だってピスカがいなければまともに動けやしないだろう」


 妖精の国、アルフヘイム。

 これまでクラウスが得た情報から推察していけば今現在その全容がどうなっているのかは想像に難くない。

 まず人里では妖精はある程度いる。けれどその殆どは人化を使って紛れ込んでいる。人化を使えば妖精の見えない者にもその姿は目に映る。だからこそ翅さえなければそこにいるのが人間なのか、妖精なのかは判別がつきにくいはずだ。

 更に、ピスカ曰く妖精従きはまだ存在していない。妖精憑き(フィジー)も一握りだろう。つまり人との間に友好的な関係は築かれていない。ただ不可侵とするだけでその存在を全面肯定はされていないはずだ。

 ならば視点を妖精側に移して考えれば幾つか見えてくる事はある。

 妖精だってしっかりと知能を持った種族だ。何よりこの時代にはオーベロンのような統治者も居る。

 そこにはしっかりと種としての目的も定められ、自由の上に確かな統率があるのだ。

 人間と妖精、その間に横たわる溝はまだ埋まってはいない。ならば妖精側もそう簡単に妖精の国の存在を詳らかにはしないはずだ。

 もっと言えば、クラウスの知っている未来でも、妖精の国の存在は曖昧の幻想のままだ。だからきっと、その最後まで妖精の国は理由もなく人間を招き入れたりはしなかったはずだ。

 秘匿され続けた幻想の都。

 それを維持するためにはきっと簡単には足を踏み込めない仕掛けがあったはずだ。

 それがきっとオーベロンが語った迷いの森。妖精の手引き無しには自由に目的地に辿り着けない幻惑の聖域。

 また、非情かもしれないが、入り込んだ者が外へ出て妖精の国の一端を触れて回らないように外へ出る事もままならない。

 それは妖精が妖精としてのあり方を守るための致し方ない方法だ。

 少しすれば人の里にも噂が広がり近づく者は減る。

 人との共存を望んだからこそ、引けない一線はあったのだろう。


「それでも興味本位で迷い込んで来る者は後を絶たないがな」

「人間の子供ほど正論で御しきれない生き物はいませんよ」


 彼の語る言葉に更に思考を巡らせる。

 小さい魂は純粋な色をしているが故に染まりやすい。だからこそ子供の頃に教えられた教えを常識だと信じ込んでしまう。

 クラウスも父親には嫌になるほどクォーターは普通ではないと聞かされた。

 その子供の生きる道標たる親の言葉。けれどそればかりを信じるのも子供心には難しい話。

 興味の尽きない幼少期はできることとできない事の判別が曖昧なままに足を踏み出す。

 そうして訪れる子供らしい純粋な心は、時たま妖精の見えない者でもその一端に手を伸ばしてしまうとさえ言われている。

 子供には大人には見えないものが見える、と言うのは単に純粋と言うだけではない。その魂が、道徳のような殻に覆われる前の、むき出しの興味に彩られているからだ。

 契約を介して妖精と繋がる妖精憑きは、その魂に妖精力を宿す。

 体外的な殻を作らない子供だからこそ、その純粋さは時に条理さえも乗り越えて見えないものに手を伸ばす。

 まだ透明な子供の魂ほど妖精の本質に近い物はこの世に存在しないかもしれない。

 そう言わしめるほどに、子供と言う存在は純朴にして混沌なのだ。


「妖精と心を交わす者はその奥に純粋な子供心を持つ者だけだ。そんな稀有な存在を、我々は拒まない。もちろん、優しい嘘は吐くけれども」

「悪戯好きと言ってしまえばそれまでですね」


 仕方ない。それがそれぞれを守るために必要な事だ。

 そんな歴史の上に、クラウスがいた時代は出来上がったのだ。


「何にせよ、彼らが今ここにいるのは都合が悪いと……」

「君の責任だと言い張らせてもらおう。どうにかしてき(たま)へ」

「分かりました……」


 また面倒臭い事に巻き込まれたと。頭を掻きながら溜息を吐いて踵を返す。


「で、どうすれば見つけられるの?」

「同じように迷えば? 迷ってもピスカが見つけ出せばクラウスの事はどうにかできる」

「……見捨てないでよ?」

「どうだろうね」


 言ってくすりと笑ったピスカ。

 その悪戯な微笑みに、妖精らしいと納得してピスカと別行動を取る。

 歩き出した道は最初こそ道らしい道を進んでいたが、やがていつからか獣道の如く草の根が絡みつくほどの鬱蒼とした緑に覆われる。

 辺りの景色も、気付けば色取り取りな葉から深緑映える樹木へと変わっていた。

 緑の天蓋に覆われた、日の光の余り差し込まない薄暗さを遠くまで広げた森の中。頬を撫でる風は心地よさと共に孤独を助長し一人冷たさを感じる。

 ずっとこんな場所にいれば気が狂いそうになると。方向感覚も曖昧なままにずっと真っ直ぐ進み続ける。

 ふとした拍子に振り返ってみれば歩いて踏み倒したはずの草葉は、けれど何事もなかったように元気に風に揺れている。

 これが迷いの森。アルフヘイムを聖なる不可侵足らしめる幻惑の檻。人の世と妖精の世界の、その狭間の理。

 クォーターたるクラウスには丁度いい場所だと自嘲して、それから胸の内を探る。

 左の薬指のその先に集中して、そこから伸びる仮契約の糸を手繰り寄せる。

 そうして捕まえた、ピスカの波長。妖精らしい純真にして濁りのない揺らめきに胸の内の感情をぶつける。


『うわぅっ、びっくりした! 干渉しないでって言ったよな?』


 そういえばそんな事を言っていたような。けれどこれでまた一つ方法論も増える。

 こちらからピスカに干渉できるなら、わざわざピスカに迎えに来てもらわなくてもピスカを探して歩けばいい。

 因みにこれはただ感情をぶつけているだけで、妖精力の会話とはまた異なる。これはただの、癇癪にも似た突発的な気持ちの昂りの結実……フィーナとクラウスの間でも幾つもあった、考えている事を共有してしまうというあれだ。募った感情に反応して、ピスカがこちらの気持ちを盗み見てそれらしい答えを返してくれているに過ぎない。

 発展系として、それを極めた先が妖精語での会話。少し試してみるが残念ながらそちらは今のクラウスには出来そうにないと。


『……勝手にすれば? ピスカの手間が省けるならそれに越した事はないし。で、どっちを探す?』


 どっち、と言うのはマーヤかエメリヒか、と言うことだろう。

 可能な事なら男よりも女性を。クラウスも体験してみて分かったが、こんな場所でずっと一人でいれば気が狂いそうになる。ならクラウスの視点から考えて先に手を差し伸べるべきなのはどう考えてもマーヤだ。


『ん、分かった。なら女の方頼んだ』


 どうでもいいけれどそれぞれに探すと言う事はマーヤとエメリヒはこの森の中ではぐれてしまったということだろう。

 ならば急がなければ。一刻も早くその不安を掻き消してあげたい。


『……男女差別酷すぎない?』


 差別だなんてとんでもない。この性分は、ただ単純にクラウスがクラウスらしくいられるのが女性の前でだけと言うだけだ。

 だから別に同性を嫌っているわけではない。

 異性の方が好きと言うだけだ。


『扱いやすいからでしょ?』


 身も蓋もない。もしかして怒っているのだろうか?


『怒るほどに興味なんてないっ』


 それは少し寂しいと。一時とは言え仮初の契約を結んだ仲なのに。

 そう心の奥で嘆いてみたが返答はなかった。どうやら呆れて黙り込んでしまったらしい。

 気難しい妖精だと、けれどそこに楽しみ方を見出しつつ足を出す。

 そうしてしばらく歩けば、遠くに声を聞いた。

 名前を呼ぶ声。きっと普段はそんな事をしないのだろう。聞いているこちらが苦しくなるような喉が裂けそうな呼び声。

 紡がれるエメリヒの名に、けれどクラウスで悪かったと心の中で謝りながらその背中に声を掛ける。


「……あれ、マーヤさん、どうかしたの?」

「え……あ、クラウス、さん…………」


 目端に涙を湛えた、蜂蜜色の瞳。僅かに潤んだ双眸が、そこに希望の色を灯してクラウスを見つめる。


「彼は?」

「……その、逸れてしまって…………」

「そっか……。よかったら一緒に探そうか?」

「…………いいんですか?」

「そうさせて欲しいからね」


 笑顔で答えると、マーヤは細い指で目尻を拭ってようやく笑う。

 そうして連れ立って歩き出す。

 隣を歩むその足取りは、慣れない場所を歩く所為かおっかなびっくりに。けれどそれを指摘せず、ただ静かに彼女の歩調に合わせて進む。

 どうやらまだもう少し歩けそうだ。なら少し酷かも知れないが自分の足で歩んでもらおう。

 考えつつ、それから胸の奥でピスカへ向けて感情を送る。


『見つかった? そう、なら案内するから、そのまま真っ直ぐ歩いてて』


 簡素な答えに分かったと答えて、それから隣の彼女へ視線を向ける。

 じっと俯いたままゆっくりと歩を進めるマーヤ。

 一体何を考えているのだろうと。その横顔を窺おうとしたところで細く儚い声が響く。


「…………訊かないんですね。どうしてこんなところにいるのか」

「話してくれるなら聞くのは(やぶさ)かではないけれど……」

「嘘吐きですっ」


 言って、少しだけ睨むような視線でクラウスの事を見つめるマーヤ。

 事実だけを言ってしまえば、後をつけてきた彼女達を責める事になる。けれどそれはクラウスにとっては何の益もない事だ。

 打算的な事を言ってしまえば、今のこの景色はクラウスにとって随分と有利なものだ。

 マーヤに恩が売れて、彼女の記憶にも残れる偶発的な小さな問題。

 後一つのオーベロンの頼み事……トネリコの苗の入手も、その道程がとても現実的になる。

 騙すようで少し心苦しいが、クラウスにだって必要な事なのだ。だからこの親切で、できることなら先に恩を返しておきたいと。


「……じゃあ代わりにひとつだけ訊いてもいいかな?」

「何ですか?」

「エメリヒと一緒にいるのは許婚だから?」

「…………訊かないと分かりませんか?」

「いいや」


 クラウスの問いにどこか驚いたように見つめて、それから試すように疑問を返してくる。

 その間と、返った言葉に。意味もなく達成感を覚える。


「だからできれば、悪く言わないであげてください」

「しないよ。僕の所為とも言われたしね」

「あのお連れの方にですか?」


 視線に宿る疑うような色。その奥に秘められた強かな彼女の直感に降参する。


「誰に言われようと非があるなら認めるべきだと思うよ」

「認める振り、の間違いじゃないですか?」


 随分と頭の回転の速いことだ。打てば響く意地悪な返答に笑みを浮かべれば、隣を歩くマーヤもくすりと肩を揺らした。


「いいですね旅人さんは。自由で奔放で……籠の鳥は飛び方すら忘れてしまうのに」

「飛ぶより地を歩く方が面白いかもしれませんよ?」

「敷かれた道を、ですか?」


 蜂蜜色の瞳に寂寥の感情が宿る。

 それは諦めか。クラウスが何かを言って変わるほど根の浅い問題でもないのだろう。第一、クラウスが口出しをしていい話ではない。


「あ、別に責めるわけではないですから。境遇は受け入れてます。その中で、わたしはわたしの好きなように生きてますから」

「…………なら応援しましょうか。できることしかできませんが」

「悪いお人。わたしはこれまで、そういう顔をする大人を沢山見てきましたよ?」


 顔に出ていただろうかと。思わず口を噤めばマーヤは「やっぱり……」と呟いた。

 気弱な令嬢かと思えば中々どうして、強かにして霊妙なる少女ではないかと。

 事異性とのやり取りに関しては少しだけ自信のあったクラウスだったが、目の前の本物には負けを認める。


「悪戯は妖精の特権ですよ」

「この身は妖精に劣りますか……?」

「いいえ、よほどらしいから困るんです」


 けれど最後に一矢報いようと言葉を繋げば、それが御気に召したのかころころと楽しそうな音を喉の奥で鳴らした。


「本心です。……それを彼に見せては?」

「それは駄目です。エメ君の中で、わたしは気弱なお嬢様ですから」


 末恐ろしい少女だと。もしかするとクラウスが出会った中で一番危険な異性かも知れない。

 アンネよりも尚魅力的な魔性を持って、それを武器に振り翳す。クラウスでも飲み込まれそうなほどの蠱惑な言葉の数々に心地よささえ感じる。

 認めよう。僕は彼女に勝てない。


「綺麗な花には棘があるなんて言いますけど、それを隠すだけの理由を聞かせてもらっても?」

「棘を見せてたら誰も手を伸ばしてこないじゃないですかっ」


 それは違いないと。

 しかし触れてしまえば深くまで食い込んでしまうその残虐なほどの釣り針に楽しくなる。


「でも時々いるんですよね。それでも手を伸ばしてくる殿方が」

「だから彼に?」


 矛先をずらせば隣の彼女は少しだけむくれる。

 確かに可憐だ。けれど既に、そこには毒がある事を知っている。

 ならば安全圏まで逃げて、愛でるべき花とするのが賢明な判断だ。


「……どうでしょうか」


 クラウスの引き際を彼女も感じ取ったのか。ずれた着地地点をそのまま踏み締めて楽しげに笑う。

 そんな風に他愛なく危ない言葉の綱の上を揺らしながら歩く会話は、やがて目的地を目の前に突き出して心の奥へとしまいこまれる。

 移り変わる景色。視界を彩る色が七色へと変化し、色のついた風に揺れるさざめきが僅かに肌を振るわせる妖精力となって傍を駆け抜ける。

 隣を歩く彼女はそちら方面には余り造詣がないのか、気には障らない様子。ただ虹色に輝く辺りの景色に宝石を見るような興味を注ぎ続ける。

 それが普通の反応かもしれないと。慣れすぎたが故に敏感になった妖精力への感覚は、その向かう先に存在する得体の知れなさに少しだけ緊張する。

 それは言わば、クラウスの天敵がそこにいるような感覚。

 逃げる事よりも負ける事に恥ずかしさを感じるクラウスが、そのどちらをも許されないと錯覚さえする存在感。

 妖精力の密度が、色が、知らない形を持ってその先へと流れていく。

 頭のどこかでそれを否定する自分がいる事に気付く。否定するという事柄を裏返して、その先に何がいるのかを確信する。

 ここは妖精の国。妖精の王様である、オーベロンがいる幻想の都。

 ならば当たり前のように、それと対を成す彼女もまた、ここにいて然るべき概念────


「はじめまして、と言った方がいいかしら?」

「形式的にはそうですね。けれどきっと、そんな茶番は必要ありませんよね────タイターニア殿」

『あら他人行儀ね。魔女と呼んでくれても構わないのよ?』


 いきなり障られた波長。底冷えのする嫌悪と拒絶の音の篭った妖精語の言葉。

 意地悪だ。悪戯だ。そして、魔性だ。

 そんな感慨にくすりと笑う目の前の彼女。

 服のように体を包む長く豊かな深緑の頭髪に、感情を宿さない鉛白(えんぱく)色の双眸。

 背中に揺れる二対四枚の虹色の翅が彼女を妖精だと教えてくれる。

 けれどその存在感は妖精と言う枠には収まりきらない。

 それはまるで──この妖精の国の中核だ。

 尋常でないのはその纏うべき空気と見紛う程の、圧倒的な妖精力の量。

 妖精一人が内包できるとは思えない、埒外の存在感。

 眩暈がしそうなほどの密度は、彼女の周りにすら漂って重いほどの質量で、目に見えないはずの妖精力が可視化される。

 揺蕩う無数の虹色の粒子。まるで雫が時間を止められ、滞空しているような不思議な光景。

 きっと妖精に縁を持たない者でも目にすることのできるほど、はっきりと実体を持ったその密度。

 あの数多にある星の煌きのような一粒にでさえ、クラウス個人が内包する妖精力の総量は遠く及ばない。それほどに、途方もなく現実離れした景色なのだ。

 一体どんな術式で過圧縮すればあんな妖精力の塊が生み出す事ができるのだろうか。

 そこに秘められた、その一つでさえここら一帯を吹き飛ばしてしまいそうなほどの違和感に忌避感さえ覚える。

 何よりも、それらを幾百と言う数管理下に置き、その上で彼女自身もありえないほどの妖精力を湛え、平然とした表情でこちらを睥睨するタイターニアと言う存在に畏怖する。

 これが、妖精の国を治める妖精の女王。

 オーベロンとはその存在感から格が違うと実感し、そして確信する。

 きっと彼女とクラウスでは、まともにぶつかり合ったとて喧嘩にもならない。爪先ですら、その柔肌に届きはしないだろう。

 規格外すぎる……。彼女が立つ、その場所を目指していたのだと気付けば、少し気後れもしてしまう。


『駄目よ。貴方にはその使命がある。その夢を諦めるの?』

「っ…………!」


 彼女の周りに漂うその煌き一つ一つが妖精力の塊だと知って愕然とする。

 だからこそ、より鋭敏になった妖精力に対する知覚が刺激される。

 クラウスの脳裏に過ぎった想像。それに対するタイターニアの返答に宿る、一端にあるにも関わらず膨大な妖精力の流れに、意識すれば気持ち悪くなる。

 ただ言葉を交わしただけでこれか……。まるで回路を全て彼女に掌握されたみたいだと。

 体の中を巡る多量の異物の感覚に気持ちが悪くなる。


『たったそれだけで気を悪くしないで頂戴。器なんて気の持ちようよ』


 呆れたような物言いに少しだけ自分自身を持ち直す。

 そうだ。誰かに左右される必要はない。クラウスはクラウスらしくいればいいのだ。

 ただそう、目の前の彼女がクラウスにとって天敵なだけ。

 彼女は、タイターニアなのだ。

 それ以上でも、以下でもない。それ以外を疑わない。

 男だとか女だとか、そんな括りで纏めようとするからクラウスの思い通りにならないだけだ。


「……っあの」

「何かしら?」


 響いた声は隣から。

 クラウスが意識して自分の波長を捜し求めている横で、少女は胸の前で拳を作り搾り出すように告げる。


「エメ君は何処ですか?」


 名乗るよりに先にそれかと。随分と気の強く、そして物怖じのしないことだ。

 その瞳に宿る光の強さにタイターニアが面白い玩具を見つけたという風に微笑を浮かべた。


「だめよ、男に尽くしちゃ。男を振り回すのが女の特権なんだから」


 彼女は箱入りのお嬢様だ。クラウス同様対人能力は高いようだが根はきっと純粋な生娘。そんな情操教育はよろしくないと。


「気になるなら彼の心でも見てみる?」


 悪魔のような囁きに息を飲むマーヤ。お願いだ。これ以上の悪女にならないでくれ……。

 そんなクラウスのささやかな願いは、けれど叶えられる事はなかった。

 何かを決意するように顔を伏せたマーヤ。その横顔、口元に微笑が浮かんだのを見たとき、クラウスは既に諦めていた。


「……はいっ」

「目を閉じなさい。そして思い浮かべなさい。あなたの体は秘匿されるべき殻の中……万物に委ねその身を宿す自然の理」


 紡がれる言の葉。朗々たる調べは僅かに妖精力を纏って辺りに充満する。

 途中、クラウスにも向けられたタイターニアの視線。なんでと嘆きつつ、仕方なしにクラウスも目を閉じる。

 すると何かが体を包み込む感覚。透明な肩掛けは、しかし重さなどなく肌の上に溶けるように消えていく。


「いいわよ。これであなたたちは誰にも気付かれない……いわば透明人間ね」


 恐らく辺りの景色に同化させて認識を欺く幻術のような何か。少し気になったのは、タイターニアは方陣を使わなかった事。言葉と妖精力。まるでその場で紡ぎ形にしたような、クラウスの知る妖精術とは違う何か。


「ただしそこから動かない事。一歩でも動けばその瞞着(まんちゃく)の繭は(たちまち)ちに解けてしまう。何があっても動いては駄目よ?」


 タイターニアの言葉に頷くマーヤ。一つ疑問なのはどうしてクラウスまでそれに巻き込まれなければならないのだろうかと言うこと。

 関係ないのだから自由にして欲しい。

 そんな風に嘆いたところでクラウスの都合など二の次。

 元々振り回されている立場なのだからどうなろうと諦める覚悟だけは出来ている。


「あ…………」


 と、意味もない事をつらつらと考えていると木々の奥から影が二つ出てくる。

 零れた声は隣の少女。その瞳に宿る猜疑の色にこの先の雲行きを粗方察する。

 同時に、打算的で狡賢い思考はいつものようにクラウスらしさと共に歯車を減速させていく。

 現れたのはピスカに手を引かれたエメリヒ。彼はどこか締まりのない表情で成すがままにピスカに振り回される。


「ほら、連れてきましたよっ」


 罪人を突き出すかのようにエメリヒを放ったピスカ。その途中、偶然かピスカと視線が合った気がしたその直後、あからさまに眉を顰めてこちらを睨んできた。

 ピスカは妖精だ。この辺りに存在する妖精力の流れには(いや)が上にも敏感になる。人間であるエメリヒはともかく、ピスカまでを騙しきると言うのは流石に難しい話かと。

 けれどそれも数瞬。気付けばいつもの表情に戻っていたピスカは溜息と共に告げる。


「で、どうしますか、こいつっ」

「ふふっ、まぁそんなに気を立てないの。はじめましてでいいかしら、エメリヒ・ルーデンさん」

「え、あ、はい……!」


 彷徨ったのは視線。上ずった声と共に彼の頬は赤く染まる。

 それもそのはず、クラウスは最後の一線でタイターニアの事を異性だと尊重して思考の外へと放棄したが、彼女は些か無防備に過ぎる。

 いや、きっとそれも彼女にとっては武器の一つなのだろうけれども。

 人間がそうであるように妖精にも個体差と言うものは存在する。顔のつくり、体の凹凸、彩る雰囲気。

 長耳に二対四枚の翅と小柄な見た目を除けば妖精ではなくなってしまうけれど。その差異を抜きにして考えれば人間と妖精の間に外見的特徴は殆どない。

 だからこそピスカも人化を使えば難なく人の里に潜り込める。

 そんな妖精。男ならば特別語ることもない容姿だが、女性には女性らしい象徴と言う物が存在する。

 男にしてみれば異性である女性を語る上で余り外れる事のない身体的特徴……所謂胸部の膨らみだ。

 男も、そして女性も一喜一憂する事の多いその性別に左右される存在感。人間がそうなのだから、同じように性別を持つ妖精にもその個体差と言うものはある。

 通常、妖精は手のひら大の、肩や頭に乗るほどの小さな体躯だ。だからその全体的な大きさに目が行って余り話題にはならないが、女性の妖精には確かに人間のそれと同じものが存在するのだ。

 ハーフィーやクォーターと言う存在がいる以上、その親となる妖精には細かな意味合いは違えどその身体構造は人間と酷似をしている部分が多数存在する。

 それはきっと、オーベロンやタイターニアが人間を模して妖精に人型の衣を授けたからなのだろう。

 その恩恵と言うべきか、それとも似せ過ぎた故の不気味さか。妖精にも存在する胸部の膨らみ。

 クラウスが考えるに、それはきっと妖精個人の側である程度変化を加える事の出来る身体的特徴だ。

 妖精の体は人型をしている。けれどそれは与えられた仮初の姿だ。そしてそれは、きっと妖精術によって編みこまれた繭に過ぎない。

 だからこそ、人の姿を描き、より人に似せようと思い、その具体的な形を追い求めれば妖精はきっと自由に体を変えられる。

 それがピスカの人化。人の波長を借りずに行う純粋な妖精の変化の方法。

 きっとその気になれば人が望んでも手に入れられないその理想の姿を、彼女達はいとも簡単に作り出せてしまうのだろう。

 そのやり方を忘れてしまったのが未来の妖精達……人間の波長を借りて人間大の人化を行い、妖精力の吸収の仕方を忘れた、クラウスのよく知る妖精の姿だ。

 言わば退化した妖精達。その原初にして女王たるタイターニアは、異性たる人間の男が何に弱いかを知っている。

 だから彼女はあんな挑発的な姿をしているのだ。

 薄布の貫頭衣。その胸の辺りに大きく突き出た二つの盛り上がり。比べるのは無粋だろうからできるだけ抽象的に表現して……クラウスが今まで見てきた女性の誰よりも魅力と蠱惑を湛えた半球。

 その健康的なほどに瑞々しい上半分が、零れ落ちそうに貫頭衣を押し上げて圧迫感さえ滲ませる。

 恥も外聞もなく男である事を押さえ込めなくなれば、あれほどに理性を狂わせる脅威はないのではなかろうか。

 どうでもいいけれどクラウスは普通でいい。どちらかと言えば無駄にそれを主張するより体との全体的な調和にこそ惹かれるのだと何かに対して言い訳のようなものを突き立てる。

 と、そんなどうでも良い事を無益にも考えて溜息を吐く。

 何よりタイターニアがそれをクラウスに使わなかった事に感謝したい。とても個人的な私見で申し訳ないが、彼女にはそんな妖艶さは似合わない。どちらかと言えばある事を前提にした自信のようなそれの方がより畏怖を抱くと言うもの。

 疑わない事以上の危険はクラウスには考えられない。

 だからこそクラウスにとって天敵だ。彼女は彼女である事を信じて疑わないから。その弱味さえもすべて受け入れてしまえる完璧なまでの理想像に、クラウスは付け入る隙を見出せない。

 彼女にとって、あるもの全てが彼女の味方だ。

 それはクラウスとは真逆の考え方。

 相容れないからこそ互いにとって天敵たる。


「あら、だめよぅ。好きになったものには好きって言わなきゃ。それが男らしさと言うものでしょう?」


 嬉々とした色を湛えた鉛白の瞳。人の感情など、有象無象にして取るに足らないものだとでも見下すような、感情の宿らない瞳。

 そこに唯一つの根源にして前提を見つけたように彼女の瞳が色を灯す。

 まるで愛し合う男女が接吻をするように。ともすれば触れてしまいそうなほどに近づけたその距離で、悪魔の如き囁きを音にする。


「ほら、隠し事は駄目よぅ? 自分に素直に生きなきゃ。欲しいものは自分で手に入れなきゃ。他者を蹴落とす事でしか得られないのなら、その心に嘘なんてついちゃだぁめ。言葉にしなさい。今この時だけならば、私が承認として聞き届けてあげる」


 エメリヒの染まる頬は熱いほどの赤色を差して喉に栓をする。

 そうして妖艶に紡いだタイターニアは、壊れ物でも扱うかのようにその細く白い指先をエメリヒの(おとがい)に宛がって僅かに視線を傾けさせる。

 その先、タイターニアによって先導された視界には、瞳に疑問符を浮かべたピスカがいた。

 ようやくそこでクラウスも気付く。

 タイターニアが何に対して言葉を紡いでいたのか。何を(そそのか)していたのか。

 思えば少しだけ違和感はあった。

 彼は誰よりもピスカを見ていたし、トーカを分けた時だってピスカにだけはその甘さ以上の目に見える形があった。

 失念していた、と言うか。考えたくなかったのかもしれない。

 これ以上問題が起こらないでほしいと。これ以上クラウスの周囲をかき回さないで欲しいと。

 言ってしまえばクラウスには関係のない事だ。彼ら彼女らの事情など、ここに残らないクラウスにとって瑣事だ。

 けれど、だからこそクラウスには見過ごせない。

 オーベロンからの最後の依頼を完遂するために、ブレンメ家との繋がりは強固であるべきだ。

 それを揺るがす、エメリヒのその心は許せはしない────

 考えて、それから彼のその言葉を遮ろうと足を踏み出そうとした直後。唐突に引かれた力はクラウスの手首に掛かっていた。


「……どうして?」

「いいんです。知ってましたから。その代わり一つお願いを聞いていただけませんか?」

「お願い?」

「……違いますね、お礼です。色々助けていただいたので今度はわたしが力にならせてください」


 それはクラウスが望んでいた言葉だけれども、それを武器にするのは卑怯と言う話ではなかろうか。


「明日、クラウスさんをわたしの家に招待します。お一人でいらしてください。心ばかりの歓迎を差し上げます」

「…………分かったよ。期待してる」

「嘘吐きっ」


 嘘ではない。クラウスの期待は、そのブレンメがクラウスに返してくれる恩義に対するものである事は間違いがないのだ。その形が、彼女の言っているそれと少し違うだけ。

 けれど別に難しい注文をするつもりはない。

 ただクラウスがここから去るための手段を手に入れるだけだ。

 そんな風に考えている視界の先で、クラウスが遮る事のできなかった想像が現実となる。


「…………ピスカ」

「何?」

「好きだ」

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