前奏曲
耳元で何かが囁いていた。
この頃よく聞こえて来る唸りのような声だ。
怨嗟、恐怖、後悔。そんな負の感情ばかりが何もいないはずの傍から語りかけて来る感覚。
最初は何かの空耳かと思った。けれどここには音の立つものなど殆ど存在しない。そもそも意図して音を立てようなどとは思わない。
個人的に物静かな方が性に合っているのだ。
だからこそ余計に気になった。
この身は妖精で、既に短い人間の一生ほどの時間を生きた。そろそろこの体も終わりが近いのかもしれない。幻聴とはその前触れの可能性もあるだろう。
けれど、まだ消えるわけにはいかない。
この身が抱える魂を救済するまでは、まだ逝く事は出来ない。
老いぼれの戯言だ。ただの本望だ。
だけれども、この身で成す事のできる僅かな役目。今までもそうして来た通過儀礼。
その役目を放り出して一人命を全うする事は出来ない。
これはわたしに課せられた仕事であり、科せられた戒め。
きっと前のわたしもそうしてきたはずの、種としての定め。
……あと少し。ほんの僅かの辛抱だ。そうすればこの軋むような体の異変にもきっと答えを導き出せる。
そのとき、わたしがどんな選択をするのかはまだ分からぬことだけれど。
可能な事ならば、まだ彼といたい。
わたしは彼のお陰で、この歪んだ使命を成し遂げる事ができるのだから。
出来る限り彼に感謝を伝えたいのだ。




