前奏曲
降り注ぐ夕日の光が隣に立つ彼の横顔を淡く照らす。掛けた眼鏡と灰被りな頭が彼を構成する印象の一つだなどとどうでもいい事を考える。
顔のつくりとしてはまあいい方なのだろう。近くにテオ・グライドがいるからか、比較されがちであまり目立ちはしないが。普通に見た目としては男として見る事ができる。もう少し身長が高ければ一目惚れでもしたかもしれないが。
5セミル程しか変わらない目線は、けれど見える世界が決定的に違うのだと直感で悟る。
きっと彼には私に見えていないものが見えていて、私には彼の理解できないものが見えている。それは人間も妖精も同じで、だからこそどこかで相容れないのだと。相容れないからこそ寄り添いたくなるのだと。
だったらこの気持ちもそんな迷いの一つかもしれない。
彼ならこの疑問に答えをくれる。確信のように胸を打つ感慨は鼓動を早くさせて渇きを加速させる。
頬を撫でる風が体の中から温度を掠めていって、少しだけ冷静になる。
大丈夫。彼にとっては全部損得勘定。だからこれも、変な意味では伝わらないはず。
これまで足りない頭で幾度か想像した結論は全て同じ結果へと収束した。
だから大丈夫。
「それで、呼び出しの用件は?」
惰性で交わした言葉が彼の声で意味を持つ。
問い掛けにいつも通りを装って姿勢を正す。欄干に預けた体を立て直せば数歩後ろに下がって止まった。
「クラウス」
彼を呼ぶ声が震える。
その名前はもう呼び慣れた。彼と二人でいることも許容できる。彼の思想も、共感は出来ないが理解は出来る。
ただ続く言葉の及ぼす影響に。彼に突きつける個人的な相談に。弱さを見せる事を不安に思う。
これはきっとただの友達である以上の歩み寄り…………。彼だからこそ頼む相談。言ってしまえば後には退けなくなる。嘘を吐けなくなる……。
──いや、それでもと。それだからこそと、願うのだ。
この直感はきっと私個人だけのものではないから。これはきっと彼女にも関係するけじめだから。
あの時に生まれた暗黙の溝を埋めるための第一歩なのだ。
瞳に映る景色をあの時と重ねて、やり直しを求めるように呼吸を正す。
「私を連れ去ってくれる?」




