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後奏曲
「妬けちゃうなぁ。あそこに居るのはあたしだったはずなのに」
星の散りばめられた天幕。白銀の光が降り注ぐ雑然とした大地。
煩雑な景色を眼下に眺めて、一人の少女が鉄柵に腰掛け歩くクラウスの姿をじっと見つめる。
その瞳は紅玉のように妖しく紅色に輝き、短く切り揃えられた漆黒の頭髪は闇夜を背景に同化して、彼女の存在を希薄に霞ませて行く。そんな風景の中で。異質に存在を主張する二対七色の薄翅が幻想的に少女の背で微かに震えていた。
「……最初に裏切ったのはあたしか。仕方ないっ」
独り言は風に攫われ闇の中へと消えていく。
刹那に、少女は自然な動作で鉄柵から身を投げる。
頬を撫でる風が絹のように柔らかい頭髪を幾度も弾いては到来する。
やがて訪れる頑なに存在する地表。鼻先に草木の匂いを感じつつ、漆黒の影はその姿を小さく変える。
一瞬の光の明滅。いつの間にか彼らは歩いていってしまっていて、彼女の存在に気付かない。
光が消えたその場所には小さい体躯に変わらない紅い瞳を拵えた小さく可憐で、そして何よりも妖艶な一人の妖精がいた。
「待ってるから。だから、早く────あたしを見つけて?」
呟きは、夜の帳に隠れて消えていく。




