第五十二話 決意
「戦争に行くって、ホント?!」
ドアを勢いよくあけて、お兄様の部屋に飛び込んだ。
「あぁ。そうだよ」
「そうだよって…………そんなに軽く言わないでよ!」
こっちをむいて軽く言ったお兄様にどなった。
そしたらお兄様は悲しい顔をして、困ったように笑ったの。
それから、あたしに近づいて頭を撫でた。
「ごめんね。ニコ」
「…………やくそく。……約束して。『絶対帰ってくる』って」
俯いてた顔を上げて、まっすぐに見ていった。
でも、お兄様はあいかわらず困った顔してる。
「ありがとう。でも、ごめんね。それは無理なんだ」
……どうして…………?
戦争で死ぬかもしれないんだよ?
二度と会えないかもしれないんだよ?
…………一つぐらい約束してくれてもいいじゃん!!
「ばか……お兄様のバカ! もう戦場でもどこにでも行っちゃえ!!」
そういってあたしはお兄様の部屋を飛び出し、自分のお部屋に戻って眠った。
『明日の見送りには絶対行かない』って決めて。
――翌日。
あたしは空が明るくなる少し前。
お屋敷を抜け出した。
帰ったら怒られるのは確実。
でも、少しで怒られるのを避けられたらと思って、『さんぽ。ちゃんとナイフもったよ』って置き手紙を置いて来た。
ついでに戦地に出発する人たちは日が昇ってしばらくして行くらしい。
早くから広場に集まって、別れを惜しむ人たちから聞いた。
あたしはその場所に居ずらくなって、逃げるように広場から離れ、少し前に行った丘に向かった。
当然だけど、誰もいない。
あたしは短い草が生えた地面に座る。
ここから見える広場には、さっきいた時以上に人が増えてるみたいだった。
あたしはそれをぼんやり見つめる。
そして、お日様が昇ってしばらくして、端による人たちと真ん中に集まる人でわかれた。
そろそろ行くのかな…………。
あーあ。見送りに行かないって寝る前に決めたのになぁ……。
結局、見送りに来ちゃった。
あたしは軽い後悔と、悔しさを紛らわすため、地面に生えてる草をむしる。
でもしばらくして、小さく馬の嘶きが聞こえた。
つい、あたしはそっちに目を向けた。
ちょうどお兄様が、馬に乗って先に行くウィルロットさんを追いかけるように、馬に乗って駆け出したところだった。
……ここまで来たんだから、ちゃんと見送ればよかったかな…………?
でも、それはあたしのプライドが許さない。
だから、ここから動かないんだから!
…………それはそれで癪だなぁ……。
なんかお兄様にしてやられた感があるんだよね。
「………………ちゃんと帰ってこないと、許さないんだから……」
あたしは小さくそういって、お兄様を見送った。
でも、その半年後。
戦争は大勢の犠牲者をだし、和平と言う形で幕を下ろした。
そして。
お兄様は帰ってこなかった。
後日。
お兄様の部屋から見つかった手紙。
その中にはお兄様の黒くてまっすぐな、長い髪が一房。
そして、お礼と別れと、お父様たちの行方不明の長男・ランステッドさんの行方が記された、二枚の手紙が入っていた。
この手紙の内容で、お兄様にかかわるすべての人が泣いた。
でも、あたしはとっても悲しいのに、涙は出てこなかった。
とっても苦しいのに、泣いてしまえば楽になれると分かっているのに、どうしても泣けなかった。
お父様とお母様はお屋敷で静かに泣いてた。
遺体の無いお葬式をして、何日かたってからお母様は突然泣き出すことが多くなった。
お父様は不気味なくらい落ち込んでいて、雇っていた使用人の人たちに『少しだけ家族だけにしてほしい』といった。
そのせいもあるのか、あたしとお父様、お母様の三人だけいるお屋敷は、不気味なほど静まり返っている。
ある人から、『隊長は死んだ』と聞いてから、結構立ったけど、あたしはまだ泣けないでいる。
たまに泣きそうになるけど、涙は出ない。
あたしはお兄様が死んだなんて、信じられないんだ。
ううん。
信じたくないんの……。
だって、あのお兄様だよ。
猛毒を飲んでも、六日後には目を覚ました。
だから、死んだって信じられない。
ねぇ、お兄様。
生きているの?
死んでいるの?
………………生きてて……。
お願いだから…………。
あたしはそう願い。
ふと、屋根裏部屋に置いた絵本が気になり、屋根裏部屋に向かった。
掃除をしていないせいで、ホコリがいっぱい。
でも、あたしはそれを気にせず、箱に押し込んだ不気味な絵本を手に取り。
以前文字が浮かんできたページを開いて待った。
しばらくして、初めてのとき同様に文字が浮かんできた。
――あなたの探している人は生きている。
でも、彼はとっても卑屈だ。
あなたが見つけなくてはならない。
しかし、今のあなたのでは無理だ。
もっと強くおなり。
彼を叩きのめせるぐらい、強く。
だから、私からお願いだ。
彼を見つけてあげてほしい。
私は、これだけしか言えないし、言わない。
ありがとう。さようなら。
そして、文字は消えた。
いつもなら不気味に感じるのに、その不気味な文字が心に広がって、涙があふれてきた。
だからあたしは決めた。
『お兄様を絶対に見つける』って。




