見えない腕
会話重視?
今日、白石隆史は初めてメル友に会った。
彼女、林美鈴には、両腕が無かった。
しかも、肩からばっさりと。
「あのさ……」
隆史は、飲み終わったホットコーヒーのカップを置いた。
美鈴は、静かにサラダを食べている。
フォークが宙に浮いている。
「どうなってるの?それ」
彼の声は少し震えている。
同じ喫茶店の客も、目を丸くして、彼女の方を見ている。
「前にメールしませんでした?私に両腕が無いって」
「いや、そうじゃなくって」
隆史は、平然と浮かんでいるフォークを見つめた。
それは、皿の中の野菜を刺し、彼女の口へ持っていく、という動作を続けていた。
まるで、ちゃんとフォークを握っているかのような動きだ。
「ああ、これですか。幻肢ってやつですよ」
幻肢……足を切断した人が、無いはずの部分の痛みを感じる現象……
「明らかに違うよね、それ」
「そうですか?似たようなものだと思いますが」
―絶対に違う
隆史はそう思った。
しばらく沈黙。
美鈴は、黙々とサラダを食べ続ける。
3皿
4皿
5皿
6皿
……
「食べ過ぎだよね」
隆史は呟いた。
「ベジタリアンなんですよ」
「そんな問題じゃないよね」
「私の胃袋は宇宙なんです!」
「古いよ、それ」
更に沈黙。
美鈴が10皿目を余裕で完食した時、隆史が口を開いた。
「どうして、そんな事出来るの?」
「うーん、事故で切断して、目が覚めた時には、もう出来たんですよ。
感覚もちゃんとありますし。
いまだに、腕を失った自覚が無いんですよ。
触ってみます?」
隆史は、目の前に突き出された(ような気がする)、彼女の左腕に触れてみた。
―ちゃんと腕の感覚がある。しかも暖かい。
隆史は、訝しげな表情をした。
「ひょっとして、信じていないんですか?」
美鈴は少しむくれた。
「いや、確かに信じられないけど、目の前でこうして見せられるとねぇ……
信じるしかないでしょ。
しかも、今まで俺とちゃんとメールをしていたわけだし」
「それに」
彼女は彼の言葉をさえぎった。
「隆史さんの右足だって、同じじゃないですか」
彼女は、彼の右足首……ジーンズの裾と靴の間を見つめた。
「あ、ばれてた?」
オチがワンパターンしかない気がしてきました……