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アスタリア大商会起業編 ~無知な母国を置き去りに、極寒の死地を熱で満たします~  作者: IORI


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第79話:報告を集め、人を送り、10社をつなぐ

星環暦(せいかんれき)1284年・帰魂月(きこんづき)≪第12月≫1日・光曜(こうよう)――

アスタリア大商会本部・管理部。

夜明け直後から、管理部には各商会と対象部署から確認報告が届き始めていた。

事前に配送していた指定帳簿、指定筆記具、指定インクを含む新制度に必要な一式が揃い、厳格な記録規程に従って業務を開始できる状態にあるかを確認するためだった。

「モーゲン食品卸商会、本店、アスタリア支部、対象部署すべて準備完了です」

「ハインデル商業印刷・紙工商会からも確認が入りました」

続いて、ケストラー魔導機器商会、グローヴァー建設商会、ベルナート精製素材商会、ラインフェルト運輸商会、ヴァルデン倉庫商会、フォルスター車両製作商会、シルヴァン繊維商会からも順に報告が届く。

最後の確認欄が埋まった。

アスタリア大商会を含む全10商会。

対象となる部署すべて。

この朝から、新しい記録制度が一斉に動き始めた。

なぜ指定されたものを使う必要があるのか。

それが、どのような仕組みで不正防止へつながるのか。

その核心まで、制度を扱う必要のない者へ知らせることはない。

必要なのは、決められた規程を守り、独断で運用方法を変えないことだった。

◇

同日早朝――

《アスタリア企業群小切手監査室》・臨時隔離執務区画。

この日、《アスタリア大商会・会計監査部》も正式に発足した。

監査担当28名に、《アスタリア大商会・会計監査部専属警備班》8名を加えた36名体制である。

正式な専用室はまだ完成していないため、《アスタリア企業群小切手監査室》内に設けられた隔離区画を臨時執務場所として使用する。

監査担当者が資料を扱う区域と、専属警備班が守る出入口や保管区域は明確に分けられていた。

警備担当者の役割は監査内容を読むことでも、判断することでもない。

入退室管理、証拠保全区域の警備、資料や封印物の搬送警護に限定される。

正式発足後、会計監査部が最初に処理した業務の一つは、翌月分の継続発注だった。

対象は、星環暦1285年・創光月≪第1月≫分。

月次継続費は、金貨8枚と銀貨40枚。

施行準備中は管理部が手配してきたが、今後の月次発注は会計監査部が担当し、管理部は引き続き必要物の配布や回収を含む実物管理を担う。

制度を確認する側と、実物を管理する側。

責任を一か所へ集めないまま、運用だけを確実に続ける体制へ切り替わった。

◇

同日朝――

アスタリア大商会本部・総務財務部。

宵闇月分の定例報告も通常どおり進められていた。

必要書類の照合を終え、封印を確認したうえで、王都セレスティアのギルド本部へ正式報告を発送する。

長距離《魔導熱伝導路》の建設が続いている。

新しい部署も発足した。

企業群そのものも拡大している。

だからといって、毎月行うべき通常業務が遅れてよい理由にはならない。

期限どおりに確認し、期限どおりに報告する。

それも商会の信用を支える仕事だった。

◇

同じ朝、アスタリア側の第1工区から第10工区と、ヴァルモント公爵領側の施工区間でも、宵闇月分の月次資料が封印されていた。

対象は合計11施工区間。

施工月次報告書、治癒・救護月次報告書、食事・食材月次報告書の原本を本部へ送り、各現場には控えを残す。

日々の施工日報や竣工原簿そのものは、引き続き現場で保管する。

月次資料を集める目的は、原記録を本部へ持ち去ることではない。

離れた11施工区間で起きたことを、同じ基準で横に並べるためだった。

◇

同日午前――

アスタリア大商会・技術研修施設。

66名の保守員候補が、前半30日間の修了試験を受けていた。

安全規程、設備構造、異常時対応、作業停止判断、施工記録、地盤と排水、基本的な保守知識。

単に用語を暗記しているかではない。

異常が起きた時に何を止め、どこを確認し、誰へ報告するのかまで問われる。

採点は即日行われた。

合格60名。

不合格6名。

結果を告げられた6名の一人が、悔しそうに答案へ視線を落とした。

「今日、もう一度受けることはできませんか」

研修担当者は首を横に振った。

「今日だけ答えを覚えて通ればいい試験ではありません。基本から学び直してください」

即日の再試験は認めない。

6名は、この日から新たに研修を開始する66名へ合流し、72名の班として前半30日間を最初から受講する。

試験の目的は、合格者を増やすことではない。

基本を理解していない者を、本物の工事現場へ送り込まないことだった。

◇

同日午後――

技術研修施設・出発区画。

合格した60名には、その日のうちに配属先が告げられた。

第1工区から第10工区まで、各6名。

本部から各施工責任者へ名簿が送られ、モーゲン食品卸商会にも、それぞれの工区で6名分の食事を追加するよう連絡が入る。

研修担当者は、出発前に60名へ念を押した。

「今日は工事をしません。到着したら現場責任者から安全説明を受け、宿舎、食事場所、翌朝の集合位置を確認してください。自分の判断で作業へ入ることは禁止します」

移動には早馬を使う。

遠方へ向かう者は、中継地点で馬を交換した。

近距離工区から順に到着報告が入り、夕刻には最後の連絡も届く。

「第10工区、研修生6名、全員到着しました」

60名全員の配属が完了した。

だが、施工人数が60名増えたわけではない。

彼らはまだ、現場で学ぶ立場だった。

◇

同日――

アスタリア大商会本部。

《三監査部門専用緊急連絡線》についても正式発注が行われた。

接続対象は、《アスタリア企業群監査部》、《アスタリア企業群小切手監査室》、《アスタリア大商会・会計監査部》の3部署のみ。

総額は金貨30枚。

契約時に50%となる金貨15枚を前払いする。

一般業務用の通信とは切り離し、監査上の緊急事態が発生した時に、3部署だけが直接連絡を取れる経路を確保するための設備だった。

◇

星環暦(せいかんれき)1284年・帰魂月(きこんづき)≪第12月≫2日・火曜(かよう)――

アスタリア地域内・《魔導熱伝導路》第1期100 Mi(ミーレ/100km)施工区間。

各工区へ6名ずつ入った60名が、建設実務研修を始めた。

最初から施工戦力として数えることはしない。

むしろ正規施工員が作業の手を止めて教える必要があるため、しばらくは現場側の負担が増える。

安全に歩いてよい場所、立入禁止区域、工具の扱い、資材置場、資材番号の確認、測量補助、施工順序、工事記録、排水確認、埋戻し工程を、実際の現場を使って一つずつ覚えさせていく。

「その資材は番号だけ見ない。現物と記録の両方を確認する」

「はい」

「排水溝も、掘ってあれば終わりじゃない。どこへ水が流れるかまで見るんだ」

正規施工員の指示が飛ぶ。

《魔導熱伝導路》本体の精密接続、《熱制御口》や《熱継送所》の最終調整などは専門担当者だけが行い、研修生には触れさせない。

何を覚えるべきかだけでなく、何へ手を出してはいけないかも学ばせる。

それも実地研修だった。

◇

同日――

アスタリア大商会本部。

近距離の施工区間から、前日に発送された月次報告書が届き始めた。

受領確認を終えた資料は、そのまま保管庫へ送られるのではなく、分析担当者の机へ回される。

報告書を集める目的は、棚に並べるためではない。

現場で起きたことを、次に何をするかへ変えるためだった。

◇

《アスタリア企業群小切手監査室》では、《アスタリア大商会・会計監査部》専用室の工事も始まった。

施工のために監査情報を外へ晒してはならない。

必要な資料は事前に移動し、保管場所を施錠し、封印すべきものは封印する。

移動できないものは完全に遮蔽し、工事担当者が立ち入れる区域そのものを制限した。

工事担当者に必要なのは壁や設備の位置であって、監査対象の内容ではない。

専用室を造るために、監査そのものの安全性を下げることはしなかった。

◇

星環暦(せいかんれき)1284年・帰魂月(きこんづき)≪第12月≫3日・風曜(ふうよう)――

アスタリア大商会本部・監査関連区画。

《三監査部門専用緊急連絡線》の施工日を迎えた。

工事開始前に、《アスタリア企業群監査部》、《アスタリア企業群小切手監査室》、《アスタリア大商会・会計監査部》は、工事区域に関係する業務を一時停止した。

監査資料、帳簿、調査資料、録音記録、証拠類は金庫や保管庫へ収納し、移動できないものは完全に遮蔽する。

施工担当者に認められたのは、通信設備工事に必要な範囲へ立ち入ることだけだった。

工事は外部へ委託せず、アスタリア大商会自身が施工する。

接続作業が終わると、すぐに機能試験へ移った。

1対1通信、3部署同時通信、高度暗号化、各部署での独立録音、緊急遮断、不正接続検知までを一つずつ確認する。

「《アスタリア企業群監査部》から会計監査部への接続、正常です」

「3部署同時通信、正常」

「独立録音、3系統とも記録されています」

最後に不正接続を想定した試験を行い、警告と遮断が正常に作動することも確認された。

検収完了。

《三監査部門専用緊急連絡線》は、この日から正式運用へ入る。

残額の金貨15枚も支払われ、総額金貨30枚の決済が完了した。

◇

同日午後――

アスタリア大商会本部・工事管理室。

遠方からの月次資料も届き、11施工区間の報告が揃い始めていた。

シェリィが求めたのは、11の報告書を一冊ずつ順番に読んで終えることではない。

同じ項目を横へ並べることだった。

累積施工距離、宵闇月中の施工量、地盤、湧水、排水修正、作業停止、天候、工具故障、資材使用量、手直し、土系魔法士導入後の変化を、施工区間ごとに比較していく。

すると、施工距離だけを見ていた時には分からなかった違いが浮かび上がった。

ある工区では、他工区より施工速度が低い。

しかし同じ工区では、湧水の報告が多く、排水修正の回数も多かった。

地盤報告にも、水分を多く含む土が続いていると記録されている。

シェリィは施工距離の欄ではなく、湧水と地盤の記録を見た。

「施工員が遅い、で終わらせるのは早いですね」

施工担当者が資料を重ねる。

「水そのものが工程を止めている可能性があります」

「なら、人を増やす前に原因を調べてください。水系魔法士に現地を見てもらう価値があるか、技術側で検討しましょう」

遅いから人を増やす。

その順番にはしない。

なぜ遅いのかを確かめ、その原因に合った対策を選ぶ。

本部へ情報を集める意味は、そこにあった。

◇

治癒・救護月次報告書も同じように比較された。

負傷した場所、内容、原因、治療方法、休業の有無、勤務へ戻るまでの時間、医師へ依頼した事例までを工区ごとに確認する。

本部が見るのは、単なる治療人数だけではない。

シェリィは報告書の一部を指した。

「治癒魔法士が到着するまでの時間も比較してください」

現在、アスタリア側100 Miには50 Miごとに1名、合計2名の治癒魔法士を配置している。

治療人数が少ないから十分とは限らない。

必要な時に到着するまで長時間を要しているなら、配置間隔そのものを見直す必要がある。

「医師へ依頼する事例が増えるなら、医師の巡回や常駐も検討対象に入れましょう」

治癒魔法士を配置した時点で、安全体制が完成したことにはしない。

実際の記録を使って、配置そのものを評価する。

◇

食事・食材月次報告書にも工区差が表れていた。

人数、配送量、実際の消費量、追加注文、残量、保存食使用、不足、廃棄を比較すると、同じ人数が働いている工区でも必要量は完全には一致していない。

肉体負荷の大きな作業が続いた工区では消費量が多く、反対に余剰が続いている工区もあった。

「同じ人数だから、同じ量を届ければいいわけではないんですね」

シェリィの言葉に、食事管理担当者が頷いた。

モーゲン食品卸商会と調整し、次回配送から工区ごとの供給量を補正する。

各工区へ加わった研修生6名についても、現在は人数分を単純に追加しているが、実際の消費記録が蓄積された後は、それに合わせて調整していく。

人数は必要量を考える出発点になる。

しかし、実績が出た後まで人数だけを見続ける理由はなかった。

◇

星環暦(せいかんれき)1284年・帰魂月(きこんづき)≪第12月≫4日・水曜(すいよう)――

アスタリア大商会本部・会議室。

施工、治癒、食事、資材を担当する者たちが、それぞれの分析結果を持ち寄った。

シェリィはすべてを自分一人で計算しようとはしない。

専門担当者が整理した資料を見ながら、違いが出ている場所の理由を尋ねる。

「この工区だけ施工量が違うのはなぜですか」

次の資料を見る。

「怪我が多い場所と、作業内容は一致していますか」

さらに食事報告へ目を移した。

「こちらの工区で消費量が多いのは、人数だけで説明できますか」

答えが出ていないものを、その場で無理に結論へ変えることはしない。

専門魔法士による現地調査、資材補充、車両整備、排水改善、食事量変更、治癒体制の見直しなど、必要になる可能性がある対策を整理し、何を先に確認すべきかを決める。

報告書は、提出された瞬間に役目を終える紙ではない。

現場で起きたことを、次の行動へ変えるための材料だった。

◇

星環暦(せいかんれき)1284年・帰魂月(きこんづき)≪第12月≫5日・土曜(どよう)――

アスタリア地域内・《魔導熱伝導路》第1期施工区間。

建設実務研修は4日目を迎えた。

60名の研修生は、まだ独立して施工を任される段階ではない。

それでも、初日とは動きが変わっていた。

資材運搬、数量確認、記録補助、埋戻し補助、安全確認など、繰り返し経験した基本作業なら、正規施工員が一から説明しなくても準備できるようになり始めている。

第3工区の施工責任者は、日報へ評価を残した。

「最初の数日は、教える側の負担が大きかった。しかし、ようやく任せられる基本作業が増えてきた」

まだ60名を正規施工要員として数えることはしない。

施工速度への寄与も小さい。

それでも、教えられるだけだった者たちは、少しずつ現場を支える側へ変わり始めていた。

◇

同日――

アスタリア大商会本部・通信設備管理室。

長期間にわたって施工を進めてきた《アスタリア企業群専用魔導通信網》について、全施工完了の報告が届いた。

接続拠点は、アスタリア大商会本部、9子商会本店、9か所のアスタリア支部、22か所の常設業務拠点。

合計41拠点。

設備を設置する工事そのものは、これですべて終わった。

ただし、まだ正式完成とはしない。

この日は仮検収までとし、それぞれの接続状態と翌日の総合試験へ進める条件が揃っているかを確認する。

41拠点ある以上、一つの設備が正常に動いたからといって、全体まで正常とは判断できない。

最後に必要なのは、41拠点すべてを使った試験だった。

◇

星環暦(せいかんれき)1284年・帰魂月(きこんづき)≪第12月≫6日・闇曜(あんよう)――

アスタリア地域内・《魔導熱伝導路》第1期施工区間。

実務研修5日目。

各工区へ6名ずつ入った研修生たちは、資材準備、数量照合、安全確認、記録補助、排水確認、埋戻し確認など、習熟した範囲については実質的な補助戦力になり始めていた。

「次の資材、数量確認まで終わっています」

「記録用の準備もできています」

初日のように、一つずつ指示されなければ動けない状態から少しずつ抜けつつある。

それでも精密工程には入らせず、単独判断も認めない。

施工速度を大きく押し上げるほどの戦力になるのは、まだこれからだった。

◇

同日午後――

アスタリア大商会本部・工事管理室。

帰魂月1日から6日までの施工実績も集計された。

研修生60名が現場へ入ったとはいえ、まだ彼らを本格的な施工戦力として施工量へ織り込む段階ではない。

それでも、通常施工要員140名と土系魔法士30名による既存の170名体制は止まらず、各工区の施工は続いていた。

帰魂月1日~6日のアスタリア側施工実績

工区          宵闇月30日終了時点・帰魂月1日~6日の施工距離・帰魂月6日終了時点

第1工区(第1期・第1工区)  6.9 Mi +1.3 Mi   8.2 Mi

第2工区(第1期・第2工区)  5.5 Mi +1.2 Mi   6.7 Mi

第3工区(第1期・第3工区)  5.3 Mi +1.2 Mi   6.5 Mi

第4工区(第1期・第4工区)  4.7 Mi +1.1 Mi   5.8 Mi

第5工区(第1期・第5工区)  5.4 Mi +1.2 Mi   6.6 Mi

第6工区(第1期・第6工区)  4.5 Mi +1.0 Mi   5.5 Mi

第7工区(第1期・第7工区)  4.6 Mi +1.0 Mi   5.6 Mi

第8工区(第1期・第8工区)  3.9 Mi +0.9 Mi   4.8 Mi

第9工区(第1期・第9工区)  5.2 Mi +1.2 Mi   6.4 Mi

第10工区(第1期・第10工区)4.0 Mi   +0.9 Mi   4.9 Mi

合計               50.0 Mi+11.0 Mi 61.0 Mi



第1期100 Miの累積施工距離は、50.0 Miから61.0 Miへ伸びた。

ただし、61.0 Miの《魔導熱伝導路》が一本の連続した路線として完成したわけではない。

これは、第1工区から第10工区まで、それぞれ別の位置で進んでいる施工距離を合計した数字である。

その中でも第1工区は8.2 Miまで進んだ。

担当する10 Miの完成まで、残り1.8 Mi。

最初に完成する工区が、はっきり見え始めていた。

◇

ヴァルモント公爵領側の月初施工も、慎重な速度を維持していた。

帰魂月1日~6日のヴァルモント公爵領側施工実績

区分宵闇月30日終了時点帰魂月1日~6日の施工距離帰魂月6日終了時点

公爵領側・第1期約10 Mi3.4 Mi+0.6 Mi4.0 Mi


公爵領側は4.0 Mi。

未知の地盤や道路条件を確認しながら進める以上、アスタリア側と同じ速度を求めることはしない。

知っている土地では速く。

知らない土地では慎重に。

その原則は変わっていなかった。

◇

同日――

アスタリア大商会本部・通信設備管理室。

41拠点を対象とした総合通信試験が始まった。

送信、受信、認証、暗号化、宛先確認、通信記録、障害発生時の遮断、予備系統への切替までを、接続先を変えながら一つずつ確認していく。

アスタリア大商会本部と、ケストラー魔導機器商会、グローヴァー建設商会、ベルナート精製素材商会、ラインフェルト運輸商会、ヴァルデン倉庫商会、フォルスター車両製作商会、ハインデル商業印刷・紙工商会、モーゲン食品卸商会、シルヴァン繊維商会の各本店。

そこから、それぞれのアスタリア支部。

さらに倉庫、工房、物流拠点など22か所の常設業務拠点。

一つの試験が終わるたび、確認欄が埋まっていく。

「第32接続拠点、認証正常です」

「第37接続拠点、予備系統への切替正常」

やがて最後の報告が入った。

「第41接続拠点、送受信ともに正常です」

41拠点。

全系統正常。

《アスタリア企業群専用魔導通信網》は、星環暦(せいかんれき)1284年・帰魂月(きこんづき)1284年・帰魂月6日・闇曜をもって正式完成となった。

検収も完了する。

アスタリア大商会は、基幹網の未払残額である金貨111枚と銀貨50枚を支払った。

9子商会も、それぞれの負担分として、本店からアスタリア支部までの未払残額合計金貨86枚、各支部から常設業務拠点までの未払残額合計金貨93枚と銀貨85枚を精算した。

企業群全体で、この日に支払われた最終残額は金貨291枚と銀貨35枚。

これで、《アスタリア企業群専用魔導通信網》に関する契約代金はすべて決済された。

◇

同日夕刻――

アスタリア大商会本部・シェリィ執務室。

机には、この6日間で集まった月次報告書が並んでいた。

工事、負傷、食事、資材、天候、地盤。

そして、最新の施工実績。

第1期100 Mi。

累積61.0 Mi。

少し前まで、離れた現場で何が起きているのかを詳しく知ろうとすれば、現場で作られた書類が本部へ届くまで待たなければならなかった。

紙の記録が不要になるわけではない。

原本を残す意味も変わらない。

けれど、今日からはそれだけではなくなる。

シェリィの前には、正式運用を開始したばかりの《アスタリア企業群専用魔導通信網》があった。

アスタリア大商会と9子商会は、法的にはそれぞれ独立した商会である。

帳簿も契約も経営責任も、それぞれが持つ。

それでも、必要な情報を安全に、速く、同じ通信網の上で交換できるようになった。

シェリィは9子商会への同時接続を開いた。

短い待機の後、通信が成立する。

「こちら、アスタリア大商会です。全商会、応答をお願いします」

最初に返答したのは、ケストラー魔導機器商会だった。

「ケストラー魔導機器商会、受信しています」

続いて、グローヴァー建設商会。

「グローヴァー建設商会、接続正常です」

ベルナート精製素材商会。

ラインフェルト運輸商会。

ヴァルデン倉庫商会。

フォルスター車両製作商会。

ハインデル商業印刷・紙工商会。

モーゲン食品卸商会。

そして、シルヴァン繊維商会。

9商会すべての応答が揃った。

シェリィは並んだ接続表示を見つめた。

月初に報告を集めた。

その報告を重ね、数字の違いから原因を探した。

人を現場へ送り、学ばせた。

監査を支える経路も造った。

工事そのものも、100 Miのうち累積61.0 Miまで進んだ。

そして今、離れた場所にある10商会が同じ情報網の上でつながっている。

会社そのものを一つにしたわけではない。

独立した商会を、命令だけで縛ったわけでもない。

必要な情報が、必要な場所へ届く道を造った。

シェリィは9商会の応答を確認し、静かに告げた。

「全商会の接続を確認しました。これより正式運用へ移行します」

その瞬間、10商会は初めて、同じ情報網の上で動ける《アスタリア企業群》になった。

お読みいただきありがとうございます。

月初に集まった施工、治癒、食事などの報告を施工区間ごとに比較することで、単純な数字の差だけではなく、その原因を探る管理が本格的に始まりました。

前半研修を通過した60名も各工区へ配属され、まだ正式な施工要員ではないものの、現場で基本作業を学びながら少しずつ補助戦力へ変わり始めています。

アスタリア側第1期100 Miの累積施工距離も61.0 Miとなり、第1工区は8.2 Miまで到達しました。ただし61.0 Miは10工区の施工距離を合計した数字であり、連続した61 Miが完成したという意味ではありません。

また、《アスタリア大商会・会計監査部》が正式発足し、《三監査部門専用緊急連絡線》も運用を開始しました。

そして41拠点を結ぶ《アスタリア企業群専用魔導通信網》が正式完成し、アスタリア大商会と9子商会は、それぞれ独立した商会のまま、初めて同じ情報網の上で動けるようになりました。


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