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第四話

夜明け前。


「さあ、急ぐぞー! 今からパパと三人で、秘密の探検に出発だ!」


引きつる頬を必死に持ち上げ、俺は極限まで明るい声を絞り出した。

額から流れ落ちる冷たい脂汗が目に入るが、拭う余裕すらない。心臓が早鐘のように鳴り、荷物を掴む手は痙攣するように震えていた。


「探検? わあ、いくいく!」

「パパといっしょ!」


眠い目をこすりながらも、ルカとトアは嬉しそうに頷いてくれた。

大丈夫だ。マスターキーはすでに俺の生体チップの中にある。この扉を開けて宇宙港へ向かえば、この地獄から抜け出せる。

震える指を、冷たいドアノブへ伸ばした。

その時だった。



――時間を少しだけ巻き戻す。


数時間前の深夜、薄暗い寝室。甘い香水が充満するベッドの上で、マニャは通信端末に甘い声を落としていた。


『ねえ司令官。あやつ、絶対におかしいぺん。無理に笑ってたけど、汗びっしょりで手がブルブル震えてたの。キモいぺん』


画面の向こうで、レオンが鼻で笑う。


『逃げる気か、何か嗅ぎつけたかだな。面倒だ、今夜のうちに憲兵を動かして「処理」しよう』


『本当!? やったあ!』

マニャはベッドの上で歓喜の声を上げた。


『これでやっと、私の人生にぶら下がってる「寄生虫」を駆除できるぺん! あいつもガキ共も、私の若さと美貌を吸い取って老けさせるだけの薄汚いヒルだったから、せいせいするわ!』


彼女にとって家族とは、愛する対象でもなんでもない。自身の完璧な人生を汚す、目障りな害虫でしかなかったのだ。



ドガアアアァァァンッ!!


俺の指がノブに触れる直前、鼓膜を破る凄まじい轟音とともに、重厚な玄関の扉が外側から吹き飛ばされた。

爆煙が晴れる前に、重武装した憲兵隊が雪崩れ込んでくる。無数の冷たい銃口が、俺と子供たちに突きつけられた。


「ひっ!?」

「きゃあああっ!」


泣き叫ぶルカとトアをかばうように抱きしめた俺の前に、優雅な足取りで二つの影が現れる。

総司令官レオンと、冷たい眼差しをしたマニャだった。


「英雄の機体に破壊工作を仕掛け、国家を転覆させようとした極悪非道なテロリストめ。確保しろ」


レオンが冷酷に言い放つ。

罠だ。俺が無理に明るく振る舞ったあの異常な震えから、すべてを察知して先手を打たれていたのだ。



鼓膜が破れるようなものすごい音がして、怖い兵隊さんたちがいっぱい入ってきた。

パパが震えながら、私とトアをぎゅっと抱きしめてかばってくれた。


「ママ! 助けて!」


私は、奥から歩いてきたママにすがりつこうとした。

大好きな、きらきらしたママ。

パパがいつも「ママはすごいんだぞ」って褒めていたママ。

でも、ママの顔を見た瞬間、私はすっと血の気が引いた。

ママは、テレビの向こうで歌っている時みたいな、完璧で、きれいで、優しい微笑みを浮かべていた。


「かわいそうなルカ、トア。パパはね、悪いことをしたから遠くのお星さまに行かなくちゃいけないの。でも安心して、ママはずっとあなたたちを愛しているわ」


優しくて、甘い声だった。

でも、私たちがすがりつこうと伸ばした手には、ドレスが汚れるのを避けるように、絶対に触れようとしなかった。


きれいに弧を描いた唇とは裏腹に、その目はガラス玉みたいに冷たくて、私たちのことなんてこれっぽっちも映っていなかった。


むせ返るような強い香水の匂いがした。私の知っている、優しい「ママ」の匂いじゃなかった。


言葉の難しい意味はわからなくても、私とトアは本能で理解してしまった。


目の前にいるのは、私たちのママじゃない。


「かわいそうな子供を愛する、かわいそうな私」に酔いしれて、私たちがパパから引き剥がされるのを心の底から楽しんでいる、全く知らない「誰か」だ。


「いやだぁっ! パパぁっ!」


兵隊さんたちに乱暴に腕を引かれ、パパから引き剥がされる。


完璧な笑顔のまま、その「知らない人」は、ふふっ、と楽しそうに笑っていた。

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