第三十三章 泳がせる理由
報告は簡潔だった。女が動いている。港の外、喫茶店、古い人脈への接触。名前は不明だが、顔は一致する。
鷹宮は資料を閉じた。予想より早い。ノートを失った人間は、必ず焦る。焦りは線を浮かび上がらせる。
「止めますか」
部下が聞く。
「まだだ」
泳がせる。理由は二つある。
一つ目。彼女が見ている構造が、どこまで深いかを知るため。中途半端な告発者は使えない。だが、深部まで見ているなら、処理するには早すぎる。
二つ目。自分の名前が、どこまで彼女の頭に残っているかを確かめるため。
港の整理は進んでいた。下請けが一社、事故で消える。クレーンの誤作動。公式には労災。現場はきれいだった。
整理は、音を立てない。
桐島から短い連絡が入る。
「余計な血は出すな」
了解とも命令ともつかない言葉。
夜、鷹宮は車を出した。港を離れ、街に入る。女が選びそうな場所は限られている。正義感のある人間は、必ず似た動線を辿る。
彼は、まだ会う気はない。ただ、距離を測る。
誤認の上を歩いている相手は、必ず自分から近づいてくる。
その時、処理か、交渉かを決めればいい。




