第二十八章 切り捨て会議
会議の名目は「事業整理」だった。言葉は中立だ。だが、整理されるのは事業ではなく、人だと、玲奈は入室した瞬間に理解した。
円卓の席順が変わっている。発言力のある者が中央に寄り、名前が消えかけている者ほど端に追いやられる。玲奈の席は、いつの間にか出入口に一番近い位置だった。いつでも退席できる。つまり、いつでも外せる。
代表が資料を読み上げる。助成金の見直し、協賛企業の要望、リスク管理。どれも正しい。正しすぎて、反論の余地がない。
「最近、個人名が前に出すぎているケースがある」
視線が一斉に玲奈に集まるが、誰も名指ししない。名指ししないことで、議事録に残らない。
「団体としては、顔を一つに絞った方が安全だ」
安全。その言葉で、議論は終わる。
若いスタッフが小さく手を挙げた。
「でも、現場の声を集めていたのは……」
代表が被せる。
「評価している。ただ、今はフェーズが違う」
フェーズ。便利な言葉だ。いつでも人を切れる。
決定は拍手で承認された。反対はなかった。反対しないことが、自己防衛になる。
会議後、廊下で声をかけられる。
「しばらく、表に出ない方がいい」
忠告の形をした指示。
外に出ると、蒼浜の風が強かった。港の匂いが街まで届く。
玲奈はスマートフォンを取り出し、連絡先を整理した。団体のグループチャットから、自分の名前が消えている。退会通知はない。だが、発言できない。
夜、古いノートを開く。これまで集めた証言、金の流れ、名前。点と点が、線になり始めている。
誰がフロントで、誰が裏か。どこで暴力団が噛み、どこで行政が目を逸らしたか。
玲奈は決めた。もう、団体の名は使わない。
個人で動く。名前を消されたなら、影で動くしかない。
最後にノートの余白に書いた。
『蒼浜港 第三埠頭』
場所が、次の一手だった。




