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幼馴染みは異世界で100年生きて、孫に想いを託した   作者:


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3/5

第3話「時間の証明」

どれくらい、そうしていただろうか。

嗚咽はとうに枯れ、床に突っ伏したまま、私は長い沈黙の中にいた。


異世界。百年。死。

信じられるはずのない言葉の数々が、アキラの手紙によって、否定できない事実となって心に重くのしかかる。


目の前には、その百年を生きた男の血を引く、アキラそっくりの少年がいる。

これが、現実。


その沈黙を破ったのは、カイだった。

「…じいちゃんの名誉のために言っておくが」

ぽつりと、彼が呟く。


「ばあちゃんには、結婚前に全て話したそうだ。日本のことも、あんたのことも。それを全部知った上で、ばあちゃんは生涯じいちゃんを支えた。…まあ、すごい人だったぜ」

その言葉は、アキラが異世界で孤独ではなかったという、小さな救いになった。


けれど、カイは続けた。

「それに、じいちゃんの伝言はまだ終わりじゃねえ」

カイは革のポーチから、一つの紙袋を取り出してテーブルに置いた。

それを見て、私は息を呑んだ。


数時間前、アキラが手にしていた、あの紙袋だ。

水色のリボン、可愛らしい包装紙。

――だが、その姿はあまりにも変わり果てていた。

リボンは色褪せて千切れ、包装紙は茶色く変色し、まるで古代の出土品のように脆く見える。

百年という時間が、目に見える形でそこにあった。


「これ……」

触れたら崩れてしまいそうで、指を伸ばせない。

「じいちゃんが、この紙袋ごと保存魔法をかけ続けてたんだ」

カイが静かに言う。


「けど、百年って時間は、魔法でも完全に縛ることはできねえ。これが限界だったらしい」

カイは、その脆い紙袋を、まるで宝物に触れるように慎重に開いた。

息を止めて見つめる私の前で、中から現れたのは、色褪せた薄紙に包まれた小さな何か。

カイがそっと薄紙を開くと――その瞬間、部屋の空気が変わった。

銀のチェーンが、澄んだ輝きを放っていた。


朽ち果てた包装とはあまりに対照的に、一本のネックレスだけが、まるで昨日作られたかのように煌めいている。

繊細なチェーンに繋がれた三日月のモチーフ。

中央には、夜空の色を閉じ込めたような青い石。

一ヶ月前、私が雑誌を見て「綺麗だな」と呟いた、あのネックレス。


カイが、遠い目をして言った。

「ガキの頃、よく見た光景がある。月に一度、じいちゃんがこの紙袋を取り出して、祈るように両手で包み込むんだ。泣きそうな顔で、震える手で、新しい保存魔法をかけ直してた。まるで、世界で一番大事な宝物を守る、神聖な儀式みたいだった」

その言葉が、私の胸を抉る。


アキラが、一人で。


私の知らない場所で。


私の知らない長い時間の中で、たった一人、このネックレスを握りしめていた。


「じいちゃんが、あんたの誕生日に渡そうとしてたやつだ」

ああ、そうか。

全部、本当だったんだ。


アキラは、私の目の前から消えて。

遠い世界で、百年近くも生きて。

その間、ずっと――ずっと、私のことを忘れずにいてくれて。

そして、死んだ。


一粒、涙がテーブルに落ちた。

それを合図にしたかのように、感情の堰が再び決壊する。


「うそ……なんで……アキラ……っ!」

嗚咽しながら、私は震える指で、そっとネックレスに触れた。


ひんやりとした金属の感触。

それは、数時間前に失ったはずの、彼の優しさそのもののようだった。


耐えきれず、テーブルに突っ伏して泣きじゃくる。

カイは、何も言わずにただ待っていた。


やがて、顔を上げると、カイがネックレスを手に取っていた。

「……首、出せ」

ぶっきらぼうな声に、私は小さく頷く。


彼の指先が首筋に触れ、冷たいチェーンが肌を滑る。

カチリ、と小さな留め金の音がした。


三日月のモチーフが、鎖骨の窪みに収まる。

冷たいのに、不思議と温かい。


「……似合ってる」

カイが、照れくさそうに視線を逸らした。

その仕草が、あまりにもアキラに似ていて。


私は、もう声にならない涙を、静かに流した。




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