初任務
「で? 今日は何をすればいいんだよマリナス」
「今日は外道な錬金術師ザイガーの抹殺よ」
「へー潔白な騎士様が殺しとは怖いね」
「……喧嘩を売っているの?」
「別に? 喧嘩を売ってねぇよただの騎士もそういう仕事するんだなって思っただけ」
ウォーカーは真面目に会議するマリナスを挑発しながら話を聞く。
周りを見てみるとトラバースとハーティの姿がない事に気がついた。
「なぁハーティとトラバースがいないように思うんだが?」
「……二人は別任務中。 エイザールさんが補佐として連れて行きたいって言ったからいないのよ」
眉を顰めながらマリナスは深いため息を吐いた。
「で、俺とコンビを組むと」
「……はぁこれだと先が思いやられるわ」
「俺は楽しいぜ」
「……本当に気楽そうね。 あ、それとあなたの端末出して」
「えっ? なんで?」
「連絡を交換しておきたいのほらさっさと出す!」
「はいはい」
端末を出す事を催促されてウォーカーは渋々自身の端末を取り出す。
「よし、連絡の交換はいいわね。 これでちゃんと別れてしまっても合流出来るわ」
「はいはいよかったですね」
「……いちいち茶々を入れないの」
「い、痛い! 耳が痛い! 痛いから!?」
ウォーカーはマリナスに耳を引っ張られながら騎士団本部を抜け出した。
「で、どこにその錬金術師がいるんだよ?」
「スピリナ王国の東側ににあるゼロライド帝国付近にある大きな屋敷があるみたいなの行くわよ」
「行くって何で?」
「馬車に決まっているじゃない」
「……箒の方が良くない?」
「箒だと魔力喰うでしょ? ほらさっさと行くわよ!」
「へいへい」
こうしてウォーカーとマリナスは一週間掛けてゼロライド帝国付近にある屋敷へと向かった。
「……長旅疲れた」
「……これで疲れるってあなたの感性どうなっているの? もう冒険者の荷物運びとして仕事していたんでしょ? もう少し体力あるんじゃないの?」
「俺を体力の化け物と勘違いしたら大間違いだぜ? なんせ引きこもりなもんでな」
「なにそれ」
ウォーカーのジョークに白目を向けながらマリナスは歩くスピードを早めていく。
「おい待ってくれよ! はやすぎんだろ!?」
「あなたが遅いのよ」
ウォーカーのペースも気にせずマリナスがどんどん前へと向かってしまう。
このままではウォーカーの体力がなくなってしまう。
そう内心考えながらウォーカーは裏技を使う事にした。
「へっ、体力無駄に使ってられるかってんだ」
「えっ?」
ウォーカーは腕を伸ばすとマリナスの足元に魔法陣が現れた。
「ちょ、何をするつもりあなた!? ま、まさか私を消そうとして!?」
マリナスの体が段々と粒子となっていき狼狽えた表情を見せた。
「そうだよ。 バイバーイ」
「お、お前ぇぇぇぇぇ!!」
その様子にウォーカーは軽薄な笑みを見せて笑うとマリナスの憎悪の表情を向けて来たがウォーカーはそんな事を気にせずにマリナスの消滅を見届けた。
「さてと冗談はさておき転移っと」
そう言ってウォーカーは転移を発動してそのままザイガーの屋敷前まで転移した。
「……言い残したい事はあるかしら?」
「あーごめんなさい。 冗談が過ぎました許してください」
「許さない!」
ウォーカーが転移すると激情を滾らしたマリナスがおり、剣を二本持って立ち塞がっていた。
「えっ? 俺殺されるの? マジでえっ?」
ウォーカーがそんな間抜けた事を言うと既にマリナスがウォーカーの目の前にいた。
「甘いわね」
「へ?」
ウォーカーの事を斬ると思って身構えていたが実際に刃は来ず、空を斬っていた。
「えっ? マリナス?」
「背後を見なさい」
「えっ?」
マリナスに言われて背後を見ると銃火器を持った男が立っていた。
「囲まれているわ! 逃げて!」
マリナスがそう言うと全方向から銃火器の雨がマリナスとウォーカーを襲った。
「あっ、しん」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ウォーカーは目の前の光景に死を悟ったがマリナスが無理やり前に出て二刀の剣で全ての銃を斬り落としていくが体のあちこちに擦り傷が出た。
「おいマリナス!」
「突っ込むわ!」
「はっ!?」
マリナスがそう言うと本当に銃火器を持った集団に突撃して、そのまま破竹の勢いで集団を斬り殺していった。
その光景をウォーカーは呆然と見てることしか出来なかった。
「さぁウォーカー。 屋敷に行くわよ」
「……えーと強すぎません? マリナスさん」
「あら? 私の実力に気がついたかしら? もっと褒めてもいいのよ?」
「あ、あれ? あれれ?」
ウォーカーはマリナスを見て固まる。
どこか幼さを感じたのだ。
さっきまでの大人ぽく真面目ぶった顔はどこへやら今のマリナスはもっと褒めて欲しいとせがむ子供のように感じた。
「はいはいすごいすご……い」
そう唖然としながらウォーカーはパチパチと手を叩く他になかった。
今のマリナスは何処か繊細で壊れそうな表情をしていたからだ。
「さぁ行くわよ」
「お、おう」
そう言いながらウォーカーとマリナスはザイガーの屋敷へと足を踏み入れた。
「ようこそ騎士団の少女と少年」
「あなたがザイガーね?」
「あぁそうだともマリナスさんや」
ウォーカー達が足を踏み入れると髭を生やした男が立っており、ウォーカーとマリナスを見ていた。
「じゃがちとダメじゃな。 お前さん達若すぎるじゃろ。 奇襲をかけられてすぐ終わるとは」
「え?」
いきなり銃声が聞こえてウォーカーが瞬きをして隣を見てみるとマリナスの体が蜂の巣となって地面に倒れていた。