簡単な仕事
「今日もありがとうねウォーカー」
「いえいえどういたしまして」
今日も冒険を終えて、白髪に金色の瞳が目立つ荷物運びをする少年ウォーカーが冒険者から礼を言われて笑顔を浮かべて頭を下げた。
「あ、これ今日の報酬の三千ポイントね」
「ありがとうございます」
ウォーカーの端末と相手冒険者の端末が重なり、ウォーカーの所持ポイントが増えた。
「またよろしくね!」
「はい。 ありがとうございます!」
ウォーカーは今日の分の荷物運びの仕事を終えてそのままフラフラと歩く。
「……もう少しポイント欲しかったなぁ」
ウォーカーは誰も来ない事を確認すると端末を弄りながら自身の所持ポイント数を確認する。
「……一万ポイントかぁ今の俺の所持金」
ポイントというのはこの世界であるナノドリの共通資金の事である。
人々はこのポイントを使って食品や衣類、武具や家などを買う。
「……今月は備蓄たくさん買っちゃったからなぁ。 夜の仕事ないかなぁ? まぁ食料たくさんあるからいいんだけどね」
そんな事を言いながらウォーカーは手元にある荷物を空間魔法で消した。
「さてと誰もいないか?」
ウォーカーはフードを被り誰もいない路地裏に入ると壁に手をかざして赤い穴を作りそのまま入って行くと赤い穴は自然と閉じていった。
「……さてと昼の仕事も終わったし。 ゆっくりするかぁ」
そう言いながらウォーカーは赤い絨毯の上を歩いていた。
既に街並みはなく、まるで屋敷のような空間にウォーカーは立っていた。
この屋敷はウォーカーの魔法で作られた異次元空間の隠れ家だ。
ウォーカーは空間魔法の使い手であり、自分の行った事のある場所へ転移したり、この屋敷のような空間に武器やベット、薬、人、銃火器や魔石など様々な物を入れる事が出来る。
ただし空間魔法で人を傷つける事は出来ないのが辛い所だ。
「はーあ。 どうしようかねぇ」
ウォーカーはベットを椅子代わりにして座り足をバタバタさせながら干し肉を頬張る。
「……つまんねぇなぁ。 俺の人生」
干し肉を食べ終えた後ウォーカーはベットの上で大の字になりながらそう呟いた。
するとピロリンと音がなって端末を見ると闇の仕事内容がびっしりと書いてあった。
「……おっ! 弱小ギャングの部下殺すだけで一万ポイント!? いいな! やろう!」
良さそうな仕事を発見し嬉しい声を上げながらウォーカーは仕事の準備に取り掛かった。
「さてと? 獲物は?」
ウォーカーは荷物運びの格好から暗殺者のような格好に着替え、ビルの上に立っていた。
「うーんと写真写真」
そう言いながら端末をスワイプして写真を確認。
「お! 発見!」
空間魔法で望遠鏡を取り出して相手を確認し、そのままウォーカーは屋根の上を走ってそのまま地面に着地そして小走りで標的に近づいた。
「ハローギャングの皆さん! こんにちは!」
「なんだてめ!」
「はいはい黙ってくれない? 俺早く金が欲しいの」
そう言いながらウォーカーは空間魔法で銃を手に召喚してそのままギャングを銃殺。
「て、テメェ!!」
仲間を殺された男達が銃やら剣やらを抜いてウォーカーに襲いかかってきた。
「はいはい。 分かってますよっと!」
そう言いながらウォーカーは銃を空間に入れ戻し、ナイフを空間魔法で召喚。
そのまま男達の首を斬って殺す。
「フレイム!」
「あぁ魔法使いもいたんだ。 珍しいね」
フードを被った魔法使いを見ながら呑気な声を上げてウォーカーはナイフで魔法を一線し、そのままナイフを投擲して魔法使いの命を奪う。
「あ、あぁぁぁぁ!? な、なんだよテメェ!?」
「俺? ただのポイントが欲しいだけの人間」
仲間が死んだ現実に男が驚いているとウォーカーは淡々と答えた。
「ぽ、ポイント? か、金が欲しいのか!? わ、分かった! や、やる! ポイントやるから命だけは奪わないでくれ!」
「あ、そうなの? やった! じゃあくれよ」
そう言ってウォーカーはポケットから端末を取り出してギャングの端末と重ねた。
すると一万だったポイントは二万ポイントに増えていた。
「こ、これで命は!」
「……じゃあな」
そう言ってウォーカーは空間魔法で召喚した剣でギャングの胸を刺して命を奪った。
「よし、仕事終わり! えーとポイントは増えたかな?」
そう言いながら端末をスワイプしてポイントが増えているか確認するとウォーカーの所持ポイント数が二万から一万増えて合計三万ポイントになっていた。
「あーあもっと多くのポイント稼げねぇかなぁ」
そう背伸びしながらウォーカーはまた異次元の隠れ家に戻って行った。
こうして荷物運びのウォーカーの一日は終わる。
「さーて。 いいポイント稼げる仕事ないかなぁ?」
そういながらウォーカーは端末を見ながら仕事内容を確認する。
「ん?」
すると少女を誘拐するだけで百万ポイント貰える仕事があった。
「……んーどうしようかなぁ? でも人数もいるから成功出来るかぁ」
参加人数は一万人であり、しかも参加するだけで三千ポイント貰え、さらに成功すれば百万ポイント。
なんて夢のような仕事なのかとウォーカーは思った。
だがウォーカーは知らなかった、この仕事がウォーカーの人生を大きく変える事を。
「おっほーすげー!! この酒場にいんのが今日の仕事仲間かぁ」
ウォーカーはその日の夜にとある酒場を訪れていた。
その名もアリの巣という酒場で極悪人共がよく利用する酒場であり、仕事の待ち合わせ場所として最適なのだ。
「よう兄ちゃんあんたも今回の依頼仲間かい?」
「あらーいい男! 今日私の部屋に来ない?」
「へへ! こんだけメンツいりゃあどんな仕事でも成功出来そうな気がするぜ!」
「ありがとうございます」
酒場にいた連中から声を掛けられてウォーカーは営業スマイルを浮かべて手を振った。
そして内心ウザいと感じながらも感情を自制する。
仕事仲間とうまく連携出来なければ仕事の金も貰えず、いざとなった時に命を落とす事もあるからだ。
「おっ! 早速メールが来たぜ!」
すると男達の端末が音を鳴った。
どうやら今回の依頼主からのメールのようだ。
「どれどれ? えっ?」
「……む、無理よ! こ、こんな依頼無理に決まっているじゃない! お、降りる! 降りるわ! 私!」
すると連中が端末のメールを見た途端に空気が凍りついた。
「……なんだよ。 さっきまでの空気とは違……う?」
ウォーカーも自身の端末で今回の詳しい依頼内容を見てみると、今回の依頼はウォーカーが住んでいるスピリツ王国の第二王女であるシャティラ・スピリツの誘拐であり、護衛をしている第五騎士団とその身の回りをするメイド達の壊滅であった。
「へーいいじゃんこんだけの数入れ……ば?」
ウォーカーが画面から目を離して辺りを見回すと誰もいなかった。
どうやら仕事難易度の高さにビビって逃げたらしい。
「へっ、腰抜け共が。 俺は違うこの依頼を達成して絶対に百万ポイントを手に入れるんだ!」
そう言ってウォーカーはたった一人でスピリツ王国の王宮に乗り込んだ。
「へへっ。 この仕事楽勝だ……ぜ。 え?」
ウォーカーが王宮の中に入り、誰もいない静かな廊下を歩きながら端末で王女の部屋を確認してから中に入った時だ。
扉の向こう側は王女の部屋などではなく闘技場であった。
「はっ?」
ウォーカーは突然の事で固まった。
「う、嘘だろ? わ、罠かよ!?」
袋のネズミになったのだとウォーカーは悟った。
「……うわぁこれ敵の腹の中……か」
するといつの間にか三百名ぐらいの騎士団がウォーカーの周りを囲んでいた。
「……俺死ぬのかね」
そんな事を言いながらウォーカーは空間魔法でボロボロの長剣を取り出した。
「……侵入者よ。 この数を相手に戦うつもりか?」
「へっ、集団リンチなんてこちとら日常茶飯事なんだよ! ぼけぇ!」
ウォーカーは騎士団を見ながら宣戦布告を叩きつきけた。
勝てる気なんてしてない。
何せ魔術師に騎士、そして回復役の治癒師も連中の中にいる。
負けるのは分かっていただがウォーカーの意地が戦う前の降参を許さなかった。
「よっしゃこいや! くそ騎士ガァ!」
そんな捨て台詞を吐いてウォーカーは騎士団と乱闘を始めた。
「おら! そら!」
一刀で十数人の騎士達を斬り飛ばすのと同時に剣が折れる。
すぐさま新しい剣を空間魔法から取り出して騎士達を切り飛ばしてまた新たに剣を取り出す事を数十回繰り返した。
「ちっ、きりがねぇ!」
「はぁはぁ……我々は負けないぞ! 侵入者!」
「はっ! 俺が知った事かよ!」
そう捨て台詞を吐いた時だった。
「は?」
目の前に敵が迫っている事に気が付かなかった。
瑠璃色の髪に紫色の瞳をした女騎士が立っていた。
「……弱い」
「えっ?」
女騎士がそうポツリと言うとウォーカーの胸から血が吹き出し、斬られた事に今更気がつきながら意識を手放した。
「んっ? ここは?」
体が軋むのを感じながらウォーカーは目を覚ました。
「目を覚ましたか。 このくそ犯罪者が」
声が聞こえて見てみると大柄な男と、小柄な少女が牢の前に立っていた。
「……なんだよ。 あんたら」
ウォーカーは二人組を睨みながらどうにかこの状況を切り抜ける為に思考を巡らした。
「……お前闇の仕事をしてる奴か?」
「あん? まぁな。 ポイント……ていうか金払いがいいからな」
男の質問の意図が分からずウォーカーは首を傾げて男を睨んだ。
「おっと。 自己紹介が遅かったな。 俺は第五騎士団の団長ダムドって言うんだよろしくな!」
「わたくしはこのスピリツ王国第二王女のシャティラ・スピリツです」
「だ、第二王女だと!?」
ウォーカーは今回の標的を目の前にして驚いて声を裏返ってしまった。
「えっ? だ、第二王女様がな、何故ここにい、いらしゃるんでしょうか?」
ウォーカーは出来るだけ丁寧な言葉を心がけた。
目の前にいるのは金髪に緑色の瞳をした十二歳の少女だと言うのに何故か従わざる負えない不思議なカリスマがシャラティラにはあった。
それでもウォーカーは怖気たりせずに目の前にいる二人組を眺めた。
「ウォーカー。 貴方を第六騎士団に入団させようと思います」
「は、はぁぁぁぁぁぁ!?」
ウォーカーはいきなりの提案に驚いて怒号にも近い驚きの声を上げた。
「ひっ!」
そんなウォーカーの態度に驚いてシャティラが萎縮してダムドの背中に隠れてしまう。
「おいおい。 あまり姫様を怖がらせないでくれよそれと話を最後まで聞けよ。 くそ犯罪者?」
「お、落ち着いて聞いていられるかってんだよ! 後、俺の名前はウォーカー・エイルだ!」
ウォーカーは驚愕の顔をしながらダムドの顔を見る。
「そうかそりゃあ悪かったなウォーカー・エイルこれよりお前は我がスピリツ王国の第六騎士団所属の人間だよろしく頼むぞ? あぁそれとお前の上司を紹介してやる」
「こんにちは私は第六騎士団の団長エイザールと申しますよろしくお願いしますね?」
すると緑色のローブにエルフ耳をした男が現れた。
「お、おい待て! お、俺はうんともすんとも言ってねぇぞ!? 勝手話を進めるな!」
「あー。 お前に拒否権はないからな? 後の事はエイザールから話を聞けよ? じゃあーなー」
「それではご機嫌ようウォーカー様」
そう言ってダムドとシャティラはウォーカーの目の前から消えてしまった