日本人は保険料に殺される!? 共同通信の「106万円の壁廃止」報道について
◇主婦は「20時間の壁」か「ワーキングプア」になる
筆者:
保険料負担が生じる「106万円の壁」を撤廃し、週20時間以上働く者は全て保険加入を義務付けることについて僕の考察をしていこうと思います。
現時点(11月8日)において共同通信のみの報道なので、国民の反応がどうなのかと言う観測気球、実行されない可能性もあると見ています。
しかしながら、この方向性は変わらないと思いますし、考察する価値は非常に高いと思っています。
質問者
具体的にどのようなことが検討されているんでしょうか?
筆者:
現在のところは厚生年金に加入する要件が
1 年収106万円以上
2 従業員51人以上
3 週20時間以上
の3つ全てを満たす必要があったのですが、3の「週20時間以上」“のみ“になるようです。 ※ただし、学生は除外のようです。
共同通信の記事によると来年の通常国会に関連法案提出を目指し、要件の見直し全体で新たに200万人が加入する見通しだそうです。
質問者:
20時間以上なら事実上の強制加入になるという事ですか……。
約1割の負担増ですからかなり厳しくなりそうですね……。
筆者:
今後は実質的には「週20時間の壁」に変わったと言えると思います。
東京都の最低賃金が約1200円で20時間4週間働くとなると9万6千円ですが、時給1000円であれば8万円になります。
今後の時給次第ではあるのですが、106万円からそこまで「壁が下がる」と言っても過言ではありません。
しかも毎週きっかり20時間弱にするのは大変なので基本的には「パートの方の収入減」になることでしょう。
更に、徐々に廃止していって「国民を追い詰める」ことは明白なので、
いずれは「週20時間の壁」を阻止するために「学生以外の労働者全て加入」と言った方向性に変化していくことでしょう。
これは、健康保険料も同じような推移を辿ると思われます。
質問者
「103万円の所得税の壁」引き上げが議論されている中でこれをやったら逆に手取りが減りませんか?
何を考えているんでしょうか……。
筆者:
壁ギリギリのラインでこれまで通り働くなら間違いなく手取り減です。
しかし、僕はむしろ、今このタイミングに出すのはある種の「巧みさ」を感じますね。
所得税の壁引き上げは負担軽減なのに対して、
こちらは似たような言葉で「廃止」にも拘らず負担増と言う罠があるんです。
何となく「壁は取り払われるべき」と言う状況で受け入れやすいと言えますからね。
心理学をやっていた身としては、このタイミングのアドバルーンは「増税派」から見ると国民の認知を歪める上において、ベストではないか? と思います。
※ちなみに小泉進次郎氏が総裁選で似たようなこと公約に掲げていた時には炎上しました。
◇「よくある擁護論」の決定的な間違い
質問者:
確かに今なら「103万円の壁撤廃と同じようなことだと勘違いして騙されちゃう」って言う方もいるのかもしれませんね……。
よくあるお話として、このような年金見直し策が
「将来の年金水準を向上させる」
と言った感じに語られることも多いのですが、それについてはどうなんですか?
筆者:
平成初期であれば小遣い稼ぎのパートだったかもしれませんが、2020年以降は「今の生活が困っている」からパートに出ている主婦の方が多いと思うんですよ。
それを「将来のための年金」とかいう非常に制度すらも不透明なことのために「今の手取り」が減ることになります。
しかも、厚生年金に入ったからと言って別に急激に年金額が貰えるわけではありません。
政府が「良いことをやろうとしている」ように「見せかける」ためのマスコミのプロパガンダ作戦の一環だと思った方が良いです。
質問者:
以前のお話では、厚生年金は労使折半で本来もらえるべき分が既に徴収されていることから、
その分も含めればかなりの確率で「払い損」になるということでしたね。
筆者:
貰える額にも、高齢者になっても働くかどうかにもよりますが、企業負担分も含めれば支払い・支給が今の水準が維持されても90歳近くまで生きないと厳しいですね。
以上のことから僕はこの政策を「究極レベルの愚策」であると考えます。
大体年金制度が崩壊しているという事実上の宣言が「NISA非課税」だと僕は確信しているので、もう全員年金と保険料は完全に自己責任にした方がマシです。
◇中小企業潰しの一環
質問者:
そうなると、手取りが減るぐらいなら「週20時間の壁」にとどめようという発想になりそうですよね……。
筆者:
恐らくですが、仮に103万円の所得税の壁を178万円まで引き上げても全然意味が無くなりますね。
仮にこのまま200万人が保険に加入したと仮定しても、
事業主も従業員の保険料を折半する必要があるために
企業側でも入退社の保険の加入脱退の手続きなど、事務が煩雑になります。
大企業においては専門の部署がやるから問題が無いでしょうが、中小企業にとっては絶大な負担になります。
厚生年金を支払う事は企業にとってかなり負担は大きいですから、
暗に「中小企業潰し」になると言えます。
質問者:
何か良いことばかりスポットライトが当たりますけど、実際は酷い制度という事ですよね……。
そもそもどうして、一律で保険料・年金が固定(逆進性)になってるんでしょうか?
筆者:
一般的には健康保険も厚生年金も「税金では無いから累進制でなくていい」と言う理論のようです。
しかし、どこかの保険料・年金加入は学生でなければ強制であり、
国家機関が法律に基づいて徴収・支出をしており、
国民が払わなければ預金などの資産差し押さえなどの法律から認められた強力な措置もあります。
これらの要件を揃えているのはどうみても「税金と同じ動き」をしており、
このような制度を世界の一般的な分類としては「税金と同等」として扱われています。
「税金という名前じゃないからOK」と言うのは完全に詭弁なんですね
騙されてはいけないと思います。
「実質税金なのだから累進制にするべき」ともっと議論を過熱させるべきなのです。
◇制度そのものの「根本見直し」をするべき
質問者:
しかしそう言った制度の見直しと言う話にはなりませんよね……。
筆者:
皆さん、社会科などの教科書で下のような図をご覧になったことが一度はあると思います。
この図を小学生の時に初めて見た瞬間に僕は「あぁ、この国の社会保障制度もう終わってるなぁ……」って一発で思いました。
国が足りない分を真水国債(=返済を不要とした国債)で補填してくれるのであれば何ら問題も無いですが、実際は現役世代から徴収して成り立たせています。
負担する人が減っていけば一人当たりの負担額が増えることは自明の理であり、
システムとして完全に破綻していますからね。
この制度の破綻に気づけない政治家や官僚は偏差値教育だけはご立派に通過されましたが、「人間としての感性が乏しい」とすら思えてしまいます。
質問者:
筆者さんのこれまでのお話ですと、社会保険料・厚生年金を階層・累進制度にして残りを真水国債で補填するか、
制度を完全に解体して自己積立制度にするかのどちらかにするべきだというお話ですよね?
筆者:
社会保険料を一律およそ10%、厚生年金を労使折半で19%にしている「逆進性」が「106万円の壁」の根本原因であり、「働き止め」を起こし日本の社会を停滞させています。
これをむしろ「優遇されている」として免除される者を廃止していく流れは、「ワーキングプア量産」と言う地獄のような世界が始まるのだと思います。
この制度が完全に破綻し、狂っていること、その抜本的根本改革をしなければいけないことについても報道しないマスコミについても本当に「異常」と言わざるを得えません。
◇この社会保障制度改革を「最優先課題」にしなくてはいけない理由
質問者:
重要な負担軽減策としては消費減税・廃止やガソリン税のトリガー条項発動などあると思うのですが、それらと比べて優先度はどちらが上なんですか?
筆者:
僕は消費税について関心事が高いですし分かりやすいから同列に語ることが多いのですが、社会保障改革こそ最優先だとずっと思っています。
というのも消費税を廃止しても物価が下がるとは限らないですし(商品価格は企業が決めるため利益を増やすだけの可能性もある)、
トリガー条項解除だって荷物の運賃が下がるとは限らないです。
(ガソリン価格が下がるだけなら車に乗っていない人は関係ない)
でも社会保険料負担に関しては減額すれば減額分だけそのまま働いている人の手取りが増える。
自己責任にしてもどれぐらい貯金すればいいか将来設計も可能なので少子化対策にもなる「最高の施策」のはずなんです。
「予算」だのなんだの言うにしても他の経済対策の政策・少子化対策政策を斬り捨ててでも超優先的に行わなくてはいけないはずだと僕は確信しています。
質問者:
先ほどの図でもあるように高齢者の増加数より減る現役世代――それで制度を存続させるには「実質増税」しかないわけですからね……。
筆者:
単純な算数のお話です。しかし、財務省と厚生労働省の圧力のせいなのか知りませんが議論すら無しですからね。
これは若者にとって「絶望的な社会システム」と断言でき、「自然に人口減」に繋がると思うんです。
これは自殺数が増えるだけにとどまらず、メインとして起きることは精神的・経済的な負担から「産み控え」が起き、「将来の日本人消滅」に繋がるからです。
真水国債で給付を増やす若しくは低所得者の負担を軽減ことが出来ないなら制度そのものを廃止して清算。任意加入制度にした方が良いでしょう。
年金制度・保険制度が始まる前の方がむしろ日本人は幸福でした。
少なくとも将来不安に悩むことは無かったのです。
今のままでは日本人は「保険と年金に殺されていく」のです。
質問者:
よく「規制緩和」とか言いますけど、
保険・年金については規制を緩和するという議論すら出ないですよね……。
筆者:
むしろ、電気、水道、鉄道、郵便と民営化しなくていいことばかり民営化している状況です。
上のこれらは僅かな赤字も見逃さず民営化を叫びまくっていたのに、保険・年金については保険料徴収だけでは足りず予算にも30兆円以上も足を出しているのにも関わらず民営化は議論すらしないです。
これは異常としか言いようが無いですね。
◇「予算委員長」を立憲民主党に割り振った絶望
質問者:
自民党が過半数割れしたことによって何かプラスの影響ってないんですか?
筆者:
むしろ悲報すらあります。
国会の予算委員長のポストが自民党よりも緊縮政策、狂った貨幣観の立憲民主党が就くことになりました。
企業が支払い実質第二法人税の役割を果たす消費税を「還付する」とか意味不明の政策を述べている人たちは税法から勉強し直してきて欲しいです。
この「予算委員長を譲る作戦」は自民党が「増税は自分が中心でやったんじゃありません」と責任逃れをするための作戦ではないか? と正直かなり懸念しています。
ここで減税したいのであれば、自民党がそのまま重要ポストに居座り続けるか、
躍進した国民民主党を置けばいいだけですからね。
「財政再建」の御旗の下で爆走し続けることでしょう。
自民党が減った分同じ増税派の立憲民主党も増えましたからね。根本構図は変わっていないのです。
質問者:
日本の先行きが制度で潰されるとなると暗い気持ちになってしまいますけど、
いつものお話ですと国民が声を上げていくしかないという事ですよね?
筆者:
所得の再分配と逆を行く政策は絶対的に反対しなければ国民は疲弊します。
幸い来年の通常国会の法案提出まで時間がありますので、
何とかして反対の機運を高めていきたいですけどね。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は「106万円の壁廃止」は空前の愚策であることについて触れさせてもらいました。
今後もこのような政治・経済について個人的な見解を述べていこうと思いますのでどうぞご覧ください。