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聖女となった悪女は隣国の王弟殿下に溺愛される

作者: 雨宮レイ.







 キラキラ輝くこの場所が、ずっと嫌いだった。

 

 嫌でも聞こえてくる陰口に、感じる多くの視線。

 隣にいるはずの婚約者は入場してすぐ私から離れ、私ではない女性の隣に立っている。



 面白くないわ、何もかも。



 別に、ドレスの色が被ったから腹を立てたのではないの。自分より爵位の高い人間を貶すような言葉をわざわざ聞こえるように言っていたから腹を立てたのよ。



『惨めですわね。婚約者である皇太子殿下は聖女様に夢中で……私だったら耐えられないですわ』



 知っているわ、そんなこと。誰よりも私が一番。

 でも、だったら何? なぜそんなことを(皇太子)の婚約者候補にすら名が上がらなかった女に言われなきゃいけないの?



 だからかけたの。彼女に、持っていた赤ワインを。

 もっと、限りなく黒に近い赤に染まった方がお似合いだと思ったから。ドレスも、心も。ね?

 







「失礼するよ。リーチェ、こんなところにいたら体を冷やす」



 ひとり、バルコニーで黄昏(たそがれ)る私に声をかける人物など“彼”以外にはいない。

 私は振り向くことなく、視界いっぱいに広がる月夜に照らされた庭を眺めながら言葉だけを返す。



「……こんなところに来るなんてどうしたの? わざわざ悪女に会いにいらしたのかしら?」



 自傷を込めてそう言えば、彼は軽く笑って言葉を続ける。



「そうだね。不器用な可愛い悪女に上着を掛けてあげようかと思って」

「あら、てっきり私を酔わせに来たのかと思ったわ」

「キミはこの程度では酔わないだろう?」

「分からないわよ? もしかしたら頬を赤らめてあなたに抱いてと(すが)るかもしれない」

「ふむ。それはそれで悪くないね」

「……冗談よ」



 そう言って彼からグラスをひとつ受け取り、カチン、と小さく音を立てて乾杯する。

 この光景だけを切り取れば、もしかしたら相手が私なんかでもロマンチックに見えるかもしれない、そんな場面。



「リーチェは本当、不器用だよね」

「不器用なんかじゃないわ。ただの性格の悪い女よ。『悪女』って、みんな私のことをそう言ってるわ」

「それは見る目のない者たちの、可愛いリーチェに対する嫉妬だろう」

「嫉妬、ねぇ。そうかしら? それに私に“可愛い”なんて言うのもあなただけよ」

「それはむしろ光栄だね。キミを可愛いと思うことも、可愛いと言うのも。俺だけの特権だ」



 そう言って彼は私の肩に自分の羽織っていた上着をかける。

 つい数秒前まで羽織っていた彼のぬくもりが私の冷えた体を包み込み、どこかほっと安心する。



 ありがとう。と、小さくお礼を言えば、彼は「ほら、やっぱりキミは可愛い」と笑顔を浮かべた。



 彼と過ごすわずかな時間が好きだった。つまらないパーティーも彼がいたら耐えられた。


 そこに恋愛感情はない。私の唯一の友人。……いえ、親友と言ってもいいかもしれない。

 気を遣わずに何でも話せる相手。


 私の唯一、呼吸ができる時間。







◇ ◇ ◇







「ここは……?」



 目を覚ますと、そこには見覚えのない光景が広がっていた。



「……ふかふかね」



 慣れない柔らかさのベッドに包まれていた私は、周りを見渡す。目に映るのは、白と薄いピンクで統一された家具、そして埃ひとつないきれいな空間だった。

 まさに“可愛らしいご令嬢の部屋”といった感じだ。


 その時、さらりと顔にかかった髪が目に入る。そして私は、目の前に広がる光景の違和感の理由を知る。



「……なるほど。もう私は、私ではなくなったのね」



 ──そりゃそうよね。と、自身の行ってきた悪行を思い出せばすんなりと今の状況を受け入れることができた。



 ベアトリーチェ・ホルライン。

 それが私──いいえ、少し前まで『悪女』と呼ばれた私の名前。


 公爵家の一人娘として生まれ、皇太子の婚約者として育てられてきた私は幼い頃にお母様を亡くし、お父様と3人のお兄様に溺愛されて育った。

 そんな、欲しいものは何でも手に入れてきた環境で育った私の性格が歪まないわけがなく。私は未来の皇后であることに胡座(あぐら)をかき“悪女”と成り果てた。



 そして私は足元を掬われ、“あの女”に騙され幽閉されたのち──処刑された。



「でも、この体は一体誰の……」



 腰まで伸びる艶のある綺麗なピンクゴールドの髪。傷ひとつない透明感のある白い肌に、すらりと伸びるきれいな指。


 どこか感じる嫌な予感に私は体を起こす。そして近くのドレッサーの鏡に姿を映せば──



「……リリア・フォレスター」



 そう、無意識に言葉が零れた。



「やっぱり……。でもどうして、私が彼女に……?」



 その問い掛けに答えが返ってくることはなく、静かに空気に溶けて消える。



 リリア・フォレスター。私はその女をよく知っている。

 なぜならば彼女は、この国……いえ、この世界唯一の“聖女”だから。


 ──聖女とは尊い存在である。

 その力を持って生まれる者は数百年に一度。聖女が生まれた国は繁栄すると言い伝えられ、聖女は国宝として生涯何不自由なく暮らせるほどに大切にされる。


 事実、300年前に聖女が誕生したと言われている隣国は聖女を王族に迎える──王太子と婚姻を結んだことにより世界最大の経済大国となった。

 過去、聖女が誕生した国でもここまで繁栄した国はない。歴史書によればその時の聖女と王太子は恋愛結婚だっだという。おそらくそれが世界最大規模まで成長した理由ではないかと考えられている。



 そして彼女、リリア・フォレスターはこの世界唯一の聖女であり、この国に繁栄をもたらす存在。

 貧乏伯爵家出身の彼女は幼い頃から両親に愛され、国宝として皇族に大切にされ、そして国民から愛された女。

 

 聖女という肩書きはそのまま彼女を表すかのように、常に柔らかい物腰でニコリと笑顔を浮かべる美しい少女だった。

 そんな彼女を嫌っている人間はこの国には──私以外──いないだろう。



 私は彼女が嫌いだった。皇太子の婚約者である私を差し置いて、(皇太子)に、そして皇族に大切にされる存在。



 悪女がそんな存在、好く訳ないでしょ?



 ……いえ、一つだけ訂正を。

 私は今でも(・・・)彼女が嫌いよ。

 

 だって彼女は、私を騙し、私の処刑のきっかけを作ったひとり。

 聖女の皮を被った悪魔とはまさに彼女のことだと私は知っているから。


 でも、どうしてそんな彼女に私はなってしまったのか。

 私が彼女になったということは、本物のリリア・フォレスターはどうなってしまったのだろうか。

 どれだけ考えてもその答えが出るはずもないのに、私は思考を巡らせる。



 その時、コンコン。と、控えめにノックされるドア。



「っ、……どうぞ」



 びくっと体を揺らした後、全身に緊張感を走らせ控えめに入室を促せば、入ってきたのはよく見知った顔の人物だった。



「リリア。目覚めたのかい?」



 そう目の前の男が優しい笑顔を浮かべると、私の心臓はドクン、と一度大きく跳ねる。……もちろんそこにトキメキなどは少しも存在しない。


 この女を名前で呼び、優しい笑顔を浮かべる青年──ダニエル・フォン・グリッセ皇太子殿下。

 彼は私、“ベアトリーチェ・ホルライン”の婚約者だった人物。そして、聖女であるリリアに加担し私を処刑に追いやった一人。



 私には一度もそんな顔見せたことなかったのに、彼女には見せるのね。



「愛しいリリア。今日もとても美しいね」



 そう言ってそっと唇を添わすために掬ったリリアの髪を自身の口に近づける皇太子。



 瞬間、パンッ──と、乾いた音が部屋に響いた。



 どうやら頭で考えるよりも先に、私の──正確にはリリアの──体が、彼を拒絶したようだ。私の視界に映るのは“元”婚約者のひどく驚いた顔。

 


 拒絶されるだなんて思っていなかったのね。


 そして、その表情はすぐさまひどく悲しそうなものへと変わっていく。



「……もしかして昨日のことを怒っているのかい? リリア……すまない、もう少しだけ我慢してほしい。もう少しで父上はいなくなる。そうなれば僕の時代だ。それまで我慢してくれないか?」



 眉を落とし宥めるように私の頬をなぞる手。気持ち悪いわ。

 それに彼は何を、言っているのだろうか。今はそう思わずにはいられなかった。



 この男の父親でありこの国の一切を取り仕切る皇帝陛下。

精悍(せいかん)な顔つきと同様、自分にも他人にも厳しく、少なくともベアトリーチェが生きていた頃は病気など無縁な方だった。実際、私が王妃教育などで城に通っていた際も一度だって皇帝陛下の不調など耳にしたことがない。

 


 そんな方が、いなくなる……?

 


「あぁ、そうだ。お詫びというわけではないんだが、以前リリアが仕立てたドレスが届いたんだ。これを着て、今日のユーリ殿下の歓迎パーティーに僕の“婚約者”として参加してくれないだろうか……?」



 ユーリ殿下の歓迎パーティーが今夜……? それに婚約者ですって……?

 いつからリリアが婚約者になったのだろうか。なんて考えはすぐに消える。

 


 なるほど。私が処刑された後の用意は万全だったってわけね。



 皇帝陛下は聖女がいるにも関わらずただの公爵令嬢である私を皇太子の婚約者に据えていた。それはつまり、皇帝陛下は聖女と皇太子を結婚させる気がない、ということなのではないだろうか。


 結婚し、出産するとなれば命を落とすリスクがある。だからこそ結婚などさせず、聖女には死ぬまでその力を国のために使わせるつもりだったのでは……?


 そしてその事に気が付いた皇太子とリリアは共謀し、確実に皇后の座を手に入れる為の計画を企てた。その計画のキーとなるのが、おそらく今日なのだろう。



 経済大国である隣国の王太子・ユーリ殿下に婚約者として紹介され認められることで、聖女であるリリアの次期皇后としての立場は盤石となる。

 大国の次期国王であるユーリ殿下に認められさえすれば、いくらこの国の皇帝陛下でも認めざるを得ないから。


 そう考えれば皇太子と聖女が私を処刑に追いやった辻褄が合う。



 ……むしろ褒めたいぐらいね。邪魔者(ベアトリーチェ)が死んでからの“1か月”で次期皇后としての立場を盤石にするための計画を、少なくともこの歓迎パーティーが決まった数か月前から立てていたなんて。


 そしてその計画は今日成功する──はずだった。私がリリアにならなければ。



 ちょうどいいわ、今日という日に目覚めたことは。絶対に思い通りになんかさせてあげない。

 信じていた人に裏切られる絶望、あなたにも味合わせてあげる。



「……ええ、喜んで」



 甘い声で私はにっこりとした笑顔を貼り付け、目の前の皇太子の差し出した手に自分の手を重ねる。

 その姿はきっと誰が見てもリリアそのものだろう。現に目の前の皇太子は私が本物のリリアではないことに気づく素振りすらない。

 


「ッ!! やっとリリアが正式に僕の婚約者に……! こんな嬉しいことはない! 今夜は……覚悟しておいてくれ」



 その言葉に、ぞわ、とした気持ち悪さが足元から全身へと広がる。

 だが、今の私はリリアだ。ベアトリーチェではない。こんな時あの女なら、恥じらいながら顔を赤らめこう返すだろう。



「殿下……、わたくしはすでに、その……覚悟はできておりますわ……」



 最後に忘れずに「はしたない、でしょうか……?」と付け加える。そうすれば皇太子は気持ち悪く表情を緩め鼻の下をグンと伸ばし上機嫌となった。



「ふっ、ははっ。本当にリリアは可憐だな。今夜が楽しみだ」

「えぇ、わたくしもとても楽しみですわ」



 ──何が、とは言わないけれど。



 リリアの言葉に気を良くした皇太子は「また後で迎えに来る」と言葉を残しそのまま部屋を後にした。

 私が企みに満ちた笑顔を浮かべているなんて気づきもせずに。







 ◇ ◇ ◇







「リリア……、本当にそのドレスで行くのかい?」



 もう何度目か分からないその言葉に私は可愛らしい声でリリアになりきり「はい」と答える。



「やはり、わたくしには似合ってないでしょうか……。皇太子殿下ならどんなわたくしの姿でも褒めてくださると思ってましたのに……」

「ッ! す、すまない! そういうつもりではなかったのだ! そのドレスもリリアにとても似合っている!」

「本当ですか……?」

「あぁ、本当だ! ……ただ、ずっとあのドレスを楽しみにしていたであろう。だからてっきりあのドレスを着ると思い僕も色を合わせたんだが……、バラバラになってしまったな」



 そう言って少しだけしょぼんと表情に影を落とす皇太子。

 リリアならこんな時どうするだろうか。……きっと彼を上回る勢いで目をうるうるさせ、皇太子に謝らせるのだろう。彼女の庇護欲を搔き立てる表情は、男性を簡単に虜にさせる。



 でも、もうリリアはそんなことしない。

 ベアトリーチェが好んだ真っ赤なドレスに、綺麗なデザインの赤いガラスでできたピンヒール。



 今日皇太子から渡されたフリルがたくさん使用された淡いピンクのドレスとは似ても似つかない派手なドレス。だからこそリリアが好んだドレスに合わせ仕立てられた皇太子の正装とはチグハグで、並んだときに違和感でいっぱいになる。



 たったこれだけのこと、と思うかしら。でもね、たったこれだけのことが社交の場に与える影響はとても大きい。


 今日のパーティーに参加する者は誰も、彼の隣に立つリリアが婚約者とは思わないだろう。

 むしろ、今日この場にふさわしくない派手なドレスに皆困惑し、非難し、嘲笑するのではないのかしら。


 そうなれば好都合ね。



「……緊張するな。正式にリリアを婚約者だと紹介するのは。やっとキミと一緒になれる。楽しみだ」



 もう、その言葉に返事はしない。


 愛する人(リリア)に裏切られたとき、皇太子がどんな顔をするのか。

 


 心が逸る。想像するだけで、私の心は満たされる。


 目には目を、歯には歯を。どんな姿になったとしても私は悪女だもの。だったら悪女らしく復讐してあげなきゃ。それが礼儀ってものでしょ?



「行こう、僕の愛しいリリア」



 皇太子の言葉と同時に目の前の大きな扉が開かれると、キラキラと眩しい光が視界いっぱいに飛び込んでくる。



 久しぶりね、私の嫌いな場所。

 でもきっと今日、私はここを好きになるわ。



 今日という日が終わった後、私がどうなるかは知らないけれど。それが皇太子への、そしてリリアへの復讐となるだろう。悪女の行く末は地獄と決まっている。


 でも、地獄へ落ちる前に復讐のチャンスをもらったの。このチャンス、利用しないわけないでしょ?



「ユーリ殿っ!」



 私をエスコートし、隣を歩く皇太子が今日の主役である隣国の王太子を見つけその名を呼ぶ。


 腕を引かれ彼の元まで行くと、その空間を支配する雰囲気だけでさすが世界最大国の王子ね、と感心してしまう。


 佇まいだけではない。その纏うオーラや仕草一つが完璧であり隙がない。私の手を引く皇太子とは大違いだ。



「これはダニエル殿、お久しぶりでございます。本日はこのような素敵なパーティーを催してくださり感謝の念に堪えません」

「いえ、ユーリ殿が来るとなれば当たり前のことです。……ところで、ユーリ殿はおひとりで?」



 今の彼の近くには護衛も付き添いも誰もいない。自国ならまだしも、他国で護衛もつけないなど普通はあり得ない。それがたとえ友好国だとしても。


 だから皇太子はあたりをきょろきょろと見回す。



「いえ、さっきまで護衛もいたのですが……、恥ずかしながら今は問題児が脱走しないように見張りについてもらっていまして」

「問題児、ですか……?」

「えぇ、我が国の───あぁ、ちょうど戻ってきましたね」



 そう少し困り顔をしながら頬を緩めるユーリ殿下の視線を追うように私も真後ろに視線だけではなく体も振り向かせる。



 瞬間、懐かしい声が私の耳へと届き、脳を揺らす。



「すまない、迷子になった」



 高すぎず低すぎない耳触りのいいその声は、少しも悪びを帯びておらず飄々としている。あの頃のまま、何も変わらないその声に私は胸の奥が、ジン、と熱くなるのを感じた。



「ダニエル殿、申し訳ございません。彼が私の叔父であり、現国王陛下の弟である──」

「ゼン、と申します。直接挨拶するのは初めてですね」

「それは叔父上がいつもどこかに逃げるからでしょう?」

「いやぁ、せっかくこの国に来たんだ。好きな子との密会くらい許してくれよ。……どうせもう、会うことはできないんだから」



 そう言った王弟殿下──“ゼン”は今にも泣きそうな表情を一瞬だけ浮かべ、すぐにまた飄々とした掴みどころのない表情へと戻る。


 目頭が熱くなるのを感じた。

 鼻先がツンとする感覚はいつぶりだろうか。

 

 こんなにも彼との再会が嬉しいだなんて思わなかった。



『リーチェ、こんなところにいたら体を冷やすよ』



 そう言ってシャンパンの入ったグラスを二つ持ってバルコニーで黄昏る私のもとに来た彼を思い出す。

 


 あの時の会話が、最後だったのよね……。



 それにしても、初めて聞く彼の立場。

 ベアトリーチェの時はそんな話、しなかったものね。……というより、それなりに身分のある王子の護衛だと言っていたから、そういうものなのだと疑いもしなかったわ。


 ましてや、ベアトリーチェとふたつしか離れていないのよ? 御年40を超える国王陛下の弟君だなんて誰が想像できるというのよ。



「失礼ですが、そちらのご令嬢は? たしかダニエル殿は婚約者を亡くされて……」



 和やかな空気は一転。ユーリ殿下のその言葉と同時に、ピリッとした空気が肌を刺激し冷たい視線が体を貫く。



 おそらく隣国の彼らにも、皇太子の婚約者であるベアトリーチェが処刑された話が伝わっていたのだろう。

 まだ1か月というのに皇太子にエスコートされ、今は亡きベアトリーチェに悪びれる様子もなく堂々と隣に立っている女を不信がるのは王族ならば当たり前のことだ。


 ましてやこの派手さだ。好感など持てるはずもない。


 しかし皇太子はそんなことには少しも気づかないようで、さっきまでよりひとつ声のトーンをあげてユーリ殿下に話しかける。



「ご紹介が遅れ申し訳ない! こちらは我が国の聖女・リリアです」

「聖女様、でございましたか。私はウィラント王国第一王子、ユーリ・フォン・ウィラントと申します。平和の象徴である聖女様にお目にかかれて光栄です」

「聖女・リリアと申します。こちらこそユーリ殿下にご挨拶ができましたこと光栄でございます」



 ドレスの裾をもって軽く腰を屈め視線を下げる。何百、何千と行ってきたその動作は嫌でも魂に沁みついてしまっていたようだ。


 顔を上げればもうさっきまでの体を貫く冷たい視線はなく、だからと言って好感を持ったような様子でもなく。おそらく彼らの中で興味のない存在、となった。


 誰もが喉から手が出る程欲する聖女は、彼らのような上をいく者にとっては必要がないのだろう。



 それにしても、ゼンのあんなに怖い顔は初めて見たわね。私にはいつも冗談を言って笑っている飄々とした表情しか見せなかったもの。

 掴みどころのない男だった。だからこそ一緒にいて心地が良かった。



「それで、実は本日ユーリ様にお伝えしたいことが──」



 でも、もうあの頃には戻れない。


 そう分かっていても、胸が痛むのはどうしてだろう。

 彼の視界に映らないことを少し寂しいと思うのはどうしてだろう。

 

 チクリ、と胸が痛むのを感じながら私は皇太子の言葉を遮るように腕を控えめに引いて「少し疲れてしまいましたわ」と上目遣いで告げる。そうすれば、皇太子は優しい表情を浮かべ私の顔を覗き込む。



「あぁ、本当だ。少し疲れが見えるね。休みに行こうか」

「いえ、殿下の手を煩わせるわけには行きません。わたくし一人で大丈夫ですわ」

「そうか、では後で様子を見に行くから休んでるといい」



 本当、リリアが大切なのね。

 彼の言動が、行動が、眼差しが、全てを物語っていた。



「ユーリ殿下への報告はまた後にしよう」



 そう、耳元で囁かれ少し顔を上げれば、彼は柔らかい笑顔を浮かべ私を見ている。

 でも、それは私にとっては不快なだけのもので──。

 










「冷たい風が気持ち良いわね」



 ふわり、と冷たい風が体を撫でる。

 何度も来たことのある、ベアトリーチェお気に入りの裏庭が一望できるバルコニーからは見慣れた景色が視界いっぱいに広がっている。



 もう、この景色を見ることなんてないと思ってたのに……。



 私が死んだあの日、最期に思い浮かべたのは大好きな家族と、このバルコニーから見える景色、それから───ゼンのことだった。

 憎まれ口を叩いても、私にとってゼンと過ごす時間はとても楽しくて、何よりも私らしくいられる心地の良い時間だった。



「馬鹿ね、もう二度と、あんな時間を過ごすことはできないのに……」



 自傷の笑みを零せば、じわりと胸に傷みが広がる。以前の私は感じたことのない繊細な痛み。リリアになったことで心まで彼女になったのか、なんて戯言はすぐに「そんなわけないか」の呟きと冷笑とともに消え去る。


 ……リリアがそんな繊細な心を持っていたのならば、私を殺して次期皇后の座につこうなんて思わない。



「弱くなったのは他の誰でもない私、ってことね」



 ──瞬間、音を立てて開かれるカーテン。

 振り返ると同時に聞こえたのは、求めていた声。



「っと、すまない。先客がいるとは思わなかったんだ。……こんな場所に彼女以外がいるなんて」

「ゼン……王弟、殿下……」



 神様が私にくれた最後のチャンスだと思った。誰かを思い胸が痛むことを知った私への、最後のプレゼント。


 驚いた表情の後に見せる少し目を伏せた悲しみの表情は、私の心に再び痛みを走らせる。

 その手には二つのグラス。きっと渡す相手はリリアではない。



「……邪魔して悪かったな」



 以前は彼の方を見れば、必ず交わった視線。ふわり、と優しい笑顔を浮かべその視線が逸らされることははなかった。しかし今、彼の瞳に“私”は映っていない。交わった視線は、見たくないものから視線を外すように逸らされる。



 胸が、痛くなった。

 皇太子にいくら蔑まれようとも気にならない。でも、ゼンだけには背を向けてほしくなくて。だから、私は──



「待って……っ!」



 つい、呼び止めてしまったのかもしれない。


 私の言葉に足を止めるゼン。ゆっくりと振り返った彼はまた少しだけ驚いた表情をしていた。そして、小さく口元が動く。何かを呟いたように見えたそれは、私のもとまで届くことはない。

 彼はすぐに余所行きの表情を貼り付けてわざとらしく首をかしげた。



「聖女様に呼び止められるなど、至極光栄でございます」



 そう軽く頭を下げるゼン。「ですが」と、続ける彼が今から何を言おうとしているのか、彼を知る私には分かってしまった。だから、声を遮った。

 無礼だと思われてもいい。軽蔑されてもいい。それでも私は、彼とグラスを合わせたくなった。それが最後だと分かった上で……。



「もしよろしければそのグラス、わたくしにひとつ、くださいませんか?」

「……申し訳ございません。これは聖女様とはいえお渡しすることは──」

「お願い。それ以上、何も求めないから……」



 私は今、どんな表情をしているのだろうか。いくらリリアが美しいとはいえ、今の私の表情はきっと酷いものだろう。



「……分かりました。では、こちらを」



 同情、だったのだと思う。でも彼は、私に最後の思い出をくれた。

 バルコニーに足を踏み入れ私のもとまで来た彼は、私に持っていたグラスを一つ差し出す。


 無意識だったのかもしれない。彼がここでグラスを渡すのは決まってベアトリーチェだけだったから。



「あぁ、申し訳ない。つい癖で──、っ」



 左手で受け取れるよう差し出されたグラス。しかしすぐにそれが間違いだとわかった彼はすぐにグラスを右手側に移動させようとし──私はそれを慣れた手つきで左手で受け取った。



「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」



 左手で受け取り礼をし、コツン、と彼のグラスに受け取ったグラスをぶつける。



「ありがとう」



 小さく、今にも消えてしまいそうなほど小さな声。きっとこの声は彼には聞こえていないだろう。



 グイっと(あお)るように飲み干し、空になったグラスをまるでシャンパンが入っているかのように回し月夜に照らす。

 グラス越しに見る月は相変わらず霞んで綺麗には見えない。



「ひと時の幸せな時間をありがとうございました。では、わたくしはこれで……」



 グラスを持ったまま、軽くスカートの布をつまみ頭を下げる。これまでに幾度となく繰り返してきた所作。これを次に彼の前でするときには、私たちは赤の他人だ。


 でも、私は満足していた。最後に彼と同じ時間を過ごすことができたこと。最後と分かった上で、短い時間とはいえ彼と共にいられたこと。



「さようなら、私の親友」



 彼に背を向け、カーテンに手を伸ばし小さく呟く。その声はすぐに空気に溶けて消えた。──はず、だった。



「……リーチェ?」

「っ、」



 背から聞こえる、呟くように呼ばれた私の声に私はピタリと足を止める。



「リーチェ、なのか……?」



 その声は今度は私の耳にしっかりと届く。

 私が自分の意志で振り返るよりも先に、掴まれた腕が引かれ私は彼と向き合う形に。



「何か、言ってくれ……。キミは、リーチェなのか……?」



 そんなわけないと言わなければ。そんなことあるはずがないでしょ、と。


 でも、私は動けなくなった。何も言えなくなってしまった。

 彼の縋るような、悲しげな瞳を見てしまったから……。

 


「どうして、そう……思われるのですか……?」



 震える声を何とか振り絞る。

 どうしてかしら、胸がチクチクと痛む。……でも、人とは不思議な生き物ね。

 

 私は戸惑った。初めて同時に二つの感情に心を支配されることがあることを知ったから。私の胸には今、痛みとは別に、彼が私だと気づいてくれた嬉しさが共存している。

 それは言葉では上手く言い表せないほど、難しい感情だ。



「仕草が、似ていた……。彼女は左利きで、空になったグラスをまわし月を見る癖があった。いや、それよりも──」



 そう言って、彼は言葉を続けた。



「俺がここに来た時に見たキミが、ふとした瞬間のキミが……リーチェの姿と重なった」



 感情が溢れる。それは月夜に輝く一筋の涙となって頬を伝う。

 

 復讐するために、地獄へ落ちる覚悟だってあった。悪女には地獄へ落ちるのがお似合いだから、と。

 その覚悟は今でも変わっていない。でも、彼は私に気が付いてくれた。見た目も声も何もかもが違う私に、彼だけが気づいてくれた。

 それに彼は私を覚えていてくれた。忘れずにいてくれた。それが、何よりも嬉しくて……



「ゼ、ン……」



 溢れる涙と共に出たのは、彼の名。

 止まることを知らない私の頬を伝う涙を、彼がそっと優しい手つきで拭う。



「リーチェなんだね。姿かたちが変わっても、泣いてる姿はキミのままだ」



 真っすぐに私へと向けられた視線。交わることのなかった視線は今、もう離れないようにと無意識に願っているかのようにお互いに逸らすことはない。


 ふわりと優しく笑うゼンの笑顔は、一か月前と何一つとして変わっていない。安心する、心地のいい笑顔だ。



「グズッ……なによ、それ……バカにしてるの?」

「いいや、世界一可愛いと言っているんだよ」

「ふふっ、悪女に可愛いだなんてそんなこと言うのはあなたくらいね」

「それは光栄だ。キミの可愛さを知っているのは俺だけでいい」



 懐かしくなる。最後の夜会の時も、彼とこんな会話をした気がする。

 たった1か月。でも、それは遥か遠い、もう二度と思い出すことすらできないはずだった過去。



 ふわり、と自分の羽織っていたジャケットを私の肩へと掛けてくれる。


 ──瞬間、心臓が大きく跳ねた。彼の手が少し触れた肩が熱い。一瞬にして彼の匂いに包まれた私。



 これまでに何度も彼の優しさを受け入れてきたが、こんなにも胸が跳ねたことは一度もない。シャンパンを飲んでもこんなにも体を熱くさせたことはない。これまで落ち着くと思っていた彼の匂いが、こんなにも胸をざわつかせたことはない。


 胸が、苦しくなる。さっきまでとは違う苦しみ。

 一番居心地のよかった彼の隣は、今は何よりも居心地が悪い。でも決して、離れたくはない。









◇ ◇ ◇








 少し冷たい風が私たちの体を撫でる。

 遠くから聞こえる音楽を聞きながら、二人きりのバルコニーで私は自分の死の真相と、今日、目が覚めた後のこれまでのことをゼンに話した。


 いつもの飄々とした掴めない表情ではなく真剣な表情で、時々苦しそうな顔をし眉間に皺を寄せながらゼンは最後まで私の話を聞いてくれた。



「そう、だったのか。……守ってやれなくてすまなかった」

「あなたのせいではないわ。まんまと罠にかかった私が悪いのよ。……でも、まさか聖女である彼女に嵌められて殺されるとは思っていなかったけれど」



 嫌われていたのは知っていた。

 私も彼女を嫌っていたから、別に気にしたことなんてなかった。……でも、まさか殺されるなんて夢にも思わなかったわ。



「リーチェは、どうしたい」

「皇太子に復讐するわ。せっかく手に入れたチャンスだもの。この命に代えても私は彼を私と同じ地獄へ落とすわ」

「いいや、そうはさせないよ」

「……そう、よね。あなたは王族ですもの。友好国の皇太子に復讐だなんて黙ってみてられるはずが──」



 少しだけ、ショックだった。ゼンなら分かってくれると思ったから。この復讐でしか救われることのないこの私の気持ちを、彼ならきっと分かってくれると思ったから。



 私ってば、彼に甘えすぎていたのね。



 彼は隣国とはいえ、現国王の弟だ。この国にこれまで何度も招待されているということは、この国の皇族と深い関わりを持っている。

 そんな彼が、皇族に危害を加えるかもしれない者を前にして止めないわけがない。



 わかってる。でも、やっぱり少しだけ……胸が痛んだ。



「実は、今結んでいる平和条約が無効になるかもしれないんだ」

「え……?」



 私の声を遮った彼の言葉は、なんの脈絡もなくて。私は彼の言葉の意図を読み取れなかった。

 そんな私にゼンはいつもの飄々とした掴みどころのない笑顔で続けた。



「裏でね、戦争の準備をしているみたいなんだよね。あの皇太子。まぁ、今頃優秀な俺の甥っ子の部下がこのパーティーに乗じて証拠を掴んでいるころだと思うけどね」

「戦争って、まさかそんな……。さすがにあの皇太子でもそんなバカげたこと考えるわけ──」



 そこまで言って、私は言葉を止めた。

 皇太子の言っていた、『もう少しで父上はいなくなる。そうなれば僕の時代だ』という言葉が脳裏を過ったからだ。



 あの時は目覚めたばかりだったこともあって、どういうことだろうと思って忘れていたけれど、もしかしてこのことと関係しているのではないだろうか。


 戦争を企て、その計画の主犯の罪を皇帝陛下に全て被せる。平和条約を結んでいる隣国に対する裏切り。しかしそんなことを貴族たちが許すわけがない。きっと彼らは皇帝陛下の首を差し出してでも平和条約を守ろうとするだろう。そうすれば次に即位するのは皇太子である彼だ。



「もう、二年ぐらい前の話だ。この国の不穏な動きを察知した兄上が、名目上視察ということで使節団をこの国に派遣した。王弟である俺は兄上の片腕として身分を隠し、視察団に混ざってこの国に来ていたんだ」



 初めて本人の口から直接私に向けられて話される彼自身の話。また掴みどころのない笑顔を浮かべ、彼は話す。

 その途中で私に向かって伸びた手は、そっと私の頬に触れる。



「そんな時、リーチェ。キミに出会った」



 その手は肌の表面に触れるほど優しく、少しだけくすぐったくて「ん……っ」と小さく声を漏らし身を(よじ)る。



「あの日のキミに、俺は興味を抱いた。凛とした姿はかっこいいのに、ふとした瞬間に見せる横顔はとても悲しそうだった。だから気になってしまったんだ。あの日、ここに来たのは偶々(たまたま)だと言ったけれど、あれは嘘だ。キミを追いかけてきたんだ」



 ゼンと出会った日のことは、私も覚えている。

 いつも通り、悪女と蔑まれるだけの参加する意味のない夜会。あの日も確か私は、どこかの男爵令嬢に持っていたワインを掛けた。


 そして一人になりたくて、私以外誰も来ることのない会場から少し離れた、忘れ去られたこのバルコニーにいた。

 そして、出会った。少し息を切らし、しつこい令嬢から逃げてきたという彼──ゼンに。



「そして俺は知った。キミの可愛い姿をたくさん。誰よりも知っていると、自負するほどに」

「……知らなかったわ。そんなの。あなたはいつも自分のことを話さないから」

「言えなかったんだ。リーチェには婚約者がいて、それは俺がいつか地獄へ落とすかもしれない相手だったから」

「さっきの、私の言葉を否定したのは、皇太子を地獄へ落とすのはあなたたちだから?」



 この命に代えても、私の力で皇太子を地獄に落とすつもりだった。どうせ私は地獄に落ちる運命なのだから。

 でも彼はそうはさせないといった。それはゼンが王族だからだと思っていたけれど、今の話を聞いてそうではないと知った。



「私には、彼に復讐する機会は与えられないのね……」

「そうじゃないよ」

「え……で、でも……」

「俺が否定したかったのは、皇太子に復讐する、ってところじゃなくて、キミも地獄に落ちると言ったところだよ」



 ゼンはそうハッキリと言葉にしながら、さっきまで撫でるように表面に触れていた手を少し動かし、私の落ちた髪を掬い耳へと掛ける。



「キミを地獄になんて落とさせない。今度こそ、俺が守るよ」



 ──胸が、高鳴らないはずがなかった。



 触れたところが次から次へと熱を帯びていく。私のこの醜い感情も、彼は受け止めてくれるというのだ。

 そして、彼はこんな私を守ると言ってくれている。もう、私はベアトリーチェではないというのに。



「ねぇ、リーチェ」

「なによ」

「好きだよ」



 それは、突然の告白。

 心臓が止まってしまうのではないかと不安になる。



「あ、ごめん、嘘」



 彼の一言一言が、私の感情を揺さぶる。


 ツウ……と頬を涙が伝えば、彼は再び私の頬に伝う涙を拭いながら──



「愛してる」



 と、いつもと変わらない顔でそう言った。

 


「……ばか」



 私はたった一言、そう返すのが精一杯だった。


 今にも爆発してしまいそうな心臓を何とか抑えながら、私はそっと彼に両の腕を伸ばす。

 


 そして──



「私もよ」



 そう言って彼の首に腕をまわし、少しだけ背伸びをして私は彼に口づけを落とす。

 


 恥ずかしくてすぐに離れようとしたのに、彼の腕が腰に回ったせいで逃げることなんてできなくて。

 熱く、深く、今にも蕩けてしまいそうなほど優しい口づけをお返しされるのだった。








◇ ◇ ◇








「でも、そう上手く行くかしら? いくら皇太子の罪が暴かれ廃位されたところで、聖女であるリリアをあの皇帝陛下が手放すはずないわ」

「そうだね。……じゃあその時は、俺がキミを攫ってしまおう」



 冗談めかしてそう言った彼だが、きっとその時は本当にそうしてしまうような気がして、思わず笑みが零れる。



「ふふっ、そうしたら私たちは地獄の果てまで追われる身ね」

「見た目は聖女の悪女・ベアトリーチェと隣国の王弟の逃避行劇か……悪くないね。世界一心の美しい悪女様が側にいてくれる限り、誰にも負ける気はしないね」

「“聖女”なんかより、よっぽど私に似合う肩書ね」



 見た目がどんなに変わっても、どこまで行っても私には悪女がお似合いみたい。



「まずはお披露目から始めないといけないね。さぁ、パーティー会場(戦場)へ一緒に行こう」



 そう言って差し出された手に、自分の手を重ねる。



「えぇ、そうね。私だけの騎士様」

 


 触れ合った手のひらから伝わってくる彼の温もり。それが今は何よりも心強いと思える。

 

 この先に待ち受けている未来は、悪女らしく地獄かもしれない。

 それでも、今は隣りにゼンがいてくれる。それだけでこの先待ち受けるどんな未来も、きっと大丈夫だって思える。




「ねぇ、ゼン。もし逃げるなら海の見える町がいいわ」

「じゃあ海辺に大きな屋敷を建てよう。そこでキミに似た子供たちと幸せに暮らすんだ。どうかな」

「悪くないわね。でも私に似たら悪魔のような子に育つかもしれないわよ?」

「それは困ったな。そんな風に育ったら余計に愛してしまいそうだ」

「ふふっ、確かに。あなたは子供を溺愛しそうね。……でも、私をほったらかしにしたら許さないわよ」

「……承知しました。世界一美しい悪女様」






 それはもしもの未来の話。



 でも、そう遠くない幸せな未来の話。





 静かなバルコニーに響くのは、幸せな未来を予感させる、二人の幸せそうな笑い声。













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