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どんな時でも変わらないのが友人……


……なのだぁ~!と、どっかの建物の陰で酔っ払いオジサンが叫んでいる光景が頭を過る。


我が家のわたしの部屋の机の上。

そこに積まれた封筒の山を見ながら思い出した。

今までもお茶会のお誘いや身内知り合いからの手紙は有ったけど、まだ成人も就学も年齢に達してないわたしの交友関係など激狭。同年代の令息令嬢数人とは家族ぐるみの付き合いだが。


だからせいぜい一週間に数通程度しか届いていなかったそれがここまで増えたのはやはりアレか。

貴族の情報網ってホントに結構緻密に張り巡らされた蜘蛛の巣みたい。まぁ意図してる有能な者は極僅かだけど。なお変態は除外でヨシとする。


一通を手に取ったら雪崩た……。

このまま掻き集めて暖炉に放り込んでも宜しいでしょうか?と誰とも無しに脳内で尋ねる。


まぁどうせ返事は駄目に決まっているのだからとメゲる気持ちを奮起して山へと向き直った。

する事は簡単だ。

どうせこれも教育係からの試験の一つなのだし。


腐っても我が家は伯爵家。

権力から程遠い立ち位置だろうとそれなりの教育は施される。しかも何故だか教育に関しては熱心なお家柄と来た。教育を受け始めてから暫くして、同じ爵位の令嬢と話す機会に恵まれた際にわたしの授業内容のあまりの高さに驚かれた。


その後おそるおそる確認してみたらば、どうやら公爵令嬢の受けるレベルの教育が施されていた事が判明し思わず言葉を失った覚えがある。そして家族に詰め寄ればむしろお得だと思え!と意味不明に諭され、あれで毒気が抜けて色々諦めた。


以来、時たまこんな試練が発生する。

手紙の封蝋は一度既に破られているのは誰かしらが目を通した証拠だ。なのにそのままわたしの元へと運ばれたのはこれを選別しろとの指令だろう。


貴族の名前で爵位と派閥の立ち位置を読み解き、自分、ひいては我が家に利か害かを判断しろって。


……10歳の少女に遣らせる内容じゃないよね?

しかもわたしは『伯爵』令嬢だし?!

公爵家のお嬢様に匹敵する教育受けさせて一体ナニに成らせようっていうのさー!?


と抗議した日もかつてはありましたよわたしにも。

で、返って来た答えはシンプル。


『知識は覚えておいて損は無い、いつか役立つ』


ちなみにだが、代々この方針だという我が家。

兄は勿論の事、父親も祖父も同じだったそう。


でもでもさ。

中立で大した役職も領地も持たない我が家。

今は前世チートのズルの効いた産業で栄え始めてはいるけど、それだって数百年続く様な公爵家や侯爵家の大領地には到底及ばない。

一時的で終わる可能性だって充分にあるのだ。


結局役に立たずに終わる生きた見本がすぐ側に居るってコトにはならないんだろうかね……?


一抹の不安は覚えるものの、気にするだけ無駄だと悟ってもいるわたしとしては、気を取り直してソファーに腰を据え選別を開始すべく座り直した。


山盛りお手紙がわたしの勉強用の机には載り切らなかった……とだけ理由を述べておきます。



ほい、ほい、ほい、と。

要る~、要らない~、保留~と、それぞれ崩れた山から拾っては大まかに3つに分けてる最中。

明らかに保留の山が盛り沢山だが取り敢えず無視。

保留にするのも一応は訳も有る事だしね。


好物は一番最後まで取って置く人の気持ちがいまいち分からないわたし。逆に苦手な物も後回しにはしない。好き嫌いなんか言える人……じゃない猫生なんか殆ど送れなかったんだから当然。


2歳違いの兄はお子様時代にまぁ駄々を捏ねた。

それを横目に黙々と兄が苦手だとほざく野菜を食べ、淡々と教師から与えられた課題をこなすわたしに、兄が放ったのは生き急いでババァになっている!とのお言葉。酷くないですかね?!


潤ピチ艶肌の乙女を捕まえて言う台詞か?!

殴りましたよ、そりゃお子様ですからわたしも。

7歳にして人格が出来上がってた点は年相応じゃ無い事は確かなので認めますけれども。


あ、ちなみにですが、確認したらその兄は未だに寝台で熱で魘されているそうです。どんだけ?!

王家からわたしに婚約が打診されたって事はだ。

将来的に何事も無ければ、この伯爵家が王妃の生家って事であやつはその次期伯爵って事で……。


……大丈夫なのかねイロイロと!?


一瞬不安には駆られたがそれでも手は止めない。

一度止めたらもうヤる気もそのまま溶けそうだ。


目処がつきそうな辺りで部屋の隅に控えるメイドに目配せすれば、日頃からの信頼関係構築のお陰か小さく首を縦に振って静かに部屋を出て行く。


一息入れるべく飲み物を頼んだのだ。

高給を謳う高位貴族では無い我が家ではあるがメイドネットワークによると人気の職場らしい。

中には先輩からのイジメが横行したり、主人がヒステリックで生傷の絶えないトンデモ職場が有るそうで。其処に比べたら我が家は天国なのですと。


何せ当主も夫人も性格は穏和、息子も娘も親に似ているので所謂モラハラやパワハラがゼロ。

やっぱり職場環境って大事なのねと思いました。

ところでこの話を聞いた際のメイドさん、金よりも命や身体の方が大切なんです!と力説なさったけど前にナニかあったのでしょうか……?


……うん、さっさと済ませて一息つきましょ。



「この一杯の為に生きている……」


やや温めに淹れて貰った紅茶を一気飲みしてつい呟いてしまった。時々夜だけ明るくてやたらと騒がしい建物の扉の隙間から見えた、金色の泡の飲み物のグラスを片手にそう言ってたおっちゃん達の気持ちが今更ながらに良く分かるわぁ。


お代わりを淹れるべく脇に控えたメイドさんの肩が絶妙に震えていたけど見ないフリをしといた。

主に自分の精神安定の為ですがナニか?!

こんな時くらい気は抜きたいんだから仕方ない。


ソファーの背もたれに力を抜いてダラリと凭れかかる。わたしにはまだ専属メイドは就いては居ないが、10歳になった事と、思い出したくも無いが例の王家からの無茶振りを考えれば遠からず就けられても可笑しくは無いだろう。


が、あんまり堅苦しい歳の離れたヒトは嫌だなぁなどと憂鬱になる。人……いゃ猫生半分以上が野良の身の上ではあったがわたしは基本的には人嫌いでは無かった。むしろ積極的に交流を試みた事すら有るのだ、主に飯の為に!ココ凄く大事!!


わたしの暮らしていた国の民族性というヤツはそれなりに野良には有難い環境だったみたい。

ちょっと離れた場所でお座りして顔を見上げて高めの声で鳴けば、半分の人は何かしらの食べ物を貢いでくれた。味が多少濃かろうと構わず食べましたわよ、当たり前じゃ無いですかヤダ~。


たとえその場では何も持っていなくとも、その後に二回三回会えば煮干しの袋を常備する様になってた人も居たわね。で時々、ご近所の野良仲間に食べずにお裾分けにも行ったり……懐かしい。


んで何の話をしてたんだっけか?

あぁ専属メイドね、話が大分逸れていた。


そう、基本的に人見知りしない性質は前世から受け継いだみたいだけど気が合う合わないは別。

年中顔を合わせるのに遠慮したりしなきゃなんない仲って何の拷問よ!と思ってしまうわたし。


教育係のオバちゃ……いぇご婦人はかーなーりヒステリ……ゴホン、厳格な性格でいらっしゃるから同系統な人は出来る事ならお断りしたい。

この辺りはお母様に要相談致しましょうか。


さて、選別はもう少しで区切りがつくけど、今度は保留分の仕分けをせねばならないのよね……。


いっそ間違えたフリして暖炉に放り込む?!


疲れていたせいか、浮かんだそんな誘惑を絶ち切るのにまた精神の疲れが倍増したわたしだった。


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