4、決戦場所(城)へといざ行かん!?
……の前に情報収集と決め込む。
戦闘服は用意できたので次は武器(情報)を用意する。手ブラで挑むのはゴメンなので。ただしコレが武器になるかは不明だが気分的に無いよりマシだと思ったので深い意味ナシ。
お相手に選んだのは趣味と特技が一体化して、果てには特化まで成し遂げてしまった『変態』。
情報を集めるのが趣味、情報を集める為の手段を問わないのが特技。それに特化したのが変装。
ならばただの『変人』で済む筈が何故『変態』とまで評するのかと言えば……だ。
「いらっしゃあ~い、来る頃だと思ってた♪」
……2日連続で女装趣味に会う羽目に陥るとは人生って何が起こるか分からんモンです。
その御仁は若き伯爵家の当主、御歳20歳。
昨日の内に先触れの手紙を出しておいたのでわざわざ当主自ら玄関先までお出迎えに来て下さったのだが、わたしとしては失礼を承知で無言に半目で無表情にならざるを得ない。
中肉中背だから“それなりに”だが、万人に合うようにデザインされたと言われるメイド服もその法則が適用されるのは女性のみだと思うの……。
その胸の膨らみは詰め物だろうけどそんなトコまで忠実に再現する必要も無いと思うの……。
裾摘まんで片足引いて挨拶しなくていい!!
裏声で可愛らしく口調を作らんでもいい!!
ギャップ萌えならぬ衝撃は先日味わいはしたものの、前~世以外にオネェ様への偏見が無いのは実はコイツのお陰……いやせいだろう。
実はコイツのお母様から結婚の打診を受けた事があるわたし。その時7歳、コイツは17歳。
歳の差10歳は貴族世界ではまぁ許容範囲。
それでも年齢差より問題視されたのはわたしの歳。
直ぐにでも婚姻出来るお年頃男子に、後10年は待たねばならない子供を宛がおうとするのはどう考えたって異常事態だからね、一応。
……まぁ理由が理由なだけにウチの家族も断りつつも目一杯同情してましたけど。
そりゃあ“彼”のお母様には同情致しますわよ。
趣味が趣味だけに、そして特にそれを隠そうとしてなかった為に、コイツの婚約者は自称も他称も推薦も含めて候補者ゼロ!!1年後には伯爵家を継ぐ優良物件の身で有るにも関わらず、だ。
まぁそうだよねー。
客人が来るの分かってて、メイド服着てお出迎えするヤツの嫁に誰がなりたいと思うのだろうか?
居たらソイツにも『変態』の称号をあげよう。
顔だって充分見目に耐えうるし背も体格も普通。
領地だってわたしの産業便乗の余波を受けて急速発展して只今超金持ち。けどそれを上回る実態の悪さに誰も手を上げず終いで未だに独身生活を謳歌中。お母様の嘆きようと絶望はそりゃもうマリアナ海溝よりも深くていらっしゃるコトだろう。
学生時代には本格的に行動を開始していたそうで既に貴族界隈では有名となっていたが為に、伯爵家主催のお茶会でもホストにも関わらず遠巻きにされていたヤツ。わたしは噂を知らずに話し掛けられ、普通に返事をして会話をしたらただそれだけで強者扱いされ、以来婚約打診の嵐を受けたり(勝手に)友人認定されて付き合いが始まった。
ちなみに兄も一度だけ怖いモノ見たさでわたしの馬車に強引に同乗したが、やはりそれなりの格好で出迎えたヤツを見た途端にわたしを置き去りにしてその馬車で逃げ帰って行った事がある。
兄よ、帰りの馬車を借りる為に頭を下げる羽目になったその時の屈辱は生涯忘れるつもりは無い。
「もぉう、相変わらずイケずなんだからぁ~」
無駄な時間と労力には無縁で居たいわたし。
この辺は長年猫でいた所以からだろうか?
応接間に通された直後に茶が運ばれるのも待たずに用件をズバンと切り出せば、返って来たのはやはり裏声による身体クネクネながらの返事。
気持ち悪いので目を逸らさせて貰う。
もちろん言動だけでは無い徹底ぶりだ。
茶色の髪を長いので三つ編み二つ結わえにし小さなレースリボンで飾ってるし、灰色の瞳の目元にも薄く色を乗せているしリップも塗っているであろう唇もピンクで艶々……凝り過ぎだろう!!
「……王家から届いた手紙の件、かしら?」
急に真面目な顔で聞かないで欲しい。
まぁ用事はさっさと済ませたいので有難いけど。
ただついでに口調と声も戻しやがって下さるとより有難いのですが駄目でしょうかね?
取り敢えずコクリと頷けば、やれやれと言った感じに首を左右に振る様が何だか演技じみてて大仰。
「王家が欲しがっているのは貴女……と言うよりはその発想力と実行力でしょうね。10歳にも満たない少女が自分の領地を王都より発展させたのだもの。そりゃ逃がしてなるものか!だわ」
異世界の知識が有る事は誰にも言ってはいない。
ただの産業技術ならばいざ知らず、殺傷の高い軍事技術などを求められるに決まっているが断固拒否する。そもそも知らないし~?
異世界だから彼方とは違ってエネルギーは魔力。
かつて猫だったわたしだって電気位は知ってる。
だからこっちの常識にも違和感は無かった。
『魔法』やら『魔術』に関してはねー……。
直前の飼い主が難重度のオタクでさー……。
知識を語ろうにも相手してくれる人が居ないからって飼い猫にツラツラと語る人でして……。
聞いて無かった筈なのに気付いたら憶えてた。睡眠ならぬ無意識学習能力ってヤツかしらね?!
字が読める様になってからは世界での差違を埋めるべくその方面の本も読みまくり穴埋めも結構。
どうしても納得いかない部分には、知り合いの専門家の元へと押し掛けて質問の嵐を浴びせたら出禁喰らった。酷くないですかね!?
「今の国王はね、結構貪欲なのよ。あ、戦争したいとかそーゆーのじゃなくて……う~ん名誉とか顕示欲と言えば良いのかしら?自分の国の優れた部分を他国に自慢するのが何よりも好きなんですって。私個人的には微妙に小心者だと思うけど確かに害は少ないわよね。で、貴女を息子の婚約者にすれば身内と言えなくも無いから功績を今までとこれからの分も吹聴しまくるでしょう、間違いなくね」
中々に面倒厄介な人物が国王だとは……。
この国大丈夫なのか少し心配になるね。
要は、他人が功績挙げたとしてもそれを自分が優れている様に振る舞ったり自慢したがるって事?
マウント取りたがりタイプかぁ~。
しかも他人の褌で相撲を取るってカンジかも。
じゃあその息子はどうなの?やっぱり曲者?
「世間一般の貴族令嬢って一度は王子様に夢見ると思ってたけど貴女に懸かると台無しね。一般からすれば非常識の域に入りそう……」
うわー、非常識の塊に同類呼ばわりされるって腹立つよねー。爪で顔を引っ掻いてあげようか?
出し入れは出来ないけどお手入れはしてるのよ。だって大事な武器じゃない?猫にとってはだけど。
「止めて頂戴よ!謝るから!!」
嫌ならさっさと情報寄越しなさい!!
言っとくけど、噂以下の外聞評価しかしなかったら……分かってるわよ、ねぇ?出来るなら紅く染めるのは血じゃ無い方が良いんだけど。
「酷ぉ……。え~と、対外評価は俺様傲慢野郎?ただし王子様だしまだ子供だから許容範囲だろと周辺は生温かい目で見守っている真っ最中。実際にはちょい我が儘位のお年頃少年が患う黒歴史病に犯されたイタイだけのお子ちゃま?」
害が有るか無いか微妙に分からん野郎だな?!
お年頃男子として厨二病患う部分は一般的にはマトモなのかもだが王子様としても微妙ー。
「王太子教育には特に差し支えて無いし隣国の評価も悪くは無いから、将来の国王としての弊害にはなって無いと見逃されてるカンジ?せいぜい数十年後に誰かしらに指摘されて悶えるネタにされる程度だからねーこんなモノ」
確かにそうだわ。
変に拗れさえしなきゃ放置しても構わない程度の傲慢さと我が儘なのだろうね、実際は。
……微妙王子として認識しとけば間違いない?
あまり参考にならない情報しか手に入らなかった。
後は王子自身を見て自分で判断しなきゃどーしようも無いのか……とつい肩を落としながら我が家への帰途に着く。色々と損した数日間。
そんな印象しか抱けない準備期間だったわぁ。
仕立てられた戦闘服は一流だったけど仕立てたヤツの衝撃には耐えきれなかったし、やはり受けた精神的被害の割には貰った武器(情報)がショボい有り様。足して割ったらプラマイゼロ……いやマイナス一択だ。嬉しくない!!
ちなみにだがヤツの名はクリスチャン。
『こーいう姿の時はクリス、またはクリスティナと呼んで♡』と仰られる。呼ばんけど。どーせ後ろが“ちゃん”なんだからまんまで良くね?
何だろうか?
このテの方々は名前にも凝る傾向が有るのか?!
疑問には思うが解明はしたくない、絶対。