2、恐怖もしくは不幸のお手紙の返信を……
したくは無いけどせねば成らぬ!と苦悶する家族。
絵姿作成の為の画家はアッサリと決まりさっさと描き上がったのに、3日経った今現在も釣書の内容は一行たりとも決まって無いのだ。
絶望からか髪を搔き毟る度にハラハラと散る黒い毛を眺めながら、今年の父親の誕生日プレゼントは今評判のお店のカツラにしようかなー?などと考えている呑気サンはわたしだけだったりする。
……もう開き直って在るがままを書けば良いのに。虚偽申告の方が罪は重いと思うの。
三日目の夕方に、疲れきって幽鬼と成り果てた両親と兄にそう告げれみれば、まるで神殿で神託を受けたかの様に顔を輝かせ、終いにはそう提案したわたしを揃って拝み始める始末。
…………どんだけ追い詰められてたの皆様!?
ところがぎっちょんキリギリス。
今度はその内容をひたすら丁寧に無難にオブラートを包み捲った表現で追求するか、意味不明な凝り方に舵を切ってしまった我が家族。
敢えて問おう、ナニがどうしてそうなるの?!
またまた頭を抱えて悩み出し、挙げ句は知恵熱出して両親と兄仲良くベッドの住人と相成りました。
仕方ないのでわたしが全部書きましたよッ!!
重ねて言うけどわたしは10歳。
両親はせいぜいが二十代後半の筈だし兄ももう13歳なのに何でそんなに打たれ弱いの?!
一番しっかりしてるのがわたしなんですかね?
で、我が家の封蝋は無難に盾と鷹。
辺境にやや近く、昔々は高位貴族や王族も時々居らして狩りを楽しんだ場所が由来なのだとか。
……鷹はともかく盾は何処から?
まず一番お高い便箋と封筒を用意します。
封蝋の用意ももちろん忘れずに致します。
次に頑張って綺麗な字に見える様に字を書きます。
尚、傍らには執事兼家令がスタンバイ。
誤字脱字を防いで尚且つ書き損じを失くす用心に。
だって本当にお高いんだよ!便箋も封筒も!!
例の異世界チート産業で財産は滅茶増えたけど、元が慎ましやかに暮らしてた地味貴族だから贅沢には未だに慣れないの……悪い?!
美辞麗句を並べ立てた所でたかが知れた内容。
それでも無いよりはマシ!の精神でひたすら綴る。
念のため下書きも用意して、時間短縮の為に夕食も軽食を詰め込んでハイ終了。書き終わったら軽く真夜中でした……かなすぃ。
朝イチで届ける様に執事兼家令に託してベッドに身体を沈ませたらもう朝になってましたとさ。
返信はその翌日。……ちょっ速過ぎね?!
再び活躍の銀盆に載せられたそれを、知恵熱という病から復活した母親が恐る恐る封を切った。
銀盆に刻まれたのは8ビートだったのは余談だ。
ちなみに父親と兄は未だにベッドの住人である。
我が家の♂は代々ヘタレなのだそう(母親談)。
なので嫁にはなるべく強者を選ぶのだとも。
母親も幾分かヘタレだがまだ♂共よりはマシか?
そしてその返信は至ってシンプルだった。
前と同じく使われているのは最高級仕様の便箋封筒。なのに書いてあったのはただ一行。
『○日後に令嬢連れて城に来い』。
(もう少し言葉遣いは丁寧だったけど)
野太い声で叫びたい、どんだけぇ~~!?と。
ついでに言おうか、そりゃ速いわ!とも。
4頭の白馬に牽かせた馬車に乗って颯爽とこの返信を届けに来られた城の高官らしき方、お粗末な中身を知っていらっしゃるのでしょうか……?
もし知ってたら一緒に叫んでくれたかもね。
あれだけ懇切丁寧に、真夜中過ぎまで頑張ったわたしの苦労を何処かへと踏みにじられた気分。
色々と仰々しい揃い踏みの割に残念感が半端ない。
それと支度するのに時間が足りない、かも?
えー、繰り返します、わたし10歳。
成長期で成人前、つまりドレスは然程無い。
仕立てる側から伸びるからね、身長!!
仕立てる程社交もまだしてないからね!!
城には貴族でも気軽に行けるモンじゃ無い。
住んでるヤツにはそれが分からないらしい。
別の意味でナイナイ尽くしが再び到来しましたね。
再会しても嬉しくナイ存在筆頭候補だよキミぃ!!
いっそ金に明かせて大至急仕立てるか?
幸いと表現するかは人其々意見の相違も有るだろうけど我が家には金が唸る?腐る?位は有るのだ。
さながら何時使うの?今でしょ!?ですかしら。
そうと決まれば負けじとちょっ速。
この際だから王都一番と評判の店に殴り込もう!!
最近巷ではorzが流行りなのか?
『5日以内、国王拝謁、相応しいドレス』で検索を掛け……違う、注文してみたら店員さんから返って来たのがこの反応だった。先日実家でも見たなぁ。
大人用ドレスだったら何とかなったのにー!!
少し待ったら復活したが、今度は握り締めた拳を高々と突き上げて目の前でそう叫ばれた。
……此処って評判のお店だった筈だよね?
ノリに体育会系の脳筋のかほり漂うのだけど?!
迷う間に撤退し損ねて、復活した店員さんに秒でガッシリと拘束されて店の奥へと拉致られた。
物理で抱き上げられて運ばれました!!
やっぱ行動にも脳筋のかほりがプンプンと匂う。
評判の方向性が異なっているとしか思えない!?
「あらぁ、可愛いお客様~~♡」
……叫びたかった野太い声のあの人によく似た方が目を輝かせて待ち受けていらっしゃいました。
オネェってこの世界にも居ますのね……。
いかがわしいネオン街の裏通りでよくエサをくれたオネェ様を数人知っていたので拒否感は無い。
異世界なだけに違和感は半端ないですけどね。
どうやらオネェ様がふりふりゴテゴテがお好きなのは異世界越えて万国共通らしい。
表に飾られてあったドレスからは想像出来ない。
ちなみにこのオネェ様が店長兼デザイナー兼お針子さんでもあるのだとか。……嘘だろオイ?!
いっそ叫ばさせずに自ら叫びたくなったわたしに構わず、ぱっぱか手早く脱がせてサイズを測って速攻で着戻させた後に、何故か解放せずに高い高いとぐるぐる回りと肩車までして下さったオネェ様。
お子様だからの特別サービスですかねっ?!
「バッチリがっちり仕上げとくわね~~♡」
その後、やたらと上機嫌なオネェ様にハンカチをヒラヒラと振りながら定番なお見送りされたが、ぐるぐる回りのせいで目もぐるぐるだったわたしは構う事なく馬車の座席とお友達状態となっていた。ちなみに恋人役は抱き締めたクッションです。
作り上げたドレスを取りに来るのか届けるのか?
基本的な確認を怠ったが為に使者と手紙が慌ただしく行き交う羽目になるのは翌日のお話。