7. サンタの正体
寒さも厳しさが増し、吐く息は白い。
空を見上げると灰色の雲が厚く積もっていた。
駅前はクリスマス一色で、気の早い店だと11月のうちからクリスマスソングをBGMに流していた。
「シュウヤ、今年のクリスマスはどうするの?」
「パーティーならサヤがやりたいっていうならやるつもりだよ」
「そっか」
短く答える。
修哉とサヤちゃんは三年前からクリスマスを家で過ごしていた。母が二人をうちのパーティーに誘うこともあったが、シュウヤが断っていた。
その日はあの子にとって大事な日だから。
*
息を吐くとすぐに白く凍り空気にとけていく。登校中に冷えた体は暖を求めて教室に飛び込む。
真っ赤な光を点したストーブを中心に生徒たちが輪を作っていた。
「ねぇ、クリスマスプレゼントは何に決めた?」
「うーん、ほしいものいっぱいあってさ。全部いったら一つにしなさいって怒られちゃった」
「サンタさんも困っちゃうよね」
もうじきやってくるクリスマス、冬休み、正月と明るい話題でもちきりだった。
「なんだよ、おまえらまだサンタなんて信じてるのか」
談笑していた女子がむっとした表情で振り向く。机に足をのせてぎいぎいと椅子を揺らしていた。
「サンタなんてでっちあげだ。いいか、おまえらは大人に騙されているんだ」
「ちょっと、行儀悪いからやめなさいよ」
「うるせーな、それも大人が作った決め事だ。オレは決まりごとなんかには従うもんか」
「またアホなこといいはじめた……」
「いいか、大人なんていうのはウソつきだらけだ。一番初めはオレがまだ子供の頃のことだ。今日は注射をうたないよ、なんて言っていた医者がいたんだ。甘ちゃんだったその頃のオレは、そうかと安心しちまったんだ。それでよそ見をした隙にぶっすりさ」
肩をすくめてシニカルな笑みを浮かべる。赤い箱を懐から取り出すと片手でふった。飛び出したソレを口にくわえると、教室内の男子たちはざわついた。
「すげー、ポッキーを一度に5本も食べてる」
「くくくっ、それだけじゃないぜ。オレはなぁ、トローチを口にいれてもすぐバリバリかみ砕いちまうワルなんだぜ」
「うそだろ……そんなことまで」
尊敬のまなざしを向ける男子たちに、一人の女子生徒がため息をはく。
「あんた、学校にお菓子もってきてんじゃないわよ」
「へっ、鉛筆を最後まで使い切るいい子ちゃんなんかにはわからねえよ」
世の中を嘲笑うように片頬を引いて笑ってみせる。そんな不良ぶった仕草への返事は呆れた視線だった。
「どうせクリスマスプレゼントで高価な物ねだって断られたってところでしょ。なにすねてんのよ」
「そ、そんなことは……ない、ちがうからな!」
「はいはい、いつまでも子供なんだから」
見透かしたような視線を前に一瞬口ごもりそうになるが、馬鹿にしたように見下ろす彼女に言い返す。
「サンタだったらなぁ、PS5の一つぐらい余裕なはずだろ。だけど、うちの父ちゃんときたら『サンタさんの住んでるとこには電気屋がないからPS5は持ってこれない』なんていうんだぞ!」
「数万円もするのなんて頼んだからそうなるのよ!」
「いいだろ! 一年に一回だけなんだから!」
ぎゃあぎゃあと二人が言い合う中、サヤが遠慮がちにアドバイスする。
「えっと、サンタさんにお手紙書いてみようよ。そしたら、届くかもしれないよ」
彼女の表情はというと、本当に親切心からいっているようだった。からかっているわけではないので、彼も強くはいい返さなかった。
「それを渡しても意味なんてないだろ。結局は同じことなんだから」
「え……? どうして……?」
「だって、クリスマスプレゼントは父ちゃんが夜にこっそり置いてるんだろ。賢木の家もそうだろ?」
「うちのお父さんは……」
「あっ、ばか」
さっきまで言い合っていた女子が止めようとしたときにはもう遅かった。
「ちがう……、そんなことないもん! サンタさんはいるんだ!」
サヤは顔を真っ赤にして睨みつけながら、手をぶるぶると震わせていた。普段はにこにこして大声を出したこともなかった。そんな彼女の変化に周囲がざわつく。
「ど、どうしたんだよ、急に……?」
「…………っ」
突然の変化にうろたえていると、彼女は目の端に涙を浮かべて教室を飛び出していった。
「なんだよ、あいつ……、なあ?」
気まずい顔をする彼に女子がため息をつく。
そこに予鈴が鳴り響いた。入ってきた教師が教室の雰囲気を察する。
「さっき賢木さんが廊下を走っていったけれど、なにかあったの?」