3. 妹の後ろには不審者
日曜日、買い物に出かけた帰りに、道の先でサヤちゃんを見つけた。他にもクラスメイトと思わしき男子と女子が一緒にいる。
「あっ、お姉さん、こんにちは」
こちらに気がついたサヤちゃんが笑顔で手を振ってくる。駆け寄ってきた彼女は小脇にノートを抱えている。
「今日はどうしたの?」
「みんなと課外授業で調べ物してるんですけれど、お兄ちゃんもついていくとか言い出して困ってしまいました。わたしってそんなに頼りないでしょうか?」
なんとなくその様子を想像できてしまう。
手助けしたいというより手伝いたくてしょうがないのだろう。
「大丈夫だよ。今日は何を調べてるの?」
聞いてみると住んでる町について調べるというもので、まとめたものをグループごとに発表するらしい。
わたしたちが話していると他の二人が所在なさげにしている。
「二人はサヤちゃんのお友達かな?」
「は、はい、そうです」
男の子のほうが上ずった声で返事をする。身体を折って視線を合わせると、照れたように視線をそらす。日に焼けた頬も若干色づいている。
その初々しさに頬が緩む。
一方で一緒にいる女の子は不機嫌そうだった。
その視線の先には男の子がいる。
なるほど。理解した。
「三人とも図書館の郷土資料は見たかな」
「なんですか、それ?」
女の子がつっけんどんな返事をする。
「この町の昔のこととかが書かれてる本だよ。町の成り立ちとかが書かれているから。ネットだと詳しいことまでは調べられないからきっと参考になると思うよ」
「なるほど、ありがとうございます」
女の子はぺこりと頭を下げる。
離れていく三人に手を振って見送る。
そして、塀の角に隠れていた人影に近づく。
「……なにやってんの?」
「うるさい、今話しかけるな。サヤの友達がどんなやつか見ているんだ。ニュースでもいじめとか問題になってるだろ」
「あの子の性格なら大丈夫でしょ」
目立ちはしないけどクラスにうまく溶け込めているだろう。
「なに? もしかして寂しいの?」
「いや、クラスメイトと仲良くするのはいっこうにかまわない。だけどクラスの中にあんなかわいい子がいたら絶対好きになっちゃうだろ。そんなのはまだ小学生には早いだろ!」
「……そうだね」
もしもあの子が彼氏をつれてきたときは一体こいつはどんなリアクションをとるのだろう。
「それに、近所で変なヤツがうろついているらしいから警戒中だ」
「あんた、それ本気でいってる?」
電柱の影に身を隠すシュウヤをじっと見る。不審者の幼馴染は話しながらも、自分の妹から視線をはずそうとしなかった。
「見ろ、不審な男がサヤに近づいた」
「逆よ、サヤちゃんが話しかけたんでしょ」
スマホを片手にきょろきょろと道を見渡していたサラリーマン風の男性にサヤちゃんが話しかけていた。
「こんな昼間から、あやしいやつだな」
すすすと足音を殺して移動するシュウヤについていくと、話し声が聞こえてきた。
『こんにちは、何か探しているのですか?』
『実は道に迷ってしまってね。このあたりに沢村さんのお宅はあるかな?』
どうやら人助けをしているようだった。彼女のこうした姿はめずらしくない。迷子の子供を見れば母親を一緒にさがし、横断歩道で立ち往生してるおばあさんの手を引くこともあった。
『ありがとう、キミはしっかりしているんだね』
『それはお兄ちゃんとお姉さんのおかげです』
『それは、もしかして……』
サヤちゃんの背中ごしに男性の視線がこちらにむけられた。シュウヤにつられて振り向くあの子の視線から慌てて隠れる。何してるんだ、わたしは。
礼をいう男性と別れると、サヤちゃんたちは図書館の方に向かっていく。その後をまたシュウヤが追いかけようとしだすので、その肩に手を置いてとめようとした。
「ちょっと、やめなさいよ。本当に」
「サヤのやることを見守ってその成長を確かめる。兄として大事な役目だろ」
肩に置かれた手を振り切って進みだしたシュウヤはわたしが何を言っても止まらないだろう。
やがて、シュウヤは青い制服の警官に呼び止められる。
『キミ、何してるのかな?』
『……え、いや、これは大事なことでして』
不審者は捕まった。
日本の警察は本当に有能らしい。
アホは放っておきたいが、そうするとサヤちゃんに迷惑がかかる。仕方がなく職質されているシュウヤのところにむかった。