将棋で勝てないなら、サイコロでもいいや
高校生になった僕こと、千葉歩はある部活に入部した。そう、それは将棋部だった。
ある日の放課後。一つの教室から、パチパチと音が聞こえてくる。
そこは将棋部の部室。部員は僕と部長と馬子さんの三人に、幽霊部員である竜王さんの四人。
本当は五人いないと部とは認められないみたいだけど、なぜか部として認められている不思議な部だった。
「王手」
「え?」
「王手」
「ちょっと待って……うーん」
この日も、いつものように僕と馬子さんは将棋盤を挟んで向かい合っていた。
「負けました」
馬子さんは諦めたようにガクッと頭を下げる、右手を駒台にそっと添えて。
「なんだ……また負けたの馬子」
隣で本を読んでいた部長は盤を覗きながら言った。
「そうなんです、千葉くん強くて……」
「……そんなことないですよ」
僕が強いのではなく、馬子さんが弱すぎるのだ。
部員なのに馬子さんが駒の動かし方を覚えたのはつい最近のこと、弱いのは当たり前だった。
「でもかなり強くなってきてますよ」
最初に対局した時は駒落ち、つまりハンディ戦で戦っていたのに今では十分平手で戦えるようになっていた。
「そうかな、えへへ」
僕の言葉に嬉しそうな馬子さんは笑みを浮かべる。
先輩ながら心配になるくらい、なんとも単純な人である。
「そういえば部長とは指したことありませんね?」
入部してかなりたつけど、部長が指している姿を見たことがなかった。
「そういえば……私も見たことがないです……」
「馬子さんもですか?」
驚きの発言である。なぜって部長と馬子さんは僕が入部する一年前から将棋部で活動しているはずなのに……。
「一度指してみませんか?」
「それは無理よ」
部長はきっぱりと答える。
「どうしてですか?」
「だって、私将棋指せないもの」
「え?」
聞き間違えだろうか? 衝撃的な言葉が聞こえたような……ワタシショウギサセナイ? あなた……将棋部の部長ですよね。
「知らないものは知らないんだからしょうがないでしょ」
まぁ知らないことは良いとしても……うん? ちょっと待てよ、部のトップである部長が将棋を知らなくて……僕が入るまで唯一の部員だった馬子さんも(竜王さんは幽霊部員なので除外)つい最近将棋を覚えたばかり。ということは……
「それまで二人は何してたんですか?」
「寝てた」
「読書です」
恥ずかしげもなく、二人は答える。何部なんだここは? こんな部活に入って本当に大丈夫なのか? 今さらながら一人後悔するのだった。




