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接吻


 王は走っていた。これほど、真剣に走ったことが未だかつてあったかと思うほど、急いでいた。


 本来ならば、転移の魔法で神子の所へと一瞬に移動したいのであるが、神子がどこに降り立つか分からないので、神子の気を追いながら走るしかなかったのである。


「それにしても、これでは神殿の外に出てしまうぞ」


 神殿内部の長い回廊を走る王は、このままでは屋外に出てしまう事に怪訝そうに眉を寄せる。神子の向かう先が神殿だと分かったため、神殿内の祈りの間に神子が現れると思い込んでいたのだ。だが、既にその祈りの間は過ぎている。


 王はこの先にあるものを考え、気付いたようにハッと目を開いた。


「まさかっ! 俺の予想が正しければ、神子が危ない」


 顔を強張らせた王は、神子の降り立つ場所へと瞬時に転移した。






 王がそこに転移した瞬間、すぐに虹色の光に包まれた人影が目に入った。水音と共にその人影が泉の中へと沈み消えていく。


「チッ! やはりこの泉か」


 舌打ちをしつつ王は素早くマントと上着を脱ぎ捨てて、躊躇なく泉へと飛び込んだ。


 神殿の外にあるこの泉は大変美しく、時には虹色に輝くため『女神の泉』と呼ばれているのだが、その水は大変冷たく水浴びできるようなものではない。おまけに底が深いときているため、泳ぎは禁止されているのである。




「……神子!」


 あまりの冷たさに顔を顰めながらも王は必死に泳ぎ、神子の落ちた中心部へと着くと、息を一旦大きく吸ってから泉へと潜っていった。水の中で長い金の髪がゆらゆらと揺らめいている。


 王はすぐに眠ったように目を閉じている神子を見つけ、しっかりと抱きかかえて地上へと向かっていった。


 目に入った神子の姿に一瞬驚きの表情を浮かべはしたが……。




(何故、何も身に纏っていないのだ……?)




 それもそのはず、神子である菜穂はお風呂に入ろうと全裸になった時にこちらへと呼ばれてしまったのだから……。当然、ずっと裸のまま落ちていたのである。寒さを感じなかったため、菜穂自身服を着ていない事はすっかり忘れており、夢の中でも当然のように服を着ていたのだ。








 菜穂を抱きかかえて陸地へと戻った王は、地面に広げたマントの上へそっと菜穂を寝かせ、すぐに心音と呼吸を確認した。


「……っ?! 息をしていない!?」


 顔を蒼褪めさせた王は、すぐさま菜穂の唇を塞ぎ、息を吹き込んだ。同時に菜穂の胸に両手をあてて心臓マッサージも始める。


「神子、目を開けろ! 戻ってこい!」


 王は悲痛な声で叫びながら何度も菜穂に自分の気を注ぎ込んだ。



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