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女神


「えぇっと、どちら様でしょうか?」


 菜穂は目をぱちくりと瞬かせ、目の前に立つ人物に声をかけていた。


『だから、さっきも言ったでしょう? 私は女神。正確には、キスイダネホネホを見守る美と愛の神、ネホ・ウボンイレよ』


「はい?」


 聞きなれない言葉にポカンと大きく口を開いた菜穂は、胡散臭げに相手をジトーッと見つめた。




(大丈夫、この人? 自分を女神だなんて頭おかしいんじゃないの? 確かに綺麗な人だけど……髪の色といい……なんていうか……ちょっと、かわいそうな人?)




 目の前でニコニコと微笑んでいる女性を改めてマジマジと上から下まで観察するように眺める菜穂。


 客観的に見て、綺麗に整った顔立ちでスタイルも良く出る所は出ていてかなりの美女。だが、髪の色が何色にも分かれている。ちょうど綺麗に7色で配合され、いわゆる虹のような髪なのだ。オマケに眉までも虹色7分割である。よく見れば、睫毛までも……。




「はぁ、女神様ですか……。そうですか。それで、女神様が私に何のご用で?」


 すっかり相手を不審人物と思い込んだ菜穂は、これはまともに相手をしたらいけないと思い、適当に話しを合わせることにした。


 そんな菜穂の心の内を知ってか知らずか本物の女神は、ニコニコ笑顔のままで話しを続ける。


『まぁ、こんな所で立ち話もなんだから、お茶でもしながら話しましょう。まずはテーブルと椅子ね?』


 パチンと女神が軽く指を鳴らすなり、その場に丸テーブルと椅子が現れた。


「え!?」


 驚愕のあまり菜穂が呆然としていると、テーブルの上に湯気のたっている2つのティーカップとケーキがパッと出てくる。


「なっ、なっ……」


『あらやだ、何を驚いているの? ここは夢の中だからこのぐらい簡単にできるのよ。貴女にもできるわ』


 驚きまくっている菜穂を見て、くすっとおかしそうに笑みを零した女神は、椅子に座るように促しながら自分も優雅に腰を下ろした。


 女神が座るのを見てから菜穂もとりあえず椅子へ腰を下ろす。そして、周囲を見渡して納得したように頷いた。


「そうか、これは夢なんだ」


 菜穂達のいる周りは何もない真っ白な空間がずっと広がっているだけである。


 思わず菜穂はポツリと独り言を呟いた。


「こんな真っ白な空間じゃ……。せめて森の中とか……あっ!」


 その瞬間、周囲の景色があっと言う間に変化した。緑の木々が永遠と広がり、小川の流れる音や小鳥の囀りが聞こえてきたのである。


 菜穂は驚いて周囲をきょろきょろと見渡す。


「すごい、本当に一瞬で森の中になった」


『ね、言ったとおりでしょう? ここは貴女の夢の中。だから何でも自由にできるのよ。さあ、お茶でも飲みながら話をしましょうか』


 紅茶の入ったティーカップを優雅に手にとりながら軽く首を傾げて女神は極上の笑みを浮かべた。








「つまり、要約するとここは私の夢の中で、貴女は地球ではない異世界の神様。で、私は今、その異世界に向けて落ちている所だと……?」


 菜穂は女神の話を半信半疑で聞きながら不思議そうに女神を見つめた。


『えぇ、そういう事。もうすぐ、貴女は私の世界に降り立つわ。そこで、貴女は王に会い、ある頼み事をされることになるの。その頼み事を引き受けて欲しいのよね。分かった?』


「はぁ、頼み事ですか……。私にできる事なんですか?」


『あら、菜穂、貴女じゃないとできない事よ。もちろん、タダでとは言わないわ。ギブ&テイクだものねぇー。貴女への報酬は、貴女が今一番欲しいもの……』


 ティーカップをテーブルに戻した女神は、にっこりと微笑みながら意味有り気な視線を菜穂に向ける。


 菜穂はそんな女神の言葉と視線に驚き、ちょうど口に含んだ紅茶をゴクンと嚥下した。


「それ……って、まさか……」


『そうよ、理想の骨。貴女がずっと求めていた骨格。どう? 悪い条件じゃないでしょう? 引き受けてくれるかしら……?』


「やります! 是非やらせて下さい」


 女神の返事に瞳を輝かせた菜穂は、勢いよくテーブルをドンと両手で叩きながら迷うことなく即行で承諾した。既に菜穂の脳裏は理想の骨でいっぱいになる。




(骨……。私の理想の骨……。早く会いたいよー!)




 にまにま締まりなく口元を緩めながら、うっとりとどこか遠くを見つめている菜穂。


 そんな菜穂を温かい眼差しで見つめていた女神は、すぅっと立ちあがって菜穂の傍へと近付いていく。




『それでは、最後に私からの祝福をあげるわ』


「へっ?」


 不意に目の前が陰って、ふと顔を上げた菜穂の額にそっと女神の唇が触れた。


「???」


 一瞬何が起こったのか分からない菜穂はキョトンと目を開いたまま女神を見つめる。


『きっとこの能力は貴女の役に立つわ。青は安全、黄色が注意、赤は危険よ』


「え、何? 信号……?」


 何を言われているのか分からない菜穂はますますキョトンと首を捻るのだが……。くすっと女神は黙って微笑むだけで、ふと視線を空へと向けた。


『あら、残念。もう時間切れね。もっと菜穂と話しをしたかったのだけど、仕方ないわ。それじゃあ、菜穂……頑張ってね?』


「えっ、あの……ちょっと、待って……」


 菜穂が慌てて手を伸ばして声をかけるも、女神の姿は瞬く間に薄くなり消えていった。


『大丈夫。絶対に貴女は骨(彼)を気に入るわ』


 そうして、女神のいなくなった森の中で、女神の最後の言葉が菜穂の耳に届けられるのであった。






「あー、いなくなっちゃった……。本当に最高の骨をお願いしますよー」


 誰もいない森の中、菜穂は大声で女神に届くように叫んだ。


「さてと、これからどうしたらいいんだろう?」


 ポツンと独り残され、菜穂は髪に指先を絡めて考え込むのだが、どこからともなくゴゥーと地響きのような物凄い音が聞こえてきた。


「今度は何?」


 ハッと顔を上げて周囲を見れば、一瞬にして木々が消えてしまい、ドッと押し寄せてきた水に菜穂は呑み込まれるのであった。




(くっ……苦しい……息が……。そうだ、これは夢なんだから、水よ消えて! うそっ、何で消えないの?)




 必死に心の中で水の消失を願うのだが、まったく消える様子がない。現実に水の中にいるようで息ができず、菜穂の意識は徐々に朦朧としてきた。




(もう、ダメェ……誰か、助けて……)




 水面に必死に手を伸ばし助けを求めるが、ぐったりと手足の力が失われていく。


 意識を失う直前、菜穂の瞳には金に輝く人影が近付いてくるのがかすかに映るのであった。



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