狼王?
「あー、もう暇ひまヒマー!」
菜穂は、大声で叫びながら草原をゴロゴロと転がっていた。
女神が消えてから、お茶を飲みのんびりと目覚めるのを待っていたのだが、いつまでも夢の中にいる状態で何も変化はなく、少し不安になってきたのだ。
そこで菜穂は、不安を解消すべくストレッチや骨の運動をし始め、最終的に広い草原を自由に転がって遊んでいた。
「それにしても、本当に遅いなぁ……。女神様、まだ王様に会えていないのかな?」
むくっと起き上がった菜穂は、青空を見上げながら首を傾げた。
夢の中であるとはいえ、青い空も白い雲も普通であり、雲はゆっくりと流れていく。
菜穂は、ぼんやりと雲を眺めながら、あの雲はたい焼き、こっちの雲はあんまんなどと、全てあんを使用した菓子に見立てて、少し溜息をついた。
「それにしても、あんこがない世界だなんて、本当に信じられない! 起きたらすぐにでもあんこ作りに挑戦してやる。とりあえず、いつ食べれるか分からないんだから、今のうちに夢の中でもいいから、たっぷり食べとこう」
菜穂が心の中で思い描くと、ピクニックシートの上にどら焼き、大福、あんドーナツ、あんみつなどなど、食べきれないほどの様々なあんを使った食べ物が出てきた。
「ふふっ、壮観だな。夢の中だからいくらでも食べれるし……いっただっきまーす!」
菜穂は、嬉々として大福を手に取ると、大きな口を開いてパクッと頬張った。その瞬間、何故かぞくっと寒気を感じて震える。
「何? 今なにか……ものすごーく、ぞわっとしたんだけど……。嫌な予感というか……何だろう?」
もぐもぐと大福を咀嚼しながら、菜穂は鳥肌の立った腕を眺めて首を傾げた。
もうすぐ、目覚めの運命の時が迫っている事を、まだ菜穂は知らない……。
***************
菜穂が夢の中で寒気を感じていた頃、ぐっすりと眠っているオリオン王の瞼がぴくっとかすかに動いたかと思うと、オリオン王はゆっくりと目を開けた。
『んっ……ここは……?』
目覚めたばかりのためか、まだ半分寝ぼけているらしい。オリオン王は、枕にしていた菜穂の足を確かめるように撫でながら、薄暗い部屋をぼんやりと見渡した。
『……っ! そうだ、夢!』
オリオン王は、先程みたばかりの夢を思い出すと、ハッと大きく目を開きながら起き上がる。
そして、静かに眠っている菜穂を見つめてそっと手を伸ばし、菜穂の頬をゆっくりと撫でた。
「ナホ、今すぐに起こしてやるからな……。少し待っていろ」
ポツリと呟いたオリオン王は、一度部屋の外に出て、交代で見張りをしている騎士に声をかけた。
『女神から、お言葉をいただいた。これより、神子を目覚めさせる儀式を行う。神聖な儀式ゆえ、無事に終わるまで入室を禁ずる。侍女が来たら伝えよ。それと、宰相にも、本日の執務は後日行うと伝えておけ』
言う事だけ言ったオリオン王は、すぐに踵を返すと菜穂の待つ部屋へと急いで戻っていった。
オリオン王が部屋に戻ると、うっすらと日の光が差し込み始めていた。薄暗い部屋がじょじょに明るくなっていき、ぐっすりと深く眠る菜穂の顔にも、光が差し込んできていた。
「ナホ……今から、私の気を送るぞ。早くその瞳を開けて、私を見るのだ」
ギシッとベッドに腰を下ろしたオリオン王は、じっと菜穂の顔を見つめた後、躊躇う事なく菜穂に顔を近付けていった。
***************
ばくばくとあんみつを食べていた菜穂は、ぶるっと身震いしていた。
「うーん、何だろう。どんどん寒気が酷くなっていくみたい……。悪寒がするというか……。心なしか空も曇ってきたみたいんなんだけど……?」
うーんと唸りながら菜穂が空を見上げていると、突然、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ナホ、迎えに来たぞ」
「えっ?」
ハッと菜穂が振り向くと、そこには眩いばかりの笑顔を浮かべたオリオン王が立っていた。
オリオン王の姿が目に入った菜穂は、驚きのあまりポカンと口を開いて手に持っていたスプーンをぽろっと落とした。
(う、うっ、うそーっ!? 何で、夢の中に王様が出てくるのよー! 私、知らないうちに王様に会いたいなんて願っていたの? ちっがーう、そんな事ないないないー!)
思いっきりブンブンと首を振って否定していた菜穂は、近付いてきたオリオン王に、突然ふわっと抱き締められ、さらにパニックに陥る。
「なっ、何で、ここにいるの!?」
「お前に会うために……」
「だって、ここは夢の中!」
「夢だろうが、関係ない。お前を愛しにきた」
「うえっ!?」
優しく熱っぽい眼差しで自分を見つめてくるオリオン王を見て、菜穂は思わず真っ赤になり、恥ずかしそうに俯いた。
(ちょっと、私ってば何赤くなってんのよー! これは夢なのよ、夢、ゆめ、ユメー! 惑わされるな、私。この王様は俺様サド鬼畜王なんだから……)
「よく分かっているじゃないか、ナホ。そうだ、俺は、俺様サド鬼畜王だ。だったら、それに見合うように、シてやらないとな?」
「へっ?」
突然、声のトーンの変わったオリオン王の態度に驚き、菜穂は呆然と口を開く。
俯いていた顔を上げ、オリオン王を見つめた菜穂は、驚愕で目を大きく見開いた。
「みっ、耳ーっ!? なっ、何で……?」
菜穂は、パクパクと口を開いたり閉じたりして、オリオン王の頭を指差した。
オリオン王の姿がいつの間にか変化しており、頭には犬のような耳、鋭い牙が口から覗き、尻尾がゆらゆらと揺れていた。
「コ……コスプレ?」
キョトンと首を傾げた菜穂が呟くも、オリオン王は意地の悪い笑みを浮かべたままであった。
「何を言っているのだ、赤ずきん」
「赤ずきん?」
ポカンと口を開けたまま、菜穂が自分の着ているものを確認すると、どうやら童話から抜け出した赤ずきんのような格好をしている事が分かった。
オリオン王を再度確認するように見つめた菜穂は、ようやく気付いたようにポンと手をうった。
「狼かぁー」
「そうだ、狼だよ、赤ずきん。逃げないのか? これからお前を喰らうというのに……」
「えっ?」
パチパチと菜穂が瞬きをすると、突然、狼オリオンに押し倒された。
訳が分からず、一瞬赤ずきん菜穂の思考が停止する。
「なに?」
「だから、お前を喰らってやるんだよ」
次々と起こる事柄についていけず、狼オリオンを見つめたまま、王様って狼の耳と尻尾のコスプレも意外と似合うなぁ……なんてぼんやりと考えていると、不意に唇を塞がれた。
強引でありながらも優しく心地よい口付けに、思わず甘い声が漏れてくる。
「んっ………」
「ククッ……可愛いな、赤ずきん」
気付けば、いつの間にか何も身に纏っておらず、赤ずきん菜穂は生まれたままの姿になっていた。
狼オリオンの大きな口から、鋭いキバが飛び出して見える。
「狼さん、何で、そんなに大きなお口なの?」
「それは、お前を喰らうためだ!」
ガオーッと唸り声をあげながら、狼オリオンが襲ってくる。
菜穂の首筋をぴちゃぴちゃと嘗め回した狼オリオンは、菜穂の唇を再度塞ぐのであった。
(いやぁぁー、喰らうって、そっちの意味かぁー!)
じょじょに熱くなる身体、荒くなる呼吸……菜穂は、意識が遠のくのを感じた。
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