落下2
「アァァァァー…………?」
悲鳴を上げ続けていた菜穂であったが、いつまでも落ちていく感覚に慣れてきたのかふと首を傾げた。実際に落ちるスピードが緩やかになり余裕も生まれてきたわけであるのだが……。
「何かずーっと落ちている気がするんだけど、いつまでこうしてないといけないんだろう? それにこれって現実?」
目を凝らして周囲を見渡そうとしてもただ闇が広がるばかり。終着点が見えないのかと足元を見下ろしてもただ闇が広がるばかりでどのくらいの深さなのか全く分からない状況である。
「ふぁーぁ、うー、退屈……」
落ちていく感覚も麻痺してきたのか、すっかりいつものように落ち着いた菜穂はとうとう大きな欠伸をした。
「あー、これって夢かもしれないよね? だって普通ならとっくにどこかに着いているって……。うん、そうそう、夢よ、夢! でないとこんな事納得できない」
何もすることなく退屈を感じていた菜穂は、ずっと落ち続けているありえない今の状況に再度大きな欠伸をする。
「本当に退屈……。風呂入ってビール飲みたいよー」
いらいらも頂点にきたのか、暗闇に向かって大声で喚き出した。
「コッちゃんにスリスリしたいよー。私に骨の癒しを!」
ちなみにコッちゃんとは菜穂お気に入りの脱衣所に飾られている人骨の模型である。
そうして、一時間も経過したであろうか。時間の経過と共に菜穂は疲労が溜まってきたらしく、目を閉じてうとうととし始めた。
「むにゃ……むにゃ……これは、夢なんだから一度寝て起きたら私の部屋よ。ふあぁーあ……おやすみ……」
目を閉じたままぶつぶつと呟くと、そのまま菜穂は眠りについた。ゆっくりとはいえ落下している状況で、器用にもすぅすぅと気持ちよさそうに寝息を立てて深い眠りに入っていった。
この後、菜穂には運命的な出会いが待っているのだが、まだ何も知らず、心地よい夢の中で幸せそうに笑みを浮かべていた。
「……うふっ……理想の骨!」
だらしなく口元を緩めてへらへら笑いながら寝言を呟いている菜穂に、非日常が迫っていた。