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来訪2


「えーっと、どちらさまですか?」


 いつの間にか仰向けになっていて、頭の上で両手を組み敷かれ男がのしかかっている状況についていけず、菜穂は深く考えるのを放置してとりあえず一番気になったことを尋ねる事にした。


「この状況で話すことはそれか!?」


 少々呆れたような声が菜穂の耳に入ってくる。


「今一番知りたいことですから!」


「ククッ……」


 菜穂が男を睨むように見つめてきっぱりと言い切ると、可笑しそうな笑い声が聞こえてきた。




(どっかで見たような美形……だよね? 誰だっけ?)




「王子……さま?」


「王子ではない。王だ」


 首を傾げて呟いた菜穂に、間をおかず返事がかえされる。


「王……さま?」


 ポカンと口を開けたままキョトンと瞳を丸めた菜穂は、何やらデジャブを感じて首を傾げる。




(あれ? これと同じ会話をしたような……?)




 王はそんな菜穂を見下ろしながら、はぁーっと深い溜息をついた。


「私を忘れたというのか、神子。それは、酷いな……。あんなに熱い眼差しで私を見つめ、肌を撫で回したあげくに、自分のもの発言をしたではないか。あの熱い口づけもすべて嘘だったというのか?」


「なっ、なっ、なん……うそーっ!?」


 王の言葉に菜穂は顔面蒼白になりながら叫んだ。


「嘘ではないぞ。お前は私を見て、にたりと笑って『美味しそう』と言ってきたのだ」


 王はどことなく楽しそうにニヤリと意地悪い笑みを覗かせる。




(いーやー、そんなの、痴女じゃないかー! 私のバカバカバカーっ、何やってんのよ!)




 顔を赤くさせたり青くさせたり表情をころころと変化させる菜穂を眺めていた王は、突然噴き出した。


「プッ……ククククク……」


「えっ?」


 聞こえてきた笑い声に菜穂は一瞬キョトンと瞬きをするのだが、からかわれていたと悟り、真っ赤な顔で王を睨み付ける。


「酷い、からかっていたのね!」


「先に私を無視したのは神子だろう? だからお仕置きだ」


 王は、悪びれる様子もなくニヤッと口角を吊り上げて菜穂を見つめた。頭上に縫いとめていた菜穂の両手を自由にし、指先で優しげに菜穂の頬を撫でていく。


「だが、神子、一つ勘違いしているぞ。私は嘘はついていない。事実を述べたまでだ」


「えぇーっ!?」


 菜穂は驚きの声を上げて、再び顔を真っ赤にした。




「可愛いな、神子は……」


 優しげな双眸で見つめられ、菜穂は王の微笑みにクラクラと眩暈を覚える。




(うおーっ!? 美形の微笑みって破壊力が半端ない。こりゃあ、モテモテウハウハ人生だわね。こんな美形を私は襲っちまったのか……。あぁ、穴があったら入りたい)




 再び顔色を青くしたり赤くしたり表情をめまぐるしく変える菜穂。


 そんな菜穂を飽きることなく王はじっといつまでも見つめていた。






「あの……王様? いい加減、退いてほしいんですけど……」


 ようやく落ち着いてきた菜穂は、いつまでも自分の上にいて髪を撫でたり頬を突いたりする王に困り口を開いた。


「何だ。神子は嫌なのか?」


 全く退く素振りを見せずに王は指先に絡めていた菜穂の髪に口づけをする。菜穂はぎょっとしながらも、自分を押し潰さないように優しく抱き締めてくる王を不思議そうに見つめた。


「嫌っていうか……この体勢不自然だと思います。第一、私たちは初対面ですし……」


「二度目だ。それに、私はお前のもの。だから、お前も私のものという事だ。つまりは何をしてもいいという事」


「は?」


 勝手な事を述べニヤッと流し目を送ってくる王に、菜穂は呆気にとられてポカンと口を開く。




(何、その論法は!? 俺様? あっ、王様だっけ……)




 菜穂は王の言い分を聞くと、ムッと口をへの字に曲げてじろっと睨み付ける。


「私、貴方が私のものだなんて言った覚えがありません!」


「ほう、そうか。神子はかなりの鳥頭とみた……」


「何ですって!? その喧嘩買ってやる!」


 王のからかうような口調の言葉にムキになった菜穂は、頬を引き攣らせつつピシッと人差し指で王の鼻先を指した。


「ほう……私にそのような口を利く者は初めてだ。よかろう。どちらの言い分が正しいかすぐに証明してやる」


 そんな菜穂を楽しそうに眺めていた王は、口の端をわずかに上げてゆっくりと起き上がるといきなりシャツのボタンを外し出した。


「ちょっ……何してんのよーっ!?」


 菜穂は王の思いもよらない行動に焦って叫ぶ。


 だが、王は構わずにシャツを脱いで裸になって、菜穂の手を取ると自分の胸筋辺りを触らせた。


「いいから黙って触れてみろ。どうだ? 私は美味しそうな骨なんだろう?」


「えっ!?」


 菜穂は、王の肌に半ば無理矢理触れさせられた手を何とかして引っ込めようとするが、王の言葉に驚いて、その上半身にふと目を向ける。その瞬間、菜穂は驚愕のあまり大声で叫んでいた。


「うそーっ、夢に見た理想の骨って、本物だったのーっ!? 思い出した。金髪青眼の美形で、私の理想の骨格!」




(うわーっ、夢じゃなかったんだ。本当にここに理想の骨があるんだ……)




 初めて王と会った時の事は、菜穂の頭の中では夢うつつの出来事であったため、ぼんやりとしか思い出せずにすっかり夢だと思い込んでいたのだ。


 菜穂はポカンと口を開いて王の身体に魅入り、磁石の力で引き寄せられるかのようにふらっと起き上がると王の鎖骨、胸筋、肩などを撫で回し、顔を近付けてその逞しい胸元にスリスリ頬擦りするのであった。




「勝負は私の勝ちだな」


 そんな菜穂を満足そうに見下ろしてその胸の中に抱き止めた王は、菜穂に言い聞かせるように囁いた。


「神子よ、お前の好きな理想の骨、これは全てお前のものだ。だからお前も私のもの」



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