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双子2


「まずは、自己紹介を致します。わたくし、神子様つきの侍女になります。名前は、ヘレネです」


「同じくわたくしも神子様つきの侍女で、クリュタイメストラと言います」


「「神子様に心からお仕え致します。よろしくお願い致します」」




 この自己紹介はかなり練習をしてきたらしく、すらすらとした流暢な日本語で話し、二人は同時に頭を下げて挨拶の言葉を述べた。


 二人の自己紹介を聞いた菜穂は、今度は自分の番だと口を開く。




「はじめまして。私は、神崎菜穂。菜穂が名で、神崎が苗字……えーっと、分かりやすく言えば、ナホ・カンザキです。こちらこそ、よろしくお願いします」




 ペコッと頭を下げる菜穂を見て、慌てて二人は言葉を続ける。




「神子様、わたくしたちに頭を下げる、駄目です」


「困り、ます、神子様」


「え、でも初めて会った相手に挨拶で頭を下げるの普通のことですよ?」




 キョトンと瞬きをしながら菜穂は首を傾げた。侍女二人は、互いに顔を見合わせて微妙な表情をする。




「神子様の普通と、こっちの普通、違い、ます」


「身分の違い、挨拶、偉い人したら、駄目ある」


「神子様、王様と同じ……それ以上偉い、すごい」


「そうです! チョベリグー、です!」




 必死に説明をする二人の言葉に頷きながら、菜穂は頭の中で考えていた。




(つまり、世界観が違うってことか……。それにしてもチョベリグって、もう死語だよね。いったいどんな勉強してるんだろう?)




 少し頬を引き攣らせて愛想笑いをしつつ、ふと菜穂はずっと気にかかっていた事をようやく口にした。




「あの、ヘレネさんとクリュタイメスト……ラ(?)さんは……」


「神子様、ヘレでいいです」


「わたくしも、クリュと呼んで……ちょ?」




 クリュタイメストラの話す語尾に思わずプッと噴き出した菜穂は頷いた。




「分かりました。それじゃあ、ヘレさんとクリュさんと呼ばせていただきます。それで、お二人って双子ですか? あまりにもそっくりなもので……」




 菜穂はヘレネとクリュタイメストラを見比べる。ふんわりとヴェーブのかかった空色の髪は肩より少し長めで、瞳の色は淡い緑。菜穂から見るとまるで妖精のような美しさであり、長身でスタイルがとてもよく、しかも巨乳なのである。そんな美女が二人も存在するとはとても信じられない菜穂であった。




(はぁー、いいなぁ……。ボンキュッボンだ。私の夢見てた体型……)




 ふと過去の忌まわしい出来事を思い出し、菜穂は遠い眼差しをするが、すぐに気を取り直して二人に視線を向ける。そんな微妙な菜穂の変化に気付かず、二人はニコニコと答えてきた。




「はい、双子、姉妹ですね」


「わたしくし、イモでヘレが姉貴……です!」




(え? 妹と姉ってことよね。イモって……それに何で姉貴なの!?)




 菜穂はクリュタイメストラの話す言葉に目を丸めるとおかしそうに笑い出した。


 突然お腹を抱えて笑うそんな菜穂の姿をみると、ヘレネとクリュタイメストラはそっくりな顔をキョトンと見合わせて首を傾げる。




「「神子様、どうしたですか?」」




 見事にハモって少し心配そうに尋ねてきた二人に、何でもないとばかりに片手を軽く振って返事をする菜穂は、その後、暫く笑い転げるのであった。








「あー、久しぶりに大笑いした。これですっきりしたわ。ありがとう、ヘレさん、クリュさん」




 菜穂は笑い過ぎて目尻に滲んだ涙を指先で拭い、気合を入れるかのようにパンと両頬を軽く叩くと姿勢を正した。とは言っても、いまだにベッド上で座っている状態であるのだが……。




「それで、改めて二人に聞きたいんですけど、ここって何という世界ですか?」




 菜穂は夢の中で出会った女神の事を思い出して、それが事実か確認するため質問した。


 菜穂に問われた二人は、ニッコリ微笑むとヘレネ、クリュタイメストラの順に答える。




「ここは、キスイダネホネホですわ」


「神子様、いる……ここ、アース国でちゅね」


「へぇー、アース国って言うんだ」




 クリュの妙な語尾に慣れてきた菜穂は軽くそこは流すことにし、ヘレネの教えてくれた異世界の名にガクッと肩を落とした。




(うーわー、やっぱり夢の中のことだけど、夢じゃなかったんだ。本当に私、異世界に来ちゃったんだ……。この年齢で異世界トリップ? 女子高生でもないのに神子ってありえないよね……)




 眉間に皺を寄せながら俯いて考え込んでいた菜穂は、ふと顔を上げてアッと声を出した。




「ね、そういえば、この世界に神様……あ、女神様っているの?」


「はい、います」


「女神ネホ・ウボンイレ様、でしゅね」


「やっぱり……夢の中に出てきたあの女神様か……」




 菜穂は、虹色の強烈な色彩を放つ夢の中に出てきた女神を思い出し、深く溜息をつく。


 そんな菜穂の様子を不思議そうに眺める二人であったが、菜穂の口から出た言葉に驚愕の表情を浮かべた。




「神子様、ネホ様に会われ……た? さすが、神子様!」


「すごいっ……ちゅーの!」




 二人の美人からキラキラと尊敬されるような眼差しで見つめられ、菜穂は居心地が悪そうに少し引き攣って微笑むのであった。






「それと、あの……ずっと気になっていたんですけど、神子様って言うのやめてほしいなぁーって……。できたら、名前で呼んで貰いたいんですけど……ほらっ、ずっとこれからヘレさんとクリュさんにはお世話になるし、仲良くしたいなぁ……って……。あの、駄目ですか?」




 身分の事などあるから難しいかも……と考えつつも、菜穂は神子と呼ばれる度にむず痒かったため、とうとう二人に自分の思いをぶつけた。遠慮がちに言いながら、ちらっと二人にどこか恥ずかしそうな眼差しを向けて……。


 その瞬間、ヘレネとクリュタイメストラはうっと呻くような声を上げて俯き、口元を手で抑えてぷるぷると肩を震わせた。




(うわっ、私やっぱり、マズイ事いっちゃった?)




 二人の様子を見て、菜穂は不安になったのだが、パッと顔を上げた二人はウルウルと瞳を潤ませて、それぞれ菜穂の手をぎゅっと握り締めてきた。




「神子様……わたくし、嬉しい……です」


「チョー、感動、したあるね」




 二人が好意的な言動で迎えたくれた事で、菜穂はホッと安心したように息を吐く。


 すると二人がニコニコ笑顔で口を開いた。




「「アホ様」」


「……………………えーっと、ナホです」


「「ニャオ様?」」


「ナ・ホ・です」


「「ナーオ様?」」




 どうやら菜穂という名前は発音がしづらいらしく、何度練習しても正しく発音出来ないので、結局の所、『ナーオ』で落ち着く事になった。




(まぁ、アホや猫でないだけいいか……。「ナーオ」も猫の鳴き声に近い気がするけど、一番まともだし……)




 済まなそうにする二人に大丈夫だと笑顔を見せ、これからは初めから「ナーオ」と名乗ろうかと悩む菜穂であった。



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