双子1
「んー……ふぁーあ……あー、よく寝た……。良い夢みたなぁー。理想の骨見つけた夢なんて、幸せ……」
ぐぐーっとベッドで大きく伸びをしながら菜穂は大きな欠伸をしつつ目を開いた。ぐっすりと休んだので、体調も良く気分もすっきりとして爽やかな目覚めである。
「あれ?」
ベッドから起き上がろうとした菜穂は、目を開くなり入ってきた天蓋のようなものに首を傾げた。それにやたらとベッドのクッションがよくなっているような気がする。ふと手でベッドを軽く押しながら弾力を確認し、自分に掛かっていた布団や毛布などを見つめる。
「私のじゃ……ないよね? 第一、こんなにベッド広くないし……。これなら軽く3人ぐらい余裕で寝られるって……ここ、ドコ?」
パッと上半身を起こした菜穂は、キョロキョロと慌てて部屋の中を見渡す。
狭い自分の部屋とは違い20畳もあるような広さで、ドレッサーや衣装ダンスなど、どうみても高価な家具が並んでいる。色々な調度品を目にした菜穂はあんぐりと大きな口を開いた。
「テレビで見た宮殿みたい……。まだ、夢の続きかな?」
ぼけーっとベッドの上で固まり、思わず頬を思いっきり抓るのだが……。
「痛いっ!」
あまりの痛みに涙がぽろっとこぼれる始末である。
「嘘っ、夢じゃないの!? 何かどうなってるの? それにこのスケスケ服はなんじゃー!」
強く抓り過ぎたため少しヒリヒリする頬を撫でながら菜穂は、自分の着ている服を見て目を剥いた。
肌触りはよく上質な生地だとは分かるが、非常に薄くほとんど裸でいるような寝間着なのである。少し小振りな二つの膨らみからツンと淡く色づいているその中心まで、ましてや下腹部の繁みも透けて見える始末なのである。
「いーやー、何で下着きてないのよー!」
普段、ジャージで気楽に寝ている菜穂には、このような透けているネグリジェは荷が重過ぎた。顔を真っ赤にしながら大声で叫ぶ。
『神子様、いかがなされました!?』
『神子様、大丈夫ですか!?』
菜穂の叫び声を聞きつけたらしく、二人の女性がノックをしてから部屋へと入ってきた。
「へ? きゃーっ!?」
突然、誰かが部屋に入ってきたため思わず菜穂は悲鳴をあげる。その悲鳴を聞きつけて今度は騎士らしき男性が飛び込んできた。
『神子様! ご無事ですか?』
「いやぁー、見ないでー! この変態、エッチ、ドスケベ、エロエロ魔人、ムッツリスケベのストーカー野郎!」
菜穂は一瞬目が合った男に向けて思いつくまま罵詈雑言を浴びせ、片手で胸を隠しつつベッドサイドにあった物全てを手当たり次第投げつけた。
『しっ……失礼致しました!』
菜穂の姿が目に入るなり真っ赤になった男は、一瞬硬直するもすぐに頭を下げ、踵を返して部屋を出ていこうとしたのだが……。
『ぐぇっ!』
ちょうど菜穂が手にして投げつけた水晶の置物の角が後頭部にクリーンヒットして、蛙のような声を上げそのまま床にうつ伏せに倒れた。
『あら、気絶してしまいましたね』
『どうしましょう、お姉様』
『廊下に出しておけば、誰かが回収してくれるでしょう』
『そうですわね。かなり重いですけど、二人でなら何とか出せますわ』
『それではクリュ、廊下に転がしておきましょう』
『はい、お姉様』
『これがあの有名な雷獅子とは信じられませんわ』
『本当に情けないですわね、お姉様』
菜穂が物を投げまくっている間、安全な場所にサッと移動していた二人であったが、いつの間にか男の傍にきており、確かめるように男の頭を軽く指先で突きながら言いたい放題、男をズルズルと引きずって部屋の外へと運んでいった。
男が気絶した事で少し落ち着いた菜穂は、そんな様子をポカンと眺めていた。
(うわっ、思わずやっちゃった……。あの男の人、大丈夫かな? それにあの双子みたいにそっくりな二人って誰? 凄く綺麗な女の人だったよね……)
菜穂は部屋に初めに入ってきた女性二人の姿を思い出してほうっと溜息をつき、ふと自分の小振りの胸を見下ろす。
(今の二人みたいに大きかったら見られてもあんなに恥ずかしくなかったのに……)
軽く自分の両胸に触れて何となく落ち込んで首を垂れていると、そこへ先程の二人が戻ってきた。
『神子様、お待たせ致しました』
『あのお馬鹿な騎士は捨ててきましたので、もう大丈夫ですわ』
菜穂を安心させるかのようににっこりと微笑みながら近付いてきた二人は、菜穂のいるベッドの前で止まり丁寧に頭を下げた。
菜穂は二人の言葉が分からない事に気付き、ショックを受ける。
「嘘っ、言葉通じないの!? これじゃあ、何言ってるか分からないし、話しも聞けないじゃない……」
落ち込んだ表情で肩を落として喋る菜穂を見て、二人は顔を見合わせ軽く頷くと口を開いた。
「ごめん、なさい。神子様、傷つけ……ました」
「詳しく、分からない、けど、神子様の言葉、少し話せる……」
たどたどしいが慣れ親しんだ日本語が耳に入ってきた事に菜穂は驚き目を見開いた。
「えっ? 日本語……分かるの?」
「はい、いっぱいは、無理だけど……少しなら、分かるですね」
「今、勉強中、ですね」
好意的にニコニコと笑顔で話しかけてくる二人を見て、菜穂は心底安堵して嬉しそうに微笑むのであった。