プロローグ テキトーな召喚術式1 勇者が召喚されました
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ηエータ/Eta Another World
η歴8203,春の下月 第1週 安の曜 メルヴィス皇国首都ジュターン・王城 召喚の間
「ええい、まだか!まだ準備は終わらんのか!」
白い髭の目立つ神官が怒号を発する。
「神官様!この部分の解読が出来ません!」
魔道具を片手に召喚士が悲鳴を上げた。
彼等は古い異世界召喚魔法陣を復旧しようとしていた。恐ろしく複雑な魔法陣相手に6人がかりで取り組んでいるが、進捗はあまり芳しくない。
なお、ここでいう魔法陣は魔法円と同義だ。
件の魔法陣に話を戻そう。中央にメインの召喚用術式があり、その周りを6つの小魔法陣が取り囲んでいる。だが、右上のものは掠れ、奥の魔法陣は欠けている。一つはもはや原形をとどめて居らず、外側の円らしきものが認識できる程度だ。黒色なのに金属光沢の名残を感じる色合いで、大理石の床によく映えている。いかにも古そうな文字で書かれていて、解読はさっぱり進んでいないようだ。
「何ィ!?消して構わん、召喚さえできればよい」
「で、ですが―――」
「ローレンツ教皇の命令である!一刻も早く完成させよ!」
彼は渋々魔法文字の一部を消し、理解できる魔法構文を書き込む。本来ならばこのような行為は魔法の動作に影響を及ぼし、術式を不安定にする。小魔法陣がメインの術式をサポートする構文の場合はなおさらだ。
しかし、神官は早い方が自分の報酬が多くなる為、教皇の言葉のうち「速やかに召喚を行え」という部分を強調して無理矢理ペースを上げさせた。結局起動に時間がかかってむしろきちんとやらせた方が報酬は良かったはずだが・・これはヒューマンエラーの典型例と言えるだろう。
-After 8 ηhours-
こうして、多少歪で所々に空白の目立つ召喚魔方陣は起動した。否、多少どころではない。時々火花が散り、起動するのがやっとの状態だ。
そもそも発動すらしていない。本来は魔力の供給は必要ないし、準備が整って発動のコマンドさえ送れば召喚が行われるはずなのだ。そもそもこの仕様すら分かっていないので知らぬが仏。
――作成者がどれだけ苦労して術式を開発しているのと思ってんだ!?――
デザインを作者が行ったため作者が出しゃばる結果となったが、作者が実際に作ったわけではない。作者・神官の両者とも高度な魔術を持っていた古代文明の神官に謝るべきだ。
-2.25ηdays later-
魔力を流し始めてから2日目、ようやく異世界人を召喚できた。途中で魔法陣が悲鳴を上げ、様々な反応を見せたがここでは割愛しよう。
――REC●
一応音声の一部だけ流すか。見た目酷いことになってるし、何が起きたかわかりやすいやろ――
キュィィイィィイイィィイイン・・・ヴヴオォンヴォン⤵ウィィイイイ↑イイィイ↓ゥィイイイ↑ビシッピキパキバチバチバチ・・・・BOM!!!#$%&*‘@:!”(高音ノイズ)ザーーー ーー ー ー・・・ピシュイイイ!!バリバリバリチュッドーーン!!シュウウウウゥゥゥゥ・・・・
――STOP■
こ れ は ひ ど い
ここ以外の部分はバッサりカットでいいか。――
当然完全な成功ではなく、一人召喚するはずが、五人地球から召喚されてしまったのである。
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一際大きい音と共に白煙が立ち込め、暗紫色のオーラと極彩色の火花を覆い隠した。視界は完全にゼロ。そんな中、話し声が聞こえてきた。
「大丈夫だ、君は俺が守る!」
「翔君・・・」
ふむ。透視・・・学生証を発見。順に中野翔、佐藤あかり。イケメンと少女、バカップルであろう。爆ぜろ。爆散しろ。そして爆ぜr
「いいかげんにせい!(またか・・)」
鋭いツッコミをかます彼女は西村朱雀、苦労人のオカンだ。度々いちゃつく二人を毎回止める羽目になっている。メタキャラではないが、作者にも突っ込まれているような感覚に陥る・・・
「」(ここは・・・どこ?怖い・・・)
西村さんの影で震えている少女が望月遥。無口だがボッチではない。かといって友人は西村さんしかいない。
彼らが召喚の間に【勇者】として喚ばれたのでである。
視界がクリアになり、注目が集まったタイミングで檀上の椅子からしわがれた重厚な声が響いた。演説の才能があるのは素直に認めよう。でも、どこか胡散臭い雰囲気や、底の知れない権力者特有の底が見えない感じが 素直に信じるに足る人物か? と自分に警告を発動させる。
「そなたたちは魔王を倒す力を持った、選ばれし勇者なのじゃ。余はメルヴィス皇国教皇メルヴィス=レティクル=ヴァン=ローレンツであるぞ。勇者諸君、先ずは余に忠誠を誓いたまえ。」
おそらくこの先教皇としか呼ばれないであろう人が「ここはどこ?あなたはだれ?」という望月さんの言葉に対して答えた。
なお、彼女の今日発した言葉はこれだけだった。
さん付けの理由はたとえ自分が作ったキャラだとしても女子に話しかけられないから。え?リア充?吐き捨てるような呼び捨てで十分だろ?
「魔王?魔王がいるのか?」忠誠云々はスルー・・というか耳に入っていない。利己的な耳のスキルを持っている。
「そうじゃ。今、世界は魔王によって滅亡の危機にあるのじゃ。」
説明が雑ぅ!ファンタジーのテンプレ設定感が溢れているが、白髭を生やした如何にもな人がクソ真面目な顔で言うことで説得力が生まれている。一種のカリスマも関係しているのかもしれない。
「要は魔王を倒せばいいんだな」
安直すぎる。羨ましい思考回路である(盛大な皮肉)これもテンプレート的展開ですよ。ケドそこまで決まりきった型のように上手く行くはずが無いだろ?だろ?
「その通りじゃ。」
ほらな?
いや、僕の声聞こえてないのか。中野に返答した台詞ですよね分かります。
「これはゲームちゃうんねん。命を懸ける覚悟でけてへんやろ」
よかった、常識人はまだ居たようd「それは…そうだけど…「翔君、この世界の人を見捨てるの?」」
「そんな訳ないじゃないか!俺、魔王を倒して見せます!」
「しゃーない。ほな、うちもついていくで!」
「」
あっ、ダメみたいですね。押しに弱すぎる。だから日本人は良く異世界に召喚されるんだ・・・NO,と言えないから従順で扱いやすい。アメリカ人などヒーロー願望が強い場合、クーデターなどのリスクが大きくなるのだ。そして一人首を横に振っているのは3対1の多数決で切り捨てられた。
「」ウルウル
望月さん涙目になっているよ・・・
こうして、勇者一行は魔王を倒す決意を固めた。全員まだ中1で、決意と呼ぶにはちょっと否かなり柔いけど。
一つ、大切なことを忘れている。この世界に召喚された異世界人は五人である。そして、これまでに出てきたのは異世界人が3人、地球人が4人。
残りの一人は当然、別の場所にいるのだった。