第166話国税から
「わざわざすいませんね」
こちらは警察と違って名刺を出します。広域調査とあります。
「この会社で総務部長をされていたと?」
「はい。情報は警察からですか?」
「いやあ」
イエスともノーとも言わずに分厚い税務資料をテーブルに広げます。
学校の先生のような七三分けの生真面目なタイプに見えます。暴対刑事とは全く違います。
「貴方の調書にホテルの社長の10億の借り入れの大半は真の借り入れではないという部分がありますね?」
やはり刑事事件の調書を見ています。警察では何の問題にもしなかった部分です。
「はい。この会社は本来はホテルの所有者が修繕すべきボイラーや室内の設備をいったん貸し付けにしています」
「確かにそうですね」
彼もすでにこの部分を調べていたらしいです。
「なのにホテルの所有者でその貸付した資産を減価償却しているのです」
「やはり。この説明を経理課長に聞くと指示されたとおりに作業したとだけ言っています」
「それは事実ですね。彼は税務対策出来るほどの力はありません。でも社長は税務には詳しいです」
「やはり社長の指示ですか。この会社はもう10年も前から私どもでマークしているのです。2度ほど億単位で追徴をしていますが、まだまだ氷山の一角だと思っています。今日は参考になりました。またお願いすると思いますが」




