第12話膀胱温存療法
入院も一日が経つとやはり時間を持て余してしまいます。
パソコンが手元にないと何か心細い。
携帯で女房に小説の文庫本を来るときに時に買ってもらうようにメールしました。
学生時代は読書に熱中していましたが、働き出して仕事に追いまくられてきました。
とくに銀行からリクルートに転職した時から人生が一変したように思います。
「どうですか?」
最初に覗いてくれたのは内科の若い女医さんです。
「入院中から腎不全の治療を始めます。今朝から透析食が始まっていますがどうですか?」
「味が薄いですね」
「料理は奥さんがされていますか?」
「はい。でも仕事上外食が多いです」
「一度入院中に栄養士の説明をお二人で聞いてください」
入れ替わるように泌尿器科の医師がそそくさと入ってきます。
「膀胱温存療法を選択しています」
ええ!?その話は聞いていませんよ。
「退院をした後、がん病巣を電気メスで切除した膀胱に細い管を太股の大腿動脈から挿入し内腸骨動脈まで進入させ、抗がん剤(メソトレキセート+シスプラチン)を投与する。動注化学療法と言います」
「通院するのですか?」
「動注化学療法は3週間ごとに3回行い3か月かかりますな」
また会社のことが頭をかすめます。
半分は退職を覚悟しています。




