第105話専務の誘い
「久しぶりに飲まないか?」
専務から携帯に近くのスナックにいるとぼそぼそと連絡がありました。
その店は前の事務所の近くにあって、入社の頃は月に1度は仕事のつもりで付き合っていました。
その頃は明らかに直近の上司でしたから。
「いや、もう1時間前から飲んでいるわ」
スナックの年配のママもよく覚えてくれています。
「体の方は大丈夫なんですか?」
「これしか楽しみがないからさ。ホテルは順調そうだね」
「とんでもないですよ。問題だらけで一つづつ手を付けてゆくしかないと思っています」
「退職が決まった。みんなの意見で決まったと社長はいつもの調子で言うがね。あれは彼の手だ」
これは裁判資料を調査した時に見つけたのですが、専務が前の専務を告発して今の地位を手に入れています。
どうも同様な事件が社内にはたくさんあります。ホテルに手を上げた原因の一つでもあります。
最後の仕事は前をしっかり向いて終えたいと思っています。
「不動産部長が後釜を狙っているし、総務課長が寝返って参ったよ。彼奴は蝙蝠のような奴だ。だが、見るところ君が一番当確ラインにいる」
「私は専務など考えていません」
私はもう社員勤めは限界にきていると自覚しています。
血液透析のパンフレットを見ながら将来を考え始めています。
「だが私もはいはいと下がれない。君だけは裁判を引き継ぎかかったから分かってると思うが、色々な爆弾を抱えている。それを時には不正な方法で解決してきたのは私だ」
でも専務はそうして社長の名を借りてたくさんの社員や上司を葬ってきました。