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こわくないよ

作者: siki

初ホラーです。

何とか書き上げましたが、どうしても怖くなりませんでした……。

ホラーって難しいですね。


そんな稚拙な文でもOKな方、よろしくお願いします。


 友達とお茶をしている時には、専ら聞き手だ。 


 幽霊の出る物件を借りて住みだした人が居る、とか。

 値段につられたのか幽霊付きなのを知っていて借りたのに、しばらく住んでみたらやっぱりお祓いをしようか検討しているらしい、とか。

 お祓いにかかる費用が割と高くてどうしようか悩んでいるみたい、とか。


 その人、お祓いすると思う? なんて話している友人に適当に相槌を打ってのほほんとお茶をすすった。

 興味無さそうだけど、あなたの住んでいた辺りの話よ。なんて急に言われれば、お茶を噴きだすしかなかった。


 慌てて詳しく話を聞けば、知っているあの子の話だった。 


 そんな幽霊だ、お祓いだなんて……怖いことになっているあの子のことを知ってこんな所で暢気にお茶を続けていられるはずもなかった。



 ※



 来てしまった。

 見覚えのある一軒家。ここにあの子がいる。

 あの子は私のことを忘れているかもしれないし、覚えていても怒っているかもしれない。

 もう一度会うことにためらいもあるけど、この家にあの子が居ることを放ってはおけない。



 この家を買った人は金銭的な理由とはいえ、お祓いをするかどうか悩んでいるらしいと聞いたから、お祓いをしなくて済むようになれば喜ぶはず。

 お祓いなんてとても出来ないし、何が出来るか分からないけど、出来ることが無いかちょっと様子をみることにした。


 夕暮れ時、傾いた夕日に影が長く伸びる頃。

 こっそり家に入ってみた。


「おじゃましますね。」


 小声で言って、中を伺う。

 これは不法侵入になるのかしら。なんて、おっかなびっくりしていたのは入った最初だけで、すぐに気にならなくなった。見つからなければバレないのだ。

 開き直って、家の中を興味津々で見まわる。


 外装と同じく、古い平屋建ての家はどこか懐かしい匂いがする。シンプルな家具が入り、水回りはリフォームされているようで使い勝手は良さそうだ。

他人の生活の気配が感じられる部屋は、服や食器などは一揃い。一人暮らしだと確信した。

 一人暮らしなのに一軒家を借りるなんてどんな職業なのかと下世話な勘繰りを始めたが、すぐに頭を振った。


 そんなことをしに来たんじゃない、と。


 庭の見える窓に寄ると、落とした視線が畳の傷をとらえた。

 動物の爪で引っかかれたような跡。よくみればそんな細かい傷だけでなく、大きな痕がある。まるで包丁やナイフみたいな刃物で傷つけたような……。

 どうしてこんな傷をつけたのか、思いめぐらす前に体が震えた。


 温度が下がってる?

 それだけじゃない。視線を感じる。

 一瞬、家主が帰って来て見つかったかと思ったけど、違う。

 鍵の開ける音も、扉を開ける音もしなかった。

 一人暮らしの家主がまだ帰っていないなら、背後に感じる視線は一つ。この家に憑いているもの。


『出ていけ。出ていけ。出ていけ。』


 子供のような高い声に驚く。

 後ろに、居る。


「もう少ししたら出ていきますよ。どうしてそんなことを言うの。」 

 

 この世ならざる者の声に、振り返らないまま応えれば、背後の存在感が増す。

 甘い考えで此処まできたものの、このまま殺されてしまうんじゃないかと不安がよぎる。


『出ていけ! お前が居るから、帰ってこない! 出ていけ!』


 激高した甲高い声に、思わず体を丸める。


 腕の横を通った上からの風圧に、そちらを向けば、畳にざっくりと残る鋭く深い傷。なるほど、他の傷もこうやって出来たのか。とはのんびりして居られない。これは大変だ。背後の相手がどんな姿なのかも何を持っているのかも分からない。


『出ていけ! 出ていけ!』


 繰り返される悲鳴のような高い声。

 振り返ろうとしすれば、ダンッ…! と、重い足音がして、身を竦ませてしまう。


 ダンッ! ダンッ…! 


 地団太を踏む足音。怒りのままに床を蹴りつけるような音の連続に、心臓が飛び出るかと思った。

 

 その足音は止まない。そのままの強さで、背後をバタバタと移動する。

 暴れるかのような、床や壁を怒りまかせ叩くかのような音が続く。

 床を駆け、壁を駆け、天井すらも走る。重力を無視した移動は、まさしくこの世ならざるモノ。

 それでいながら、時折体すれすれを抜けて畳に傷を付けたり足音を響かせるのは、通常ではない証拠。


 意を決して振り返る。

 

 その時、部屋のドアが開いた。

 日が落ちて暗くなっていた部屋に光が差し込む。


 まさか、ドアを開けて逃げてしまった?

 

 それは勘違いだった。光に照らされて、ドアの方を睨む灰色の毛の塊が見えた。

 1mを越えるかもしれない大きな猫。これはもう、化け猫だ。


『出てけ!』


 ドアの向こうに見えた影に向かって叫び、飛びかかる前兆として姿勢を低くしたその猫に飛びつく。


 あの人影がこの家の住人だというなら、怪我をさせる訳にはいかない。


 私がしがみついたことに驚いた猫が飛び上がる。

 その衝撃がしがみつく体にも伝わる。振り落とされないようにしがみつきながら、威嚇のために逆立てた毛を撫でる。


「大丈夫よ。怖くない、怖くない。」


 撫でながら声を掛ければ、猫の動きが止まる。

 こちらを伺う揺れる瞳と目を合わせて、笑いかける。


「待たせてしまったようで、ごめんなさいね。でも、大きくなり過ぎよ? どうやって連れて行こうかしら。」


 猫の柔らかい毛を混ぜる。

 私に気付かない可能性は考えていたけど、私に気付いたのにサイズがこうも大きくなってしまっている可能性は考えて居なかった。こんな目立つサイズだと服に隠してこっそり連れて帰ることも出来ない。


 ぷるぷる震え出した猫は、ざらつく舌で私の頬を舐めた。

 にゃあ。と一声鳴いて、その体は元の20センチ台に縮む。これなら、連れていける。


「いい子ね。一緒にいきましょうか。」


 すくい上げた猫は、小さい。さっきの大きい方も新鮮で良かったかも、なんてね。

 用事も終わったし、そろそろ早く戻りましょうか。




 猫を抱えて帰ろうとすれば、ドアの所で固まっている人と目が合った気がする。

 見つかってしまったなら、黙って帰るわけには行かない。不法侵入したみたいなってしまう。実際そうなのだけど、誤魔化すために笑う。


「この子が迷惑かけたみたいで、ごめんなさいね。もう大丈夫よ。お邪魔しました。」


 果たして、私の声は届いたのだろうか。

 畳とかの修繕費なんかは請求されても困る。浮いたお祓いの費用から用立てて、と心の中で手を合わせた。



 ※



 いつものお茶の時間。

 私の膝の上には猫が居る。


「あら、その猫どうしたの?」


 おしゃべりな友人は、早速その猫の事を聞いて来る。


「前に近所に居た子よ。毎日のように家に遊びに来てくれていたの。見つけたから連れてきちゃった。」


 ふふふ、と笑う。


「飼っていたわけじゃないのね。名前はあるの?」

「最期の方はほとんど家に入り浸っていたから、もう飼っているも同然だったかもしれないわ。名前……ずっと猫ちゃんって呼んでいたから、”猫”かしら?」

「あらあら、もっと愛情のある名前にした方がいいんじゃない?」

「そうねぇ。猫ちゃんって、ダメかしら?」


 膝の上の灰色猫に聞くも、にゃあ。という声しか返ってこない。

 今日はおしゃべりする気分じゃないらしい。

 私を見上げている頭を撫でて、猫可愛がりする。


 自由気ままな化け猫ちゃん。でも、化けて出るほど私に会いたがってくれたのを知っている。

 だから、迎えに行けて良かった。


「そういえばあなた、この前どこかに行ってたでしょう? あんまり変な事すると地獄に落ちるかもしれないわよ。天国に居るからって勝手し過ぎたらダメよ。」

「そうね。気を付けるわ。」


 友達とのお茶に、流れるのんびりとした時間、そこに猫が居て完璧ね。

 



読んでくださった方、ありがとうございます。


ホラーじゃない気がするのは、やっぱり視点を間違えているのでしょうか……。


家主視点だと、帰宅すると激しい騒音のする家、恐る恐る開けたドアの先には家憑きの化け猫となぜがおばあさん。何事かと思ったら、おばあさんが猫を連れて行った! 


……こっちもどうかと思いますが、若干マシな気が……。

やる気が出たら、こっちの視点でもチャレンジしてみるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読みました。面白かったです。 ミスリードにまんまとやられました。あとから考えれば、注意深く読んでいれば気づきそうなものでしたが。 どこかほっこりするようなお話でした。タイトル通りこわくはな…
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