事情聴取と約束
結果的に言えば、国王・シャルルさんは大事には至らなかった。
あの後、女王様が連れてきた宮廷魔導師の人が母さんに続いて回復魔法をかけ、どんどんと回復に向かっていった。
その時に、宮廷魔導師の人に瞬時の判断で行動したことを褒めていたらしい。
逆に、あの場にいた貴族達の事情聴取は全くといって進展はなかった。
あの場にいた全員が「あの亜人が犯人だ」の一点張りとなっている。
事情聴取を終えた俺は、ため息吐きながら国王を寝かせている部屋の扉を叩く。
部屋の中に入るとそこには女王様と母さん、それと部屋の隅の方に王女様が俺達を背に膝を抱えて座り込んでいた。
「おっさんの容体はどうですか?」
「今の所は安定しています。先程はとても危険な状態だったそうですから」
「危険...と申されますと?」
「喉が焼かれている様なひどい状態だったと聞いています」
焼かれて...強い炎症を起こしたってことか...。
今の口振りだと炎症以外の症状は起きていないみたいだから、ひとまずは安心か...。
「ハクの方はどうだったの?全員から話は聞いてきたんでしょ?」
「それが...。全員が全員「あの亜人が犯人だ」って言って...。正直、時間の無駄だったよ」
「そうですか...」
「ただあのケモミミの人は、それなりの証言をしてくれたよ」
「それ本当?」
「最初は動揺してたけどな」
俺はケモミミの女性・セリカさんの話をした時のことを話すことにした。
*
俺は母さん達がおっさんを安静にできる場所に運んで行った後、俺とケモミミの女性はあの場所に残っていた。
「それじゃあ、話しを聞くとしますか」
「わ、私は毒なんて盛っていません!信じてください!」
「ああ、わかってる。俺は貴方が犯人なんて一言言ってないでしょう?ただ話を聞きたいだけです」
「わ、わかりました...」
ケモミミの女性は納得はできていないが、それでも俺の言葉を信じて頷く。
「立ち話もなんです。隣の部屋に移動しましょう」
俺達は隣の部屋に移動するため、部屋を出るとで兵士達に伝え終えたのか、クタクタの状態のアスカが部屋の中に入ってきた。
俺はクタクタの状態のアスカを自分が座っていた席に座らせ、息が整ったら話の内容をメモするように頼んだ。
隣の部屋に入ると簡素ではあるが、椅子が3つに机か1つ、それと紙の束と羽根ペンとインクが置かれているだけだった。
俺は彼女とアスカを席に着かせ、彼女の向かい側の席に着く。
「それじゃあ、事情聴取を始めるとしますか...。えっと...」
「せ、セリカ。狐族のセリカです。ここにはアトラス王国からの大使としてやってきました」
セリカさんが名乗り、頭の上の狐耳をピクピクと動かす。
・・・うぅぅ。可愛い...。触りたい...。
「ゴホン!」
「!・・・ッゴホ!それではお話を聞かせていただきますね、セリカさん。貴方は大使として、なんのためにここへやってきましたか?」
「私は明日行われる友好パーティーの件について、順調にいけば遅くても昼ごろにはこちらに辿り着くと国王に言われ、昨晩の夜から先行してお伝えに参りました」
「こちらに着いたのはいつ頃のことですか?」
「夕方...そうそう。報告が終わり、お風呂に案内されている時、ちょうど門が開き誰かが入ってきたのを覚えています」
「なるほど...夕方からこの城に入った人について、門番の人に聞かないとな」
セリカさんがそういうとアスカはすぐさまその内容をメモした。
「そうですか...それではなぜ、貴方はこの場所に残ったのですか?」
「国王に「食事の際に、私のお気に入りのこのワインを渡してほしい」と10本ぐらいの同じワインの中から1本を取り出して私に渡し、頼まれたので、私はその命令に従ったまでです」
俺とアスカは互いに顔を見合わせて頷く。
「もう少し、お話してもらってもよろしいですか?」
*
「という感じだったよ」
だいたいの説明を終えると、母さんはなんだか納得していなさそうな顔をしていた。
「う〜ん。それのどこがいい証言なの?」
「ポイントは2つ。1つは明日の昼にやって来る国王様だ。こんな事件が起こってわかっていたらわざわざ「こっちに向かってます」なんて報告させると思う?」
「でも、その報告の後に急に帰っちゃうかもしれないじゃない?」
「そこで2つ目のポイント、お気に入りのワインだ」
「それがどうして2つ目のポイントになるの?」
「国王様がよく口にするワインだ。自分が飲む可能生のあるワインに毒を盛ると思う?」
「確かに、貴族の方々は自分が気に入った物を大切にする傾向があります。私もユリに作ってもらった初めてのドレスは未だ大事に残してあります」
「シェリー...」
女王様はとても懐かしそうに思い浮かべ、母はそれを聞いて嬉しそうにしていた。
「まぁ、つまりそういうことだ。しかも、渡すタイミングを食事の時間に限定した。自分が逃げるための時間稼ぎと考えれるが、それなら別にセリカさんを残しておく理由にはならないだろう。それに、セリカさん自体に国王毒殺をする動機がない。以上のことを踏まえて、セリカさんは白。という結論なのだが」
「でもそれだと逆に犯人がわからないわ」
「俺はある2人が怪しいと睨んでる」
『2人?』
俺の言葉に2人、いや3人が反応する。
「1人はゴブリン...ゴムリン伯爵。あの人はあの状況の中他の人達よりも動揺していなかった。話を聞いている時も他の人達よりも興奮していなかったからね」
「残り1人は?」
「そのゴムリン伯爵の側を取り巻いている連中の1人。アーバメ子爵だ」
「どうしてその2人も容疑者に入れるの?」
「アーバメ子爵は「あの下等な生物め!」って言っていたんだ。まぁ、それだけじゃあ全然証拠としては不十分だけど、セリカさん達に恨みでこういうことを測ったという可能生はゼロじゃないよ」
『な、なるほど...』
でも100%セリカさんも白ではないし、それに使われた毒がなんなのかわからないし...。
「う〜ん」
(ユリ。貴方の息子さんひょっとして頭がいいの?)
(一概にそういうわけじゃないんだけど、時たま変わった考え方を持ってるのよ)
俺が唸っている間、母さん達が何か話しているみたいだけど、気にしないことにした。
すると、王女様が立ち上がり、俺の方へやって来た。
「えっと...王女様?俺に何か用ですか?」
「・・・お父様はあの亜人族のせいでこんな目にあった...」
「?ええまぁ、直接的か間接的かという違いですが、」
「それなら!あの亜人を罰せれば良いではありませんか!」
「・・・」
「お父様が亜人族のせいでこうなっているのです!父がこんな目にあった理由が目の前にあるのにそれを許しておけというのですか!」
王女様は涙を流しながらそう叫んだ。
余程怖かったのだろう。悔しかったのだろう。それだけの思いを彼女は口にできる権利がある。なんせ彼女は、被害者の家族なんだから...。
だからこそ、
「それはできない」
「!」
「それしてしまうと、本当の犯人がまた同じことをする。それに今回のことは犯人が見つかって終了ってわけにはいかないだ」
「・・・どうしてですか...」
「・・・戦争になる可能性がある」
『!!!』
「自分の国の国民が罪に問われているんだ。当たり前だろ」
『・・・』
俺が理由をきちんと伝えると全員は納得したのか、深く追求することは無かった。
「・・・それにな。明日は友好パーティーだ!」
「・・・」
「敵対国として存在していたアトラス王国との友好として、君のお父さんが叶え、やっと生まれたパーティーだ」
「!」
「そのパーティーを...君のお父さんが叶えた明日を俺が絶対迎えさせてみせる!だから、それを信じて待ってて」
「・・・はい...」
王女様がそう返事をすると、俺は優しく頭を撫でる。すると王女様は気持ち良さそうに目を細めた。
すると近くから視線を感じ見てみると、母さん達が俺達を見ながらニヤニヤしていた。
何をしているかと思い、話を聞こうと声をかけようとすると部屋の扉を叩く音に全員が反応する。
入るように諭すと、扉を開けてアスカが何か紙のような物を持って入ってきた。
「失礼します。ハ...お坊っちゃま。門番の人に話を聞いてみたところ、夕方にこの城に入ったのは私達とセレナさんだけだそうです」
「そうか...」
「あと、これを...」
「これは?」
「門番のところで持ち物検査をされてのを覚えていますか?」
「ああ。そういえば、そんなことしたな...。ただチラチラっと見て、危険そうな物に対しての話をちょっと聞くだけで、そこそこ時間がかかったから覚えてるよ。それがどうした?」
「実は、その検査した物の中で危険そうな物だけは表にしてメモしてあったんです」
「それ本当?」
「はい。これがそのメモです」
俺はメモを受け取り、その内容に目を通す。
メモを読んでいくとある一つの物に目を止まる。
「アスカ、これ」
「はい?・・・これって確か...」
「これを待って来たってことは、持っていく先は『魔道研究室』とかかな?」
「でもそんな場所、この城にあるのでしょうか?」
「ありますわ」
俺とアスカは後ろを振り向き、女王様に耳を傾ける。
「この城にも、『魔道研究室』は確かにあります」
「女王様。それは何処にあるのですか?」
「北側の階段...。地下一階の筈です」
「ありがとうございます!アスカ行くぞ!」
「はい!それでは皆様!失礼します!」
俺とアスカは部屋を出て、魔道研究室に向かった。