事件発生!
アスカ達がやって来て1ヶ月がだった。
あれからアスカはメイド業務を真面目に行いながら、母さんの手伝いをすることが多くなった。
母親の方も順調に回復に向かっていた。
そして、俺と同い年ということも相まって共に魔法の勉強をすることが多かった。
アスカは魔法の本を中心に優れた才能を持っていて、数多くの魔法を使うことができた。
俺がそれを褒めると遠慮しながらも嬉しそうに笑っていた。
彼女が働き始めて1週間が経った頃、国の衛兵がやって来た。その時に、異端者の行方がつかめないこと領地の貴族に聞いて回っていることになったらしい。
最後に行方が分からなくなったことから家に訪ねて来たとのこと。
アスカを横に控えさせ、俺は知らないと答えると、衛兵は何の疑問も抱かずに帰っていった。
アスカは間の抜けた表情で衛兵を見ていたので、アスカから離れ、『魔法ロリ処女メイド』と叫ぶと全力で追いかけ回された。
アスカが働き始めてから俺達にはある日課ができた。それは転生者として前世のことやこれからどうしたいのかについて話をすることだ。
俺の将来については考え中だが、アスカはゴムリン伯爵に罪を償わしたいと言っていた。
だが、それ以外の将来については何も考えていないらしい。
互いに夢がない奴と笑い合った。
そして現在、俺達は今、
「ドラケイル子爵のお通りでございます!」
この国の王都『エルレシア』に来ていた。
何故、エルレシアにやって来たのかと言うと、つい先日、
*
「ハク〜。アスカちゃ〜ん。少しいいかしら?」
俺とアスカが魔法について勉強をしていると、突然母さんがやって来た。
母さんの腕の中には凛がくたびれた状態で収まっていた。
「いきなりどうしたんですか?」
「実は近い内、エルレシアの王宮に行くのよ〜。それでもしよかったら一緒について来てくれないかしら?」
「私は奥様のメイドです。私は奥様の意向に従います」
アスカは立ち上がり、そう言って一礼する。その行動に母さんはまあまあ♪と喜んでいた。
「俺も別に構わないのだけれど...、それっていつ行くの?」
「え?明日」
『明日!?』
母の発言に驚きながらも、俺達は王宮に向かう準備をし、次の日となって王宮に向かった。
*
というわけで、俺達は王宮にやってきていたが、もしもの時のことということで持ち物検査のようなことをさせられた。
王宮の中に通された時はすでに夕方になっており、空はオレンジ色の雲がさしていた。
王宮を歩いていると何処からか話声が聞こえた。その声に反応し、急にアスカが走り出した。
俺は慌てて追いかけるとアスカは何かを見つめながら立ち止まっていた。
アスカに追いつくと、アスカはズカズカと歩き出した。アスカの目線の先には3人の貴族が仲よさそうに話していた。
そこで俺は気づき、慌ててアスカの手を引いて止める。手を引いて止められたアスカは驚いてこちらを振り返った。
「・・・お坊っちゃま...。離してください」
「ダメだ。今お前を行かせるわけにはいかない」
「・・・お願い、ハク君。行かせて...」
「・・・」
俺は抵抗するアスカの手を引きながら、今来た道を戻る。アスカは最初は抵抗していたが、ある程度離れると大人しくなった。
チラッとアスカの方を見てみると、なんだかとても悔しそうな表情をしていた。
「・・・お前の気持ちもわからなくはないよ」
「え?」
「きっと、あの3人の内1人が父親の仇なんだろ?もし、俺が君と同じ立場だったら、俺も同じことをしただろうからな...」
「・・・じゃあ、なんで止めての...」
「・・・」
「同じことをしたのなら!どうして止めたりしたの!」
アスカは涙を流しながら、俺にそう問いかけた。
「・・・ここで問題を起こすはまずいと思ったからだ」
「・・・まずい?」
俺は持っていたハンカチを渡しながら理由を説明することにした。
「別にあいつを襲って、運良く殺すことができても、その後のことはどう考えていた?」
「その後のことって?」
「やっぱり考えいなかったか。君は必ず捕まり、投獄される。打首獄門だな」
「それくらいの覚悟できてる」
「そして、君連れて来た俺と母さんも、同じく打首だ」
「な?!ど、どうして?!」
「犯罪者の内通者なんだ。当たり前だろ?そして、その足取りから君の母上は俺達の領地にいることが判明するというわけだ」
「そうだったんだ...。ごめんなさい。もう少しで貴方達に迷惑をかけるところだったね...」
説明が終わるとアスカは顔を俯かせる。
俺はそんなアスカの頭をポンっと撫でる。
「気にすんな。それに、次同じことがあった時に失敗しなかったらいいんだから」
「・・・うん...」
俺達は先に向かったであろう母さんに追いつくために再び王宮の中を歩き出した。
*
王宮の中を進んでいると、豪華に装飾された扉が開き、その中から母さんと綺麗な女性が楽しそうに話しながら出てくる。
俺とアスカはそれに気づき、2人に近づき、母さんもそれに気づいたのかこちらに向けて手を振ってくる。
「すみません、遅くなりました。・・・こちらの方は...」
「ええ。こちら、この国を治るシャルル・エルレシア王のお妃様。シェリア・エルレシア女王陛下よ」
「!?これは失礼しました。私は、ドラケイル子爵第1皇子ハク・ドラケイルと申します。先程の非礼お詫び申し上げます」
「わ、私は奥様...ユリア様のお付きメイドをさせていただいております。アスカと申します」
母さんから紹介されたのが女王陛下と分かると俺はすぐさま頭を下げ、膝をつき一礼をする。
アスカも俺に続き一礼をする。
「ふふふ♪」
「ユリ...貴方ね...。全く、2人とも顔を上げて。さすがに、親友の息子とお付きのメイドさんに頭を下げられるのはとても恥ずかしいわ」
『親友?』
女王の言葉に耳を疑った俺達は、顔を上げ王女様を見る。
「?ああ、ユリから聞いていないのね。私達、実は魔導学院の同期でよく一緒に行動したりしてたのよ」
『・・・えええぇぇぇ!!!!』
*
母さん達は持って来たドレスを女王様と王女様に着るため、俺は母さん達と別れ、現在は兵士の訓練場で黄昏ていた。
「・・・・・・・・・」
「・・・君。大丈夫かね?」
突然、話しかけられ声をかけられた方に顔を向けると派手な服を着た男が立っていた。
俺は立ち上がろうとすると、そのまま腰掛けるように諭され俺の隣に腰かけた。
「しかし、君の格好からして貴族だろ?そんな君がどうしてこんな所にいるのかね?ああ、敬語じゃなくていいよ。ガチガチで話すと気が休まんだろう」
「はあ、・・・実はさっき、女王殿下と母が学友で、その上親友同士だという事実が発覚しまして...」
「なるほど...?それなら逆に誇らしいのではないのか?」
「うちの母は、昔からよく俺を着せ替え人形のように服を着させられて、そのほとんどの服が女性物だったことから、女王様に多大な迷惑かけてしまったのではないかと思うと、胃痛が...」
「・・・」
俺がお腹を抑えると、男は背中をポンポンと同情の表情を浮かべながら軽く叩かれいたたまれない雰囲気になった。
*
しばらく話しをした後、俺は男に食事と言われたのでついていくことにした。
男に案内された部屋にはすでに料理が運ばれてあり、貴族もちらほらと席に着き、話をしていた。
「おっさん。1つ聞きたいんだが、この部屋にゴムリン伯爵っているか?」
「おっさん...。おっさんか。ハハハ!なるほど、そう呼ばれるのも悪くないな。これからはそう呼ぶといい。・・・っとそうだったな。マグニス・ゴムリン伯爵ならばおるぞ。あの男だ」
おっさんが指さした先には太々しく太った男が向かい側に鎮座していた。
俺は相手を見定めて、さてこれからどうするかと悩んでいると、ゴブ...ゴムリン伯爵達こちらを、というよりも俺を睨め付けるように見てきた。
俺はなぜ睨みつけられているのかと考えていると、奥の方の扉が開き、誰かが入ってくる。それは試着終え元の服装に戻っている女王様と母さん達だ。
そして、女王様の近くにいる俺とさほど年が離れていない、もしくは同い年であろう女の子がきっと王女様なのだろう。
王女様はこちらに気づくとトコトコ歩いて来た。
「ただ今戻りました!お父様!」
「へ?お父様?」
「おお、戻ったかソフィア。それで?どうだった?」
「はい!とても綺麗でした!」
「おお!それは良かった!」
「こらソフィア!全く。・・・あら?ハク君?」
「あらほんと。ハク?どうして貴方が国王様と一緒にいるの...」
「・・・じゃあ、やっぱりおっさん。あんた本当は...」
「うむ。私はシャルル・エルレシア。これでもこの国の国王しておる」
「・・・まじかよ」
その後、俺はシャルルさんに謝るといとも簡単にゆるしてくくれた。
その代わりのシャルルさんをおじさんという条件をだったので、俺は喜んでその条件を飲んだ。
*
母さん達が学院時代の話で華を咲かせている間、女の子組は女の子組で話し込んでいた。
「やはり!ユリア様の服をお作りになされている時はとてもお美しいのでしょうか!」
「ええ。それはもう素敵姿でございます」
「・・・シェリーったらね...」
「もう、いいでしょ?ユリ?」
「・・・肩身...狭いっすね」
「そうだな...」
俺はおっさんと男同士で虚しくしていた。
すると、部屋の扉が開き誰かが入ってくる。
入ってきた人は女性だか、他の人とは違いあるものが付いていた。
それはふわふわとした尻尾にピクピクと動く耳で、
「ケモミミだと!?」
「?ハク君、何を言っているんだ?・・・とにかく、この食事会に来てくれて感謝しますよ。セリカさん」
「はい。今回はこのような食事会に参加させていただき、ありがとうございます。あとこれ、つまらないものですが...」
ケモミミの女性は手に持っていたワインを王様に渡した。
「おお!これはありがたい!まあ、席に着いてくれ」
そう言われ、ケモミミの女性は向かい側の席に着き、他の人達も空いている席に座る。
おっさんは受け取ったグラスにワインを注ぎ、それを持ち上げる。
「それではみなさん、グラスをお待ちください。・・・それではこれから食事会を始めたいと思います。では、乾杯!」
『かんぱ〜い!』
俺達は手に持ったグラスのワイン(子供組はぶどうジュース)を一気に飲みほした。
「!・・・ぐあああぁぁぁ!!!」
すると突然おっさんが苦しみ出し、その場に倒れふした。
母さんを含め、この場にいる全員が騒ぎ出し、慌てふためいていた。
「全員その場を動くな!!」
『!?』
「母さん!急いでおっさんに回復魔法を!」
「わ、わかったわ!」
「女王様は回復魔法使うか、回復魔法を使える人すぐに呼んできてください!」
「わ、私?」
「急いで!」
「は、はい!」
「アスカはこのことを兵士の人に伝えて!そしてこの敷地ないから誰一人出さないで!」
「わ、わかりました!」
慌てている人に、一人一人に指示を出し、指示された人達はその行動に従い、行動を始めた。
「すみませんがみなさん。これから話を聞きたいので、別室に移動してもらっていいですか?」
「その必要はないだろう?」
全員の後ろの方で1人の声が聞こえ、そちらの方を見る。視線の先にはゴムリン伯爵がいた。
「国王はそのワインを飲んで倒れたんだ。ならば、そのワインを持ってきたその女狐が毒を盛った犯人だろうが!」
その言葉に、全員がケモミミの女性に視線が集まる。
その視線に女性は多いに慌て、それを否定する。
「わ、私はそんなことしていません!」
「は!そんな言葉信じられるか!」
「とりあえず!それも含めて話が聞きたいので、別の部屋に移動してください」
「我々に、その女狐と一緒にいろというか!」
「・・・すみませんが、貴方はこのままここにいてもらっていいですか?」
「わ、わかりました...」
ケモミミの女性は渋々了承、先程俯いてその場に立ち尽くした。
「それではみなさん移動してください」
俺のその言葉に、他の貴族の方も仕方なく従った。
俺は今、倒れているおっさんを治療している母さんの役に立つことが出来ないことが悔しく、手を強く握り締めるのだった。