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新人メイド・アスカ〈後編〉

 目を覚ますと知らない天井が広がっていた。

 どうしてこんな所で眠ってたんだろう...。

 最後に覚えているのは、突然、空から降って来た男の子の杖から真っ白な煙を出した所から記憶がない...。


「・・・どうしてこんなことになっちゃったんだろう...」


 私は膝を抱えながら、1週間前のことを思い出していた。


 *


 私・土御門 飛鳥(つちみかど あすか)がこの世界に転生?してから父や母であるファレード家の人にお世話になっていた。

 ファレード家のみんなはとてもいい人達で、いつも親切にしてくれた。

 杖契約式では、私が白い光を出した時はすごく驚いていたけど、それでも魔法を使えるようになっていくととても喜んでくれた。

 でも、そんな日々は長くは続かなかった。

 1週間前、私達はいつものように楽しく過ごしていると司教様が私達のお屋敷にやって来た。

 その司教様は私達に膨大な額の献金を要求してきた。流石のお父さんもそこまで膨大な額は払えないと言うと、それを狙っていたかのようにゴムリン伯爵がやってきて、


「この者達は大魔導師・アレイスターを愚弄する異端者だ!」


 その言葉と共にゴムリン伯爵と司教様が連れていた衛兵達がお父さんを連行して行った。

 私と()()()()はメイドの人達や執事の皆さん助けでどうにか逃げ出すことが出来た。


 *


 今考えれば、司教様とゴムリン伯爵がグルになってこんなことをしでかしたと理解できる。

 私は無力だった自分に腹が立ち、涙を流す。


「・・・所で、あの魔道技って技、現在は誰も使えない技なんだって...?」

「あれ?言ってなかったか?」

「言ってない!」


 突然の声に私は慌てて涙を拭く。

 部屋の外から聞こえた声はどんどん近づいてきて、私のいる部屋の前で鳴り止んだ。

 そして、部屋の扉をコンコンっと叩き、部屋の中に入ってくる。


 *


「失礼します...」


 部屋に入ると、この部屋で眠っている女の子と目が合う。それに気づいた凛はズカズカ(浮いているからプカプカ?)と部屋に入っていった。


「なんだ、起きてたのか。てっきりまだ寝てるもんかと思ったぜ」

「あ、えっと...さっき、目を...覚ましまして...」

「そうか。大丈夫?」

「は、はい。・・・大丈夫です...」


 ・・・嘘だ。彼女の目元は、まるで擦っていたかのように赤く腫れ上がっている。きっとさっきまで泣いていたんだろう...。


「と、所で、あなたは...」

「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺はハク。この領地を治めているドラケイル家の...一応一人息子だ。こいつは凛。こんなのでも俺の使い魔だ」

「こんなのとはなんだ。こんなのとは」

「そりゃあ昨日空から落とされたからなぁ...」

「うう...それはすまんかった」

「・・・ふふふ」


 俺と凛の会話に緊張がほぐれたのか、軽く微笑んだ。

 だがすぐに表情が暗くなる。


「・・・所で、君のことなんだけど...」

「!・・・わかってます。すぐにここから...」

「ここで働かないか?」

「へ?」


 彼女は俯いて顔を上げ、驚いた顔で俺を見る。


「君達親子がどうして異端なんて呼ばれているのかは知らないし理由なんかも聞かない。それに、これは交渉だ」

「・・・交渉?」


 彼女は頭に?を浮かべながら首を傾げる。


「どの道君達は、ここから出て行ったってすぐに捕まるだろうね。だけど、ここに居れば絶対とは言わないが、少なからずその期間を延ばすことはできる」

「う、うん」

「そして現在。君のお母さんは現在治療中だ」

「え!?お母さんは大丈夫なの!?」


 そう言うと、俺に飛びついてきた。


「だ、大丈夫。傷の方はしっかり治って、今の所は安静にしてる」

「そっか...よかった」


 彼女に母親のことを伝えると、安心したのかその場に座り込んだ。


「でも、魔法の治療ってそれなりに大変なんだよなぁ」

「それはわかります。私も回復魔法を使えるので...」

「それが1日中かかっだ。こっちにもそれなりの報酬が欲しいと思うのは...当然だよな」


 俺がニヤリと彼女を見ると、体をビクッと震わせる。


「それで最初の話に戻るんだ。どう?これで少しは理解できたかな?」

「で、でも、それが交渉になる理由がわかりませんが...」

「まぁ、確かにそうだが、別に取引という解釈でもいい。どの道、君はこの話に乗るだから...」

「・・・っ、どういう意味ですか...?」


 少しムッとした表情で彼女は俺の問いかけた。


「わからないか?それなら教えてやる。君のお母さん。実の所、まだ完全に動ける状態じゃない」

「!」

「そんな状態のお母さん...ここは患者とでも言っておこうか。そんな患者を無理に動かせることは、治療した側からしたら行かないんだよ。それくらいはわかるだろ?」

「それは...」

「そこで、交渉や取引の方の話に戻るんだ。こちらからは、君ら親子のしばらくの身の安全と治療、そしてそれまでの生活の保護をしてあげる。その代わりに、それまでの間君にはここで働いてもらうことが条件なんだか...どうかな?」

「ど、どうかなって...」

「因みに、君には一応拒否権というのもある」

「それなら」

「金貨15枚」

「え?」

「金貨15枚で手を打とう」

「き、金貨15枚!そんな金額...」

「言っちゃ悪いが、これでもかなり譲歩した方なんだぞ?本来なら治療代の銀貨10枚と部屋代の金貨1枚と銀貨8枚を数に入れてない上に、領地に対し不法に入った時の罰金の金貨30枚を半額の金貨15枚に負けてやってるんだから、感謝してほしい所なんだが?」

「うう...」

「でもここで働けば治療費や生活費はタダ、その上しばらくではあるが身の安全を保障される。・・・ここまでいい物件は無いと思うけどな...」

「・・・」


 彼女は俯いて何も話さなくなった。


「・・・まあ考える時間も必要だろう」


 俺は凛の首根っこを摘み、立ち上がる。


「しばらくは考えてみてくれ。この紙にお前の母親がいる部屋を書いてあるから様子を見に行ってやれ」


 彼女は何も言わずに紙を受け取った。

 受け取ったのを確認し、俺は部屋を後にした。


 *


「そう...彼、そんなことを言っていたの...」


 空がオレンジ色になり、私は()()()いる部屋に向かい、先程の彼との話をした。


「それにしても、金貨15枚か...。さすがに、お金は持ってきてなかったわね」

「そんなこと言っている場合ですか!?早くここから出ないと、彼らにも迷惑が...」

「そう思うなら、最初から助けないらしいわ」


 お母様の言葉に言葉を失う。

 私は慌ててお母様を見て、お母様は私の顔を見て笑い出した。


「・・・どうしてそれがわかるのかって顔ね」


 私はコクコクと頷く。


「・・・彼ね、あなたの部屋に行く前に一度ここに来たのよ」


 お母様は彼がここに来た時、私達にあったことを話したらしい。司教様のことやゴムリン伯爵のこと、そして、お父様のことを...。

 お母様が話している間、彼は何も言わず、ただただ真剣に話を聞いていたらしい。


「・・・正直、話をした時に『すぐに出て行け!』と言われると思っていたわ。でも彼は...」


 *


「・・・とりあえず、その『ファレード』を名乗り続けることはまずいな...」

「・・・え?」

「それに、貴方達をうまく隠しておく場所が必要だな...」

「え?・・・え?」


 私は彼が言っている言葉に理解追いつくことができなかった。

 すると、部屋と扉が開き、この家の奥様のユリアさんがティーセットを持って入って来た。


「2人とも〜。一緒にお茶しない〜?」

「・・・ブツブツ・・・」

「あ〜、これはしばらくは戻ってこないわね...。仕方ない、ファレード伯爵夫人。一緒にお茶しましょ♪」

「は、はい...」


 ユリアさんはかなり手慣れた手つきで紅茶を入れていく。お茶を入れている彼女の姿はとても優雅に見えた。


「どうぞ」

「い、いただきますわ」

「よし!これならしばらくは誤魔化せれるな!」

「あら、ハク。貴方も紅茶はいかが?」

「・・・いつからそこに...。まぁいいや。それより1人、メイドとして雇いたい人がいるんだけど...」

「?よくわからないけど...いいわよ♪」

「ちょ、ちょっと待って!貴方!一体何を考えてるの!」


 私が彼にそう尋ねると、彼はさも当然のように言った。


「しばらくの間、あんたら親子の身の安全を確保する方法」


 *


「彼は『あんたらを追っていた兵士達は俺の実験ついでに消しておいたから、しばらくは安全だが絶対じゃない。だから、当分の間はこの家から出さない』と言ったの」


 ()()()()の話を聞いて、彼は何より先に私達のことを考えてくれていたことを初めて知った。

 ・・・それにしても、


「・・・それがどうして私がメイドになるってことなの?」


 つまりはそういうことである。


「確かに私もそう思ったわ。そしたら『話を聞いたところによると、あんたの家じゃ杖契約式を内密行っていたからな...。それを逆手に取る。俺達貴族はバカみたいに固定概念にこだわる。『そんなことはない』『ありえない』そうして考えることを放棄して蓋をする。だからこそ、その固定概念の裏をかくんだ。貴族の、ましてや伯爵の娘がメイドとして働いているなんて、あんたらはあり得ると思うか?』。・・・そう言われて、言葉に出なかったわ」


 確かに、そう言われればその通りだ。私も貴族の娘が働いていることなんて想像もしない。


「そ、それでも、私達を助ける理由にはならないよ?」


 ・・・本当はわかってるんだ。それでも、私の前で借金取りのように振る舞った彼を認めたくない。それだけなのだ。


「ええ、それはね」


 お母さんがその理由を話そうとすると、部屋の扉をコンコンと叩き扉を開けてとても綺麗な女性が顔を覗かせてくる。


「ここには...いたいた♪」


 綺麗な女性は笑顔で部屋の中に入ってきた。


「どうしたのですか?ユリアさん?」

「もう!ユリちゃんでいいって言ってるのに!」

「い、いえ...。さすがに恩人に対してそんな...」


 ユリアと呼ばれた女性は顔をプクッと膨らませ、お母さんに怒る。その姿はとても可愛らしかった。


「そ、そんなことより、私達に何か用があったのではないですか?」

「?・・・ああ!そうそう!実はね、貴方の娘さんに用があったの」

「わ、私ですか?」


 ユリアさんは私の方に向き、笑顔でそう言った。


「少し、この子を借りていいかしら?」

「え、えっと...」

「ええ、私は構いませんわ。アスカ?貴方は?」

「は、はい。私は構いません」

「それじゃあ、ちょっとお借りしますね♪」


 そう言って、ユリアさんは手を引いて私を部屋から連れ出した。

 お母さんは私に手を振って見送った。


 *


 私の手を引きながらユリアさんはとある部屋の扉に入る。

 部屋の中に入ると、そこには数多くの洋服やドレスがマネキンに着せられていたり、生地が周りに杜撰に置かれてあった。


「この部屋...」

「私の仕事部屋なの。これでも私、貴族の皆さんや国王様の服なんかも作ってるのよ〜。最近は、今度あるアトラス王国との友好パーティーで女王様と王女様がお着りになさるドレスを作っているの」


 それを聞いて納得して再び周りを見渡す。そしてその中かひときわ目を引くドレスが目に入る。

 そのドレスはとてもきれいで、私はそのドレスに釘付けになった。

 私がドレスに釘付けになっていると、


「いつもなら着せてあげてもいいんだけど...。でも、そのドレスは着せてあげるわけにはいかないの...。ごめんなさいね」


 ユリアさんが私の両肩に手を置いてそう言った。


「ちが!そんなこと!」

「まぁ、気に入ってくれたのならそれに越したことはないわ」


 その言葉に言い返すことが出来ず、少し顔を俯ける。きっと私の顔が真っ赤になっているだろう。


「それじゃあ早速これを着てくれないかしら?」

「それは?」

「貴方用に新調したメイドよ」


 それは私の丈にあったメイドを服を私に見せてきた。


「えっと...。私別に着るとは一言も言っていないのですけど...」

「あら?そうなの?でも作ってしまったから、一応着てみてくれないかしら?」

「それなら別に構いませんが...」


 私はメイド服を受け取り、メイド服を着る。私の手の届かない所はユリアさんに手伝ってもらい着ることができた。


「・・・うん。大きさもぴったり」

「あの、どうして息子さんは私達を助けたんでしょうか...」

「さあ、私にはわからないわ」

「・・・そうですか...」

「ただ、あの子はきっと『()()()()()()』って言うと思うわ」

「ど、どうしてそんなことを?」

「それは単純に、貴方達親子を助けたいからじゃないかしら」

「・・・」

「あの子は少し不器用で、うまく気持ちを伝えることは出来ないけど、他の誰よりも私達のことを考えてるの。例えばこの前、メイドの1人が怪我をしたの。そうしたらあの子、すぐに救急道具を持ってきて治療を始めたの。とても手慣れた手つきだったわ」

「・・・」

「だからきっと今回のことも同じ、あの子は貴方達のことを考えて提案したんだと思うわ」

「・・・そうですか」

「よし!完成!もう脱いで大丈夫よ」

「はい...」

「・・・アスカちゃん?」

「え?あ!はい!今脱ぎますね!」


 私は名前を呼ばれ急いで服を脱ぎ、服を渡す。


「・・・その服はあげるわ」

「え?でも...」

「まだ返事はしてないんでしょう?もしする時はその服があった方がいいでしょうしね」

「・・・わかりました」


 私はユリアさんに作ってもらったメイド服を見ながらそれを受け取った。


 *


 翌日の朝

 さすがに昨日は返事を急かし過ぎたことを反省しつつ、俺は彼女の部屋に向かう。

 彼女がいる部屋につき、ノックをして扉を開ける。

 部屋に入ると、そこには鏡の前でメイド服を着こなした彼女の姿があった。


「!・・・おはようございます。お坊っちゃま」

「え?ああ、おはよう...。どうしたんだ?その服?」

「奥様に頂いたものです。・・・お坊っちゃま。私、貴方の取引に乗ろうと思います」

「そ、そうか」

「ただし!条件があります。私は貴方ではなく、奥様に使えさせていただくことが条件です」

「わ、わかった。それで構わないよ」


 彼女の勢いと顔が近づいて来て立ち退き、後ずさる。

 彼女の条件を了承すると、彼女は笑顔で、


「それじゃあ、お坊っちゃま。このお屋敷を案内してくださいね」

「・・・了解。ついて来て」


 俺は彼女と共に部屋に出て、家を案内した。


「あ!そういえば、自己紹介がまだでした。私はアスカ・ラ・ファレードと申します。これからよろしくお願いします」

「・・・次からは『ファレード』って言うなよ」

「っと、そうでした。次から気をつけます」

「そうしなよ。俺はハク。ハク・ドラケイルだ。よろしくな。『魔法メイド・アスカちゃん』」

「ちょ!そんなアニメの題名みたいなこと言わないでください!」

「狙ってやったからな」

「な!・・・ああ!貴方!最後にあの部屋に来た...あ!こら!逃げるな!待ちなさ〜い!」

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