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新人メイド・アスカ〈前編〉

「う〜ん」


 召喚の日から2週間が経った。

 あれから凛が新しい家族として一緒に生活をしている。

 凛は思った以上に頭が良く、剣術や槍術、杖術といった近接戦のレベルも高く、現在では俺の先生のような立場となっている。

 何よりよかったのが、


「待って!凛ちゃ〜ん!」

「誰が待つか〜!」


 母さんの標的が完全に凛に移行したのだ。

 凛が来る前は完全に俺が標的とされていて、メイド服やゴスロリ、さらにはお姫様衣装といった服を着せ替え人形のように沢山着る羽目になった。

 それが現在ではぬいぐるみ状態の凛が標的となっている為、魔法について集中して勉強することができている。


「つ、つかれた...」

「お疲れ様」


 母さんから逃げ切ったのか、凛がクタクタ状態で俺部屋に入ってくる。

 凛の服は以前の道着姿ではなく凛用に母さんが作った小型の燕尾服である。燕尾服以外にも騎士服や派手派手な装飾のついた服なども作っていたが、その中でもまだ燕尾服が1番ましということで、それを沢山作ったもらっていた。


「大変だろ?着せ替え人形」

「ああ、そうだな...。それで?俺が追いかけて回されている間、ハクは何をしていたんだ?」

「うん?ああ。独自仕様魔法についてちょっとな」

「あ〜。『ワン・マジ』な」

「わん・まじ?」

「そうだ。ワン・マジ。言いやすいだろ?」

「確かに...。よし!それ採用!」

「そうか。それで?ワン・マジの何に悩んでんだよ」


 凛はふわふわと浮き上がり、机の上にある本を重ねている場所に椅子のように座った。


「ああ。ワン・マジって簡単に言えば自分との対話だって書いてたんだ」

「うん」

「でもさあ、それっておかしくないか?」

「何がだ?」

「魔法ってのは外からの現象や考え方を取り入れることで自分の力にしているだろ?」

「う〜ん。確かにな」

「だったら、ワン・マジだって同じこと言えるんじゃないか?」

「というと?」

「これは屁理屈になると思うんだけど、発想やイメージって何か、もしくは誰かからその元となる基盤を取り入れることなんじゃないのかって思ったんだ」

「ふ〜ん。で?それを俺に話してどうしたいんだ?」

「う〜ん。なんというかこう...。ワン・マジはイメージを固定化ってのが変というか...。なんか不自然というか...」

「・・・ハク。少し外に行くぞ。窓を開けろ」

「へ?何?どういうこと?」

「いいから」

「まあ、別に構わないけど...。・・・窓開けたけど、これでいいの...か...」


 俺は凛に言われた通りに窓を開けると凛は俺の背中を掴みそのまま浮き上がっていく。


「お、おい...。まさか...」

「よし。行くか」

「うそだろおおお!」


 凛は俺を掴んだまま、すごい勢いで飛んでいった。


 *


 ドラケイル領土の外れ


 沢山の木の葉が太陽を隠し、薄暗い森をローブを身にまとった小さな影と大きな影が木々の間を駆け抜けていた。


「見つけたぞ!あそこだ!」


 その声に2人は後ろを振り返る。

 そこには、3人の兵士が武装をして2人を追いかけていた。


 *


 俺は未だに凛に掴まれ空を飛んでいた。


「・・・なあ?いつまでこと状態なんだ?」

「まあまあ、いいじゃねぇか。それよりどうだ?空の旅は?」

「・・・はぁ。まあ、嫌いじゃないかな...」


 それは風を体全体で感じ、とても気持ちが良かった。

 こんな風に空を飛ぶ鳥や飛行士なんかがとても羨ましく...


「・・・あれ?」

「どうした?」

「え?いや...」


 今、ふと何かが思いついたのだが...なんだっけ?


「・・・?!この匂いは!?・・・あ」

「へ?・・・ぎゃあああああああ!」


 凛が何かに気づき、それに反応すると誤って俺の服を掴んでいた手を離してしまい、自由落下の法則の如く地面に向けて落ちていった。


 *


「風よ!疾風の如く切り裂け!エアカッター!」


 兵士の1人が2人に向けて風魔法の初歩技・〈エアカッター〉を放つ。

 すると大きなローブをまとった人は小さなローブをまとった人を守るように抱きしめ、そして〈エアカッター〉をもろにくらう。


「きゃあああ!」

「お母様!」


 背中を切られたことにより、深々と被っていたローブが取れ、その姿があらわとなる。

 あらわとなった女性は見るも美しい姿であったが、その表情は苦痛の表情となっていた。


「お母様!」

「来てはダメ!」

「で、でも...」

「私のことはいいから、早く逃げなさい!」


 女性は小さなローブをまとった女の子に逃げるように言うが、言わせた子は逆に足がすくみ動けなくなってしまっていた。


「さっさと連れて行こうぜ。こうじめじめした場所はウザったくてかなわねぇ」

「そうだな。でもその前に、少し味見をしてからいかねえか?」

「お、いいな。実は追いかけている時から、そこの女を抱いてみて〜って思ってたんだ!」

「それなら、俺はあの娘だな。ゲヘヘヘ」

「ヒィ!」

「酷え趣味してんな」

『ギャハハハハ!!』


 3人の会話に足がもつれ、その場にこけてしまう。

 こけて動けなくなってしまっている女の子を他所に、3人の男はジリジリと2人に近づいていく。


「・・・たす、けて...」


 ジリジリと近づいていく3人に恐怖しながらも、女の子は必死に声を出し、


「・・・助けて!」


と叫んだ。



「・・・・・・・ぁぁぁぁあああああああ!」




 *


 俺今、空を飛んでるんだ♪


「なんてふざけてる場合じゃねぇ!ここのままじゃ死ぬ!」


 考えろ!今日までに習った魔法で何かこの状態で使えるのはなかったか?!

 えっと...。教えてもらったのは近接戦闘のやり方と、あとは確か相手を眠らせる魔法と一部の記憶を忘れさせる魔法だっけ...。

 ・・・今のこの状況を寝て忘れろってこと?


「使えねぇじゃねぇかぁぁぁ〜〜!!!」


 そんなことを叫んでいる間に目の前には生い茂った木々が近づいていた。

 まずい!このままじゃ本当に死ぬ!

 俺は脳をフル回転させ、現状をどうにか突破できる方法を考える。

 そしてふと、空に向けて羽ばたこうとする鳥の姿が頭をよぎった。


「・・・飛べ!」


 すると、急に背中を引っ張られる感覚と突然の浮遊感に落下の勢いがかなり収まった。

 だがすぐにその感覚がなくなり、再び落下が再開される。しかし、再開された場所が木々のすぐに真下だった為か、木の枝をバキバキと折り、地面につく頃には軽い打ち身程度で済んだ。


「イッテッテ...。あ〜、死ぬかと思った...。あの野郎後で覚えてろよ...。うん?・・・へ?何?この状況?」


 俺は痛みに耐えながら辺りを見回すと、そこには背中を切られ倒れている女性と涙を流している女の子。そしてその2人に近くにいる3人の兵士がこちらを見ていた。


「そこのあなた!ここから早く逃げなさい!」

「・・・えっと...。誰かこの状況について説明してくれないか?」

「へ!そんなもんはいらねぇんだよ!」


 兵士の1人がこちらに向けて剣を構える。ひょっとしてあれ杖石か?


「風よ!疾風の如く切り裂け!エアカッター!」


 男は風魔法である〈エアカッター〉を俺に向けて放つ。

 俺は杖石に魔力を込め、杖の状況にし、


「・・・解除(ディスペル)!」


 そのまま魔法に向けて杖を振り下ろし、〈エアカッター〉を叩き壊した。


「何?!」

「魔法が砕かれた?!」

「どういうことだ?!答えろ!」

「・・・今のは近接型魔法。魔道技(まどうぎ)の1つ。〈ディスペル〉だ」

「まどうぎ?」

「・・・聞いたことがあるわ」

「お母様!大丈夫!すぐに傷を治すから」

「ええ...」


 そう言った女の子は杖石を取り出し、それに魔力を込める。すると、杖石の形状が変わりステッキのような形になる。


(ステッキといえば魔法少女...ってことは、彼女ひょっとして転生者か?)

「よそ見してんじゃねぇ!」

『エアカッター!』


 兵士3人が同時に放ったエアカッターだが、先程と同じように〈ディスペル〉で砕く。

 悔しがる兵士達を他所に、俺は親子の方を見る。

 女の子は、背中を切られた女性の傷を少しずつだが、着実に直していっていた。

 おそらくは回復魔法の中でも最も簡単な魔法・〈ヒール〉を使っているのだろう。

 女性の表情に少しずつだが苦痛の色がなくなっていった。


「ありがとう、アスカ。かなり楽になったわ」

「それならいいんだけど...。それで、魔道技って?」

「ええ。魔道技はね、対魔法を中心に開発されたもので、魔力を持たない人でも使えることから、一部の者達から神聖視されていたの」

「そうなんだ...」

「でも、もうすでにその伝承は途絶え、現在では誰も使える者がいないと言われているのに、どうしてあなたがそれを使えるのよ!?」


 俺はその言葉に答えようとするが、兵士達が俺の周りを取り囲み、再び〈エアカッター〉を放つ。

 杖を構え、もう一度打ち砕こうとすると、空から舞い降りた飛来物によって、俺に迫っていた〈エアカッター〉が砕かれる。


「いや〜、すまんな。まさか手を離しちまうとは思っていなかったんだ」

「・・・ああ、そのおかげで死にかけたよ。凛」


 飛来物が突然話しかけられ、その姿をしっかりと見てみると、そこには俺を落っことした凛はの姿があった。


「それで?これはいったいどういうことだ?」

「さあ?いきなり攻撃されたからな。おそらく夜逃げか何かなんだろう」

「っは!ちげえな!こいつらは『異端者』だ!俺達はこの異端者を罰しに来たんだ!」


 俺と凛は顔を見合わせて、再び兵士の方へ顔を向ける。


「どうことだ?」

「我々はゴムリン伯爵の訴えの元、ファレード伯爵及びその家族を拘束するように仰せつかっております」

(・・・凛はどう思う?)

(正直、胡散臭いな)

「(俺もだよ)・・・〈スリーピング・ミスト〉」


 俺は召喚した者のみ通信ができる〈念話〉を使い、互いに同じ結論を出すと、俺は杖を後ろに隠し、小声で睡眠魔法・〈スリーピング・ミスト〉を発動する。


「でもさあ!ここはファレード家領地じゃないわけだよな?許可も取らずに領地侵入及び魔法の発動はまずいじゃない?」

「その辺についてはご安心を。既に許可は取ってあります」

「・・・それはいつのことだ」

「今朝方でございます」

「嘘だな。今は昼前だ。正式の手続きをしてこの領地に入るには少なからず半日はかかる。その上異端とされる者がこの領地にいるのなら尚のこと、一度領地主と話をするべきだ」


 俺の反論に兵士達は顔を歪める。

 きっと、今ので話が通ると思っていたのだろう。


「いやいや失敬。今朝と言ったのは誤りだ。許可を取ったのは昨日のことなんだ」

「昨日...か...。なるほど。それが本当なら確かにこの領地に入ることができるな」


 俺の言葉に兵士達はニヤニヤと笑い出し、女の子は絶望のような顔をしていた。

 逆に、女性は焦ることなく現状を見守っていた。


「そうか、なら」

「ええ、あなたは我々の行動を黙って」

「今から父に本当かどうか一緒に確かめに行きましょう」

『・・・は?』


 兵士の3人と女の子が素っ頓狂な声出し、女性はなんだか納得したような表情となる。

 俺は懐からとある物を取り出す。それはこのエルレシアの貴族各々の領地のシンボルを象った紋章だった。その紋章は貴族と平民を区別する証明であり、紋章のシンボルは貴族及び騎士、兵士のみ知ることが出来る。ちなみに家のシンボルは犬だ。

 紋章を見せると兵士達から焦りの色が見せ始め、汗が滝のように流れ始める。


「自己紹介がまだだったな。俺はハク・ドラケイル。この領地を収めるアイゼン・ドラケイルの1人息子だ。さっき言葉通りなら...もちろん一緒に来てくれるよな?」


 紋章をしまいながらそういうと、兵士達は地に頭をつけ、


『申し訳ございまさんでした!』


謝罪の言葉を口にした。


「き、貴族の方とはつゆ知らず。攻撃してしまったこと及び、嘘偽りを申し上げたことここに謝罪いたします」

「しかし、我々には任務があり、そこにいる者達を捉えなければなりません」

「ここは何卒穏便に済ませることはできないので...あの...いったい何を?」


 兵士達は謝罪、そして任務を各々口にしだが、俺は既に出ている結論に聞く耳を持たず杖を振り上げる。


「〈スリープ・スモック〉」


 その言葉と共に杖から大量の煙が発生し、俺達はその煙に飲み込まれた。


 *


「・・・丈夫ですか?大丈夫ですか?」

「うう。ここは?」

「漸く、目を覚ましましたか。他の方々も目を覚ましたようで」


 子供の声に目を覚まし、俺は辺りを見渡す。日の光少ししか入っていない暗い森。俺の隣を見てみると、俺と同じように目を覚ました兵士服を着た同期の奴らがいた。


「よかった。こんな所で寝ていたら風邪をひいてしまうところでしたよ」

「そうか。済まなかったな。()()()()()の俺達を助けてくれて」

『ありがとな』

「いえ、気にすることありませんよ。ところで、どうしてこんな所で眠っていたのですか?」


 眠っていた...。そういえば、


「俺達はどうして()()()()()()()()()()()()?」

「・・・俺が知ってるわけないでしょ」

「まあ、それもそうだな」


 俺その場に立ち上がると、他の2人も立ち上がる。


「とにかく、一度戻るとするよ」

「ええ。それでは」

「世話になったな」

「あばよ。がきんちょ」


 俺達は子供に手を振り別れを告げ、来た道を引き返していった。







「・・・実験成功...」


 俺は兵士達が帰って行った方をじっと見ながらニタリと笑った。

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