召喚したのは
翌日。
今日は昨日約束を取り付けた召喚の日だ。
あの後、体の調子が戻った俺は一目散に父さんに召喚のこと話すと最初は苦い顔をしてダメだと言っていたが、代わりに独自仕様魔法の話をすると先程より苦い顔をしたので、召喚とどっちがいいか聴くと、かなり返答を渋ったが召喚の方をすることになった。
しかし、どうしてあそこまで魔法を教えるのを嫌がるのか俺にはわからなかったが、母さんが、
「あの人、魔法を教えるのはからっきしなのよ...」
と困った顔をして、そう言っていた。
それならそれで構わないのだが...できればもう少ししっかりしてほしいところだ。
閑話休題
召喚の準備として昨日のうちに読み込んだ魔法の本をもう一度読み込んでいた。
ただ、その読んでいる場所は俺の部屋ではなく、召喚を行うと約束した中庭で朝日を浴びながら読んでいた。現時刻は地球時間で約6時。約束の時間は10時...。遠足感覚で早く目が覚めてしまった...。
目を瞑り、ため息を出しながら本を閉じる。早めに起きてしまったため何度も読み返し、もう一度眠ろうと思ったが、逆に目が冴えてしまったのか1時間も読み更けてしまったため散歩ついでに中庭でもう一度読み返しいたが、昨日や今日の内に何度も読み返したため長く読む気にはならなかった。
本を閉じ空を見ながらぼーっとしていると、
「お坊っちゃま?今日はお早いお目覚めですね?」
「ああ、アランさん。おはようございます。なんだか早く目が覚めてしまって...。アランさんはいつもこの時間に?」
「ええ。この歳になるとなかなか寝付けないもので...」
「そんなこと...。アランさんはまだまだ若いですよ」
「そう言ってもらい光栄でございます。ところで、こんなところで何を?」
「ああ、なんだか早く目が覚めてしまって」
「そうでございましたか」
アランさんは父さんに長年仕えていて現在は他の執事たちを束ねる執事長をしている。
俺とは執事の中で最も話をするする中で、よく父さんや母さんに話せないことを相談している。
「何か時間が潰せるようなものがあればいいんだけどなぁ...。トランプとか...」
「とらんぷ?」
「知りませんか?カジノとかでよく使われていると思ったのですが?」
「いえ...。かじの?というのを今日初めて聞きました」
「そ、そうなの!?」
知らなかった...。俺がやっていたほとんどゲームには、カジノやコインエリアと言ったメインをより有利に進めることにできるような娯楽エリアがあったため、この世界にもあると思っていたんだが...。なかったんだなぁ...。
「ってことは、この世界の人は遊ぶ暇さえないってことか...」
「さあ、それはその方次第ではないでしょうか。旦那様はおやりになりませんが、貴族の間ではよく狩猟をなされる方も多いとか」
「俺だって遊びで動物を狩るのは嫌だよ。それなら自分で折り鶴でも作ってる方がま...し...」
「・・・?どうかなさいましたか?」
「そうだよ!ないなら最初っから作ればよかったんだ!」
俺は腰掛けていた場所から立ち上がりそう叫ぶと、アランさんは急な俺の行動にビクッと驚く。
「ありがとう。アランさん!俺、しばらく部屋にこもっているから、朝食の時間になったら呼びに来てくれ!それじゃあ!」
「は、はい...。いってらっしゃいませ...」
俺はアランさんが言い終わる前に、自室に向かって走って行った。
*
「それじゃ、召喚を始めるわよ〜」
「おお!」
「お、おお...」
俺と母さんは気合十分とでも言っているかのような元気な声で母さんは左手を、俺は右手を握りしめ高々と掲げ、父さんも恥ずかしそうに後に続いた。
あの後、部屋に戻った俺はすぐさまトランプ作製に取り掛かった。Aから10の数字のカードを4枚づつ作ったが、さすがに、JからKまでの絵札はさすがに描くことが出来ず、そのまま大文字でJやQと書いただけだった。しかし、JOKERだけはそれで納得せず、JOKERに書かれる道化師の絵を何度も書き直していく中、いつのまにか寝ており朝食の時間になってやってきたアランさんに起こされるまで眠っていた。
閑話休題
朝食を食べ終え、約束の時間となったため俺たちは中庭に来ていた。
「それじゃあ、ハク。そろそろ始めようと思うが...大丈夫か?」
「大丈夫。気持ち的には落ち着いてる」
「そんな力強く杖を握りしめ締めてたら説得力ないわよ〜」
そう言われて俺は自分の手を見る。
その手には強く握られた杖があり、手を離してみると手の平は、緊張からかかなり汗ばんでいた。
「・・・緊張してるんだな」
「うっさい。さっさと始めよう」
俺の手を覗き込んできた父を一喝し、俺は2人より少し前に出る。
俺の言葉に父はおめおめと泣き、母はそんな父を慰めている。全く、仲の良いことだ。
そんな父さんたちを見いて、
「・・・ばっかみたい」
緊張している自分がバカらしく思えた。
そうだな。緊張してるなんて俺らしくもない。俺は俺らしく、自分の意思を!
「これから召喚に入ります!」
「あ、ああ...。呪文は?」
「いけます!」
杖を掲げた俺は目を瞑り、精神を集中させ、魔力を練り上げる。
「我と共に歩む盟友よ。我、ハク・ドラケイルの運命に従い、今ここに姿を現せ!召喚魔法!」
詠唱に従い体内で魔力のうねりが激しくなっていき、それに気負うことなく最後の一節を読み上げ、魔力を解放する。すると目の前に魔法陣が展開され、強い瘴気が魔法陣から放ち始める。
父はその異様な雰囲気に召喚をやめるように叫ぶが、俺はそれに従わず召喚を続けた。そんな俺に痺れを切らしたのか父は自ら止めに入ろうとするが、
『ほう...。この俺に呼びかけれる召喚者がまだいるとわな』
何処からか声が聞こえ、俺達は辺りを見渡すが何処にも姿がない。
何処から声がと思っていると、俺が展開した魔法陣から発せられた瘴気が強くなっていき、そこから大きな男が姿を現し始める。
その姿はまるで武道の達人のように灰色の道着を着こなし、背中には大きな槍を背負っている。ただ他と違うのは、男は大の大人が2、3人集まってもまだ足りないほど大きく、そして男は常に空中にふわふわと浮き続けていた。
『それで。俺を呼び出したのはどいつだ?』
俺達はその姿に言葉が出ず、母さんは驚きに腰を抜かし、父さんは震えながら母さんを守るように前に立つ。
しかし、俺は父さんや母さんと違い呼び出した男を観察していた。その顔はまるで信じられないものを見ているような表情だった。その理由は、
(どうして、こんな人を呼び出せたのだろう)
ということである。
自分が他の人と違うところは、転生者であるという一点だけである。
召喚魔法・《サモン・ゲート》は召喚者の実力にあった者を呼び出すことが出来る。そのため、今回の召喚では比較的レベルの低い者が召喚されると思っていた為、このような結果になるとは想定していなかったのである。
『女を庇っている男は...違うか。そこで腰を抜かしている女は論外。まさか小僧、貴様か?』
「え?あ、ああ、そうだ。すまんな。正直、あんたみたいなでかい奴がくると思ってなかったたんだ。ここ、狭くないか?」
『気にすることはない。ところで小僧。名は?』
「あ!そういえば名乗ってなかったな。俺はハク。ハク・ドラケイルだ」
『ハク...か。なるほど。お主...』
「?なんだ?」
『いや...。ただ貴様は他の者に比べ、魔力が多いと思ってな』
「そうなのか?・・・なるほど。だからあんたを呼び出せたのか...」
『・・・』
「?どうかした?」
「・・・いや、なんでもない。それでどうする?俺と契約するか?』
「う〜ん。できればそうしてくれると助かるんだが...。でも、契約には召喚したあんたに、俺の力を認めさせないといけないんだよな?」
『そうだな』
「なら、どうにかして認めてもらわないと...」
『・・・いいぜ』
「・・・へ?」
『俺を呼び出せるのは相当の魔力がいる。しかも、呼び出すことができても召喚者の体が持たず、ショック死を起こすんだが...』
「?」
『貴様のように平然としているのなら、試験のようなものはいらないだろう』
「ほんとか!?」
『ああ。ただし、貴様程魔力量だ。この俺を常にこの世界に呼び出しておくことが条件だ』
「それわ構わないけれど...どうして?」
『はあ...。通常、術師が俺達を呼び出し、存在を保つには当たり前だが術師の魔力が必要だ。故に存在し続ければ、やがて魔力が切れ俺達は消える。これが普通だ。だが、貴様の魔力は先程からほとんど減っていない。違うか?』
「そういえば、あんた程の奴を呼び出したのに...」
『普通ならばこの俺を存在し続けるだけでも苦痛の表情を浮かべるが、貴様は苦しくもなんともないのだろう?ならば、常にこちら側に存在していても問題ないだろうと思ってな。それに、貴様とつるんでみるのも面白そうだ』
「なるほどな」
『それと、貴様の魔力はもう殆ど回復している。通常通りに生活していても差し支えないだろう』
「そっか...。わかった。それじゃあ、契約を始めようか。確かあんたの魔力に共鳴させればいいんだよな?」
『ああそうだ。始めるぞ』
そう言われ、俺と男は互いに魔力をぶつけ合い、魔力が繋がるのを感じとる。
『さあ、うまく繋がったぜ。あとは』
「名前だろ?わかってる」
召喚者は召喚された者と魔力を繋げ、名前をつけることで契約が完了となる。
その為、召喚者の名付けはかなり重要となる。つける者によっては『〜たん』などと恥ずかしい名前となることもあるのだそうだ。彼は男であるからそんな恥ずかしい名前は絶対嫌だと思う。というか、それを呼ぶ俺が嫌だ!
俺は彼の名前をしっかりと考え、
『・・・リンくん♪』
突如女性の声が聞こえ、俺ははっとし辺りを見渡す。周りには先程まで腰を抜かしていた母さんが、父さんの肩を借りてどうにか立ち上がっていた。
『・・・どうした?』
「い、いや。なんでもない」
気のせいかと、俺は目の前の男に集中する。
・・・誰の声だったかわからないが、“リン”って名前は、この人にはピッタリな名前だ。
「よし!・・・汝、我が契約の元名を与える。汝の名は“凛”!」
俺が男に“凛”という名を与えると俺と凛の間に縦長の小さな板が出現する。俺はふわふわと浮いている板に近づき、掴む。その板を見ると、片面には「ハク」と俺の名前が書かれており、もう片面には「凛」と漢字で書かれてあった。
『やはり、貴様は...』
「?何か言ったか?」
『いや、なんでもない。さて、それでは中に入るとするか』
「ちょ、ちょっと待った!」
『なんだ。まだ何かあるのか』
「その姿は流石にやばい。見てみろ」
俺は父さん達を指差し、凛はそちらを見る。
そこには、未だに震えている父さんと落ち着いたのか普通に立ち上がり、逆に父さんを支えている母さんの姿があった。
「(・・・なんでさっきまで腰を抜かしていた母さんが父さんを支えてるんだ?)その姿だと、ああいう感じに怯えられる。だから、もう少し親しみやすくならないのか?」
『親しみやすく...か...。では!」
ポンッと凛周りから白い煙包み込む。そしてその煙が晴れると、ぬいぐるみのような小さな姿になった。
正直、かなり可愛い。しかし、その姿にその服装は変なので、服装をどうにかすればすぐにでも人気が出るのではないか?
「こんな姿なら、問題はないな」
しゃべった!?これは服装さえ変えればかなりいいのでは?
凛はゆっくり、ふわふわと俺に近づいてくるが、俺の手が届く前に横から別に手が伸び、そのまま凛を抱きしめる。
「きゃあああーっ!かわいいーっ!」
俺の横から手を伸ばした母さんはぎゅううっと凛を抱きしめ、頬をグリグリと押し付ける。そんな母に対抗するように凛は足や手をジタバタさせている。
「ええい!離せ!なんなのだ貴様は!?」
「私?私はあの子の母親よ〜」
「小僧の母君!」
俺はじゃれあっている2人から目をそらし先程まで母に支えてもらっていた父を探すと、先程まで2人がいた場所の近くの草むらに頭から突っ込んでいる父さんの姿があった。
小さな子どもとじゃれあっている母と草むらに頭から突っ込んで動かない父。俺は頭を抱えながらため息を吐いた。
その後、母さんが満足し、凛を解放するまで父さんは救出されなかった。
余談だが、執事やメイド達の間で、服を作ると燃えている母の姿と、目が死んでいるお坊っちゃま姿があったとか...。
*
「この辺りにいるはずだ!探せ!」
とある暗き森、その木々の間を派手な格好の兵士達が何かを探し回っていた。
「っち!もっと奥の方を探せ!」
その号令と共に周りにいた兵士達はさらに森の奥の方に進んでいった。
すると大きなローブを身にまとった人と小さなローブを身にまとった人が1つの草むらから出て来る。
そして、そのローブを身にまとった人は兵士達が行ったのを確認すると兵士達が走っていた方とは逆の方に走っていき、2人は森の中へ消えていった。