完全発動・|独自仕様魔法《ワンオフ・マジック》
俺達の目の前で、アーバメ子爵にナイフを突きつけられたアスカがいた。
「全員その場を動くなよ。動いたらこいつの首が飛ぶぞ!」
「わかった。わかったから」
アーバメ子爵はゆっくりと窓に向かって歩き始める。俺達はアスカを人質に取られているため、その場から動けずにいた。
「おいあんた、ここにいる豚はいいのか?」
「豚!」
「ふん!もうそんな男必要ない!この女さえいればな!」
「・・・おい、ロリコン。それはどういう意味だ」
俺はロリコンの方に振り向く。
「簡単なことだ!この女を使って、ヴェイランに亡命するんだ!」
「ヴェイランだと?!」
「女王様、ヴェイランって?」
「・・・ヴェイランとは、このエルドラス中にいる犯罪魔導師達の総称で、その犯罪魔導師が集まってできた集団を『ヴェイラン連盟』っていうの」
「つまり、そのヴェイラン連盟の中に幼女好きのロリコンがいるってことか?」
話の流れ的にはそうなのだが...。
「そんなわけあるか!この娘はいい金になるからな!」
「それはいったいどういう意味なの!」
「やはり、気づいていなかったか...。まあ、この異端者の顔はかなりうまく面から隠されていたからな」
「?!あなた、どうして...」
「だったら答えてやるよ!この女はなぁ...」
「ダメ...ダメェ!!」
「ファレード伯爵の1人娘、アスカ・ラ・ファレードだ!」
『!!!』
「あ、ああああぁぁぁぁ!」
アーバメ子爵がアスカの本名を暴露すると、全員が騒ぎ出し、アスカは人一倍大きな声を出して頭を抱えてた。
「アスカ!」
「おっと、動くなよ。俺も出来れば商品を傷つけたくないだ」
すると窓が砕け散り、そして空から大きな船が降りてきた。
「船?!」
「すごいわ!ヴェイランの技術はここまで進んでいるのね!」
『言ってる場合か!』
母さんがある言ったように、おそらくヴェイランの船なのだろう。
てか普通はあんなのが来たら普通気づくだろ!
「そういえば外壁警護を解いていたわね...」
「それだけはしちゃダメだろ!」
女王様が天然の発言に堪らず突っ込み入れる。
女王様も申し訳なさそうな顔を浮かべている。
そんなことを話していると、アーバメ子爵は船に乗り込んでいく。
船を乗り込んでいるアーバメに向かって突撃しようとしたが、それを気付かれさらにナイフを突きつけられたつけたため、動くことができなかった。
アーバメが船を乗り込んでいき、そのまま船は飛んで行った。
「女王様!あれに追いつく手段はないんですか!」
「残念ながら、今の私にあれに追いつく手段はないわ...」
「クッソ!」
俺は悪態を吐き、壁を殴りつける。
凛がいるなら空を飛んでもらうんだが、今回は休息を兼ねて後で来てもらうことになっている。
俺はあの船にどうやって追いつくか考えていると、
「べ、別にあんな異端者なんて助けなくていいじゃないですか!?」
「異端者なんだから仕方ないわよ!」
「・・・おい、今なんつった?」
俺は貴族の言葉に怒り、怒鳴るように叫んだ。
「ふざけんな!!」
俺の言葉にここにいる全員がビクッと体を揺らし、全員の視線が俺に集まる。
「あいつはな!あいつら親子は!ごく普通に暮らしてたんだよ...。家族とそして執事やメイドの楽しく暮らしてたんだよ...。だがなぁ、それをとあるバカがそれをめちゃくちゃにして、その上異端者扱いだ。そうだよなぁ、豚!」
「・・・」
「そのおかげでいつも、夜になったら怯えてんだよ!怖くて夜も眠れねぇんだよ!」
*
魔法の勉強で、深夜帯まで起きていることが多かった俺は、気分転換を兼ねて家の中をうろつくことがあった。
キッチンにやってくるといつも明かりがついていた。
キッチンの明かりがついていたため、俺は中を覗くとそこにはいつもアスカがいて、いつも蛇口をひねって
涙を流しているのを見ていた。
*
「テメェの私利私欲のせいで、あいつはいつも怯えて暮らしてんだよ!テメェらのその考えのせいで、いつも悲しい思いをしてんだよ!」
俺の言葉にこの場にいる全員が静かに見守っている。
「テメェらが貴族だぁ!伯爵だぁ!言ってる暇があるなら、人1人の人生を救って見せろ!」
俺はそういうと、窓の方に向かって歩き出した。
「・・・ハク?何をする気?」
「追いかける!」
「追いかけるって...、どうする気なの?!」
「空飛んで追いかければいいだろ!」
「だから、その方法が...」
「船が空を飛べるだ。人間が空を飛ぶ事ぐらいできるだろ」
「そ、それはどういう...」
俺は杖石に魔力を注ぎ込み杖を展開し、その場に跪き周囲に魔法陣を展開する。
俺は目を瞑り、あの時の感覚を思い出しながら魔力を込める。
*
前世で、俺は空の雲を見ながらいつも思っていた。
もし、空を自由に羽ばたけるならどれだけ楽しいのだろうと...。
そんなことができるのなら、どれだけ...。
*
ふと思い出したのは空を見上げながら鳥達に憧れながらも己の弱さと現実に打ちのめされた男のことを思い出した。
俺はそんなことを思い出しながら、俺は再び空の船を見上げた。
そうだ。魔法だもの。空を飛ぶ船なんてあって当たり前だ。
それならできるはずだ。空を飛ぶ船があるのだもの...空を飛ぶ魔法があってもおかしくないはずだ!
「・・・俺が思い描く空は、空を羽ばたく鳥達だった...。なら...」
「お、おい!少年!何をするつもり...」
俺に話しかける声を無視して、俺は鳥達を思い浮かべる。
空を羽ばたく鳥達の翼をイメージし、それを俺の背中に翼をイメージする。
そして強くイメージした翼に、俺はさらに魔力を込める。
すると、背中から大きな翼が生える。
周りにいた人達は俺に翼が生えたことに驚き、周りから離れる。
「・・・飛べ!」
俺は再び空にある船を見定め、翼を大きく羽ばたかせて空に向かって飛んでいった。
*
アーバメ子爵に明かされ、何もかも気力を失った私はアーバメ子爵にされるがまま連れ去られていた。
「この小娘があのファレード伯爵の娘さん何ですか?」
「ああそうだ。これでよかったたんだよな?」
「ええ!構いませんぜぇ、旦那〜」
周りの人は私を見ながらそんな会話していた。
「ところでこの娘、どうするんだ?」
「この娘は高値で売り飛ばすつもりだ。伯爵の娘だからな...マニアには高値で買ってくれそうだからな」
『ギャハハハハハ!!!』
ああ...私、売られちゃうんだ。そう思うとなんだかあっさりした気分だった。
当たり前だ。むしろこの1ヶ月がおかしかったんだ。
ドラケイル家の人達は、いい人ばかりだった。メイド仕事が不慣れな私に、アランさんを含め多くの人がサポートしてくれた。
アイゼンさんは生活で事欠かないようにしてくれた。
ユリアさんは私のお願いを聞いてくれたり仕事を手伝うことを許してくれて嬉しかった。
ハク君といる時は楽しかった。ハク君はいつも不器用でそれでいて優しかった。魔法の勉強では色々と言い合ったりしてる時や一生懸命考えて魔法が成功した時は楽しかったし、嬉しかった。
そんな日々はいつもキラキラして、そんな日々が続いていくとずっと思っててた...。
でも私は異端者だ。
『あの子きっと『自分のため』って』
幸せになれる権利なんて...
『貴方達のことを考えて』
・・・なんて...
『よろしくな』
「・・・いや...」
「?なんか言ったか?」
「いやぁぁぁ!!!」
「お、おい!?暴れんな!」
「この娘を押えろ!」
私が急に暴れ出して甲板にいる人達が私を押えつけるが、それでも私は抵抗する。
・・・帰りたい...。みんなと一緒にいたい。だから私は抵抗して足掻く。
だが、抵抗むなしく押さえ込まれてしまう。
「ったく!やっとおとなしくなったか」
「船長!大変だ!」
「なんだ!どうした!」
悔しい...。私は弱いから、だから強くなろうって頑張ったのに...。
・・・助けて...。
お父さん!お母さん!
ハク君!
「アスカ!!!」
私の名前を呼ぶ人物は突然空から降ってきて杖を振り下ろすと、急に魔法陣が浮かび上がり、それを砕いた。
すると、船が強く揺れて私の上に乗っていた人達が私の上からずれ落ちる。
「な、なんだ!」
「ま、まさか!魔法が解かれたのか!」
『な!何〜!!!』
杖を振り下ろした人物は白く大きな翼を広げゆっくりと降りてくる。
私はその姿に魅入られ、そしてその人を顔を見て気持ちが安らいでいった
私の側に降りて、そっと抱き上げる。彼の腕の中は温かくて、その温かさにすごく安心した。
「大丈夫か?もう安心だからな...」
「・・・うん...ハル君...」
ハル君は私を軽くギュっと抱き締める。
「さてテメェら、こいつを無理矢理誘拐した上に悲しませたんだ。覚悟は出来たんだろうな!!」
彼は杖を構えながら、そう言った。
*
俺はアスカを抱きしめながら杖を構える。
ヴェイランの連中も動揺しながらも武器や杖を構える中、唯一アーバメは腰を抜かし、立てなくなっていた。
それ以外の人は船を安定させるために魔法を発動していた。
「・・・お前さん1人か?」
「・・・まぁ、そうだ」
俺はその返事でヴェイランの全員は爆笑した。
「・・・貴族のお坊ちゃん。それはさすがに危険だぜぇ〜。こんなところに一人でぇ」
『ギャハハハハハ!!!』
「・・・こっちはイラついてるから速攻で終わらせるぞ」
「へ!だったやって見せろよ!」
ヴェイランの1人が俺に向かって攻撃を仕掛けるが、俺は後ろに跳ねる。
「白き水煙よ 」
ヴェイランは剣を振り下ろすが、俺は杖石を使って防ぎ受け流す。
「チ!外したか!」
「おいおい外すなよ!」
「ダッセェなぁ!」
「うるせぇ!テメェらも手伝え!」
「大気の風と一つとなりて 」
「!団長!そいつ何か呪文を使うつもりだ!」
『!?』
ヤバ、気づかれた。でもあと1節と魔法名だけだ。
かなりの大技だから、かなり集中しないと...。
「だったら、さっさと潰したマワねぇとな!」
団長と呼ばれた人は思いっきり剣を振り下ろす。
その勢いは強く、俺は杖でどうにか受け止めるが、その力は強く膝をついてしまう。
「ハク...君...」
「・・・天空渦巻く...嵐となれ!」
剣を吹き飛ばし、アスカをしっかりと抱き締め翼を広げ空に飛ぶ。
そして杖に大量の魔力送り、杖を振り下ろし船に向けて魔法を発動する。
「〈テンペスト・オブ・ミスト〉!」
かなり大きい魔法陣が展開され、そこから大量の霧が発生し、その霧は無数の竜巻のように荒れ狂いもうそれは嵐のように渦巻いていた。
『ギャアアアアア!!!』
船はすごい勢いで崩れていき、地面に向けて落下していく。
俺はそれを最後まで見て、途中で投げ出された人を感電魔法〈パラライズ・スモック〉を使い、感電させたあとアスカを一緒に地面に下ろしていく。それを投げ出された人に撃っていき、船が完全に崩れ残りの乗員が落下し出した頃には、すぐ下に地面があり落ちた人も軽い打撲程度で済んだ。
その後、どうにか動けるようになった人には先程と同じく〈パラライズ・スモック〉撃っていった。
その後すぐに王宮兵士がやって来た。
兵士達はこの惨状に驚くが、俺は兵士達に後始末を任せアスカを連れて王宮に向けて翼を羽ばたかせた。
*
王宮に向かって飛んでいる間、アスカは何も喋らなかった。しかしその手は、俺から消して離れることはなかった。
王宮に着くと安心したのか俺とアスカを母さんが泣きながら叩き締めた。それは少し苦しかったけど、でもとても温かかった。
俺は女王様にアスカのことを説明しようとすると、「わかっているから」と止められた。どうやら母さんが女王様に説明したらしい。
他の貴族達は準備されていた部屋に案内されており、アスカ達も女王様に連れられて部屋を出ていった。
俺もそれに続いて部屋を案内してもらおうとしたら、
「お待ちください!」
声をかけられる。
声のした方に向くと、そこには王女様がいて何やら険しい表情をしていた。
「どうしたんですか?王女様?」
「・・・どうして、あんな無茶までして彼女を助けたんですか...。それになぜこんなに怪我までして事件を解決させたのですか?」
右手を見てみると手の甲が切られてあり、血が流れていた。
「・・・アスカはまだ、心からちゃんと笑えてない気がするんだ。だから、その笑顔をあいつ自身が向けたいと思える人出会えるまで支えてやりたいって思ったんだ」
「そうだったんですか」
「それと、」
「へ?」
王女様は俺のもう一つの理由を聞いて、
「約束したから」
「!?」
「君のお父さんの願いを...。君との約束を」
「・・・はい...!」
涙を流した。
俺はそんな王女様をそっと、優しく抱きしめ、頭を撫でた。王女様も顔を俺に押し当てて涙を流した。
外からちょうど日が昇り始め、太陽の光が部屋を、そして俺達を包み込んだ。




