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◆カナン視点◆



 透明の少女達を見送り、ハイエースの中に戻った僕は、また魔鏡の前に座って状況の把握をしていた。


 作戦開始を告げてから、魔鏡に映る赤い点、ダンジョンのモンスターを少女達が難なく消していくのを眺めて、この分なら僕の出番はないなと思っていたら、黒妖犬への攻撃をしていた穂の香さんが固まっている。


「あかーん、トラブル」の声?


カピバラ8(穂の香)、どうしました?」


「ジャムった、給弾不良」


 マガジンからの給弾途中で、銃弾が詰まって撃てなくなったようだ。


「カバー」


 穂の香さんの声と一緒に低い、パパスパス!と、拳銃に持ち替えた穂の香さんの発砲音が聞こえる。

 魔鏡の情報では、さいわい、彼女への被害は無いが、包囲をすり抜けて黒妖犬が1匹走り去った。


「まずい、1匹逃げられた! カピバラ10(カナン)、聞こえる? ホブゴブリンに手間取ってるから、そっちに行った黒妖犬お願い、手負いだから気をつけてねー」


「……カピバラ6(月宮班長)、軽すぎです。もう少し頑張ってくださいよお」

ブッ


 無線を無視された。しょうがないので魔鏡の赤い点を確認すると、確かに1つ猛スピードで駆けてくる個体がある、後1分もすればこっちに来る。


「うわわわ、どうしよう、あ、そうだ、社長」


  社長は、現役超越者であり、元腕利きのコントラクター(武装警備員)だ。


「シャシャチョー、大変です、黒妖犬が1匹こっち来てます」


「んあ? 今忙しいからお前やっといて」


「えっ?」


「黒妖犬1匹ぐらいお前がやれ、駄目なら死ねばいいのに」


「え、えええ社長ー、非道いですよー」


 運転席を覗き込むと、社長が何かやってる。


「え、あれ? 運転席でじっとしてるなと思ったら、Ninte○doのS○i○chじゃないですか。何やってんですか?」


「どうだって良いだろ、さっさと車から出ろ、業務命令だ」


 ガラガラ ハイエースのドアを開いて、ビクビクと怯えながら下に降りる。


 僕も、6歳から超越者として戦うようになって9年が経つけど、いつも戦闘現場では臆病者すぎて、皆の足を引っ張るお荷物だったし、ある事件を起こして以来、周りから忌まれるようになっていた。

 MPの魔力量は、人並み以上にあるけど怖いものは怖い。後方支援の方が絶対に向いてるのになあ……


「うう、(・・)は、戦闘に向いてないんだよ」


 横目でゲームをやっている社長を見ながら、腰につけたホルスターから、ガバメントを引き抜く。


「落ち着け落ち着け、祝福」


 黒妖犬が向かってきてる路地へと歩を進めながら、銃に祝福をかける、


「よし、マズルコントロール(銃口方向確認)、装填」

シャキッ


「セイフティ・オフ」

チッ


 馬鹿正直に手順を唱和しながら、スライドを引きチャンバー内に装弾、サムセイフティを親指で下ろして顔を上げた時、突然の衝撃が僕を襲う。


ドンッ


 大型犬サイズの黒い影が、暗闇の中から猛スピードで体当たりしていた。

 鈍い音がして、気がつくと、僕は地面に倒れている。顔のすぐ上で人の顔……オッサンの顔をした黒妖犬が僕を睨みつけていた。


「ふわわあわわあwせdrftgyふじこ」


 僕が大声を上げると、黒妖犬が反応する。


ガブッ


 僕が咄嗟に両手で顔をかばうと、右腕に黒妖犬が齧り付き、そのまま暗い路地裏へ引きずり込まれていく。


「しゃ、シャチョー」


 僕の悲鳴は、黒妖犬に引っ張られてあちこちにブツケながら消える。

 以前、他所の部隊がダンジョン現実化を許した現場で、家族連れの無残な死体を見たことがある。親子は、無数の触手に締め上げられた跡を残し、体を引き裂かれて貪り喰われていた、あんな風にはなりたくない。


……嫌だっ……


 恐怖が頭の中を占めた時、時間の流れが急激に遅くなり、周りの景色がゆっくり進む。糖蜜の時間の流れの中、(ボク)の中にあまり聞きたくない声が聞こえた。



◆◇◆


……おい……


……え? あれ?……


 さっきまでの、黒妖犬に振り回されて空中で止まった姿で自分を眺めている。まるで時間の流れが止まっているようにも見えるが、少しずつは動いてるようだ。


……おい、相変わらずトロい奴だな……


……え?…… あ、声が聴こえる。気のせいじゃなかったのか? この声はもしかして?……


……どんな強力な魔道具でも、使う奴がカスだとクソの役にも立たねえな。どうやら(オレ)の出番だ……


……あ、あ、あ、あ、あ、まただ、また奴が起きたのか……


……おいおい、そんな言い方はないだろ、(オレ)は、(ボク)を助けてやろうって言ってるんだぜ、それにもう時間は無い、さっさと代われ……


……ああああ、くそっ……


……くははははははは、寝てろよ(ボク)、ここからは(オレ)がやってやる……


 止まりかけていた時間の流れが元に戻る。暴力衝動が湧き上がる。凄まじい怒りと暴れようとする気持ちが抑えきれない。俺の持つ暴力衝動とモンスターと直接接触している精神汚染の相乗効果で、暴力性が加速する。

 黒妖犬に引き摺られている(オレ)は、おもむろに右腕に食いついている黒妖犬の顎を起点にして、体制を変えた。


「よっとっ」


 黒妖犬の胴体と後ろ足にしがみ付き、走ってる勢いのまま転倒させた。


「いい子だいい子だ、このままじっとしてろよ、今良い事してやるから」


 転んだ衝撃を無視して、ギャンギャン吠える黒妖犬の顎を掴んで押さえ込み、吠えることも動くことも封じる。超越者の加護、肉体強化による怪力が発揮されている。

 黒妖犬は、激しく暴れようとするが、(オレ)の加護の力には、抗うことができなかった。


「バラバラにしてやろうか……っと、やっぱ辞めた。汚ねえのはゴメンだな」


 湧き上がる暴力衝動に従って、このまま怪力で引き裂いてやりたいが、汚物を頭から被って汚されるのはゴメンだ。スマートにやろう。


シャッ

「祝福!」


 左手でタクティカルベストからナイフを引き抜き、ナイフに加護の祝福をかける。


「ふふん、おとなしくしてろよーおとなしく。良いモノ入れてやるぜ」


 祝福を受け軽く光ったナイフをそのまま黒妖犬の首に入れると、硬い骨の継ぎ目に当たる。

ギュチッ

 そのまま押し込み椎間板を外すと、黒妖犬の息の根が止まった。

 脊椎を引き裂かれた黒妖犬の身体は、何度か痙攣をした後、すぐに白い塊に変わるとボロッと崩れて塩の柱が残る。



「はぁ、相変わらず、しょっぺえ登場だ」


 右腕をパッパと払う。

 黒妖犬に食らいつかれていた右腕には、全く傷も付いていない、制服も破れていない。加護の聖服が発揮する防御力のおかげだ。


「ふんっ」


 塩の柱を蹴り飛ばし、光る石を見つけて自分の胸に押し当てると、光る石は消え、消費したMPを回復してくれる。

 近くに落ちていたガバメントを拾う。


「ふん、危ねえな、よく暴発しなかったもんだ」


 サムセイフティを押し上げ、安全装置をかけた。


「あー、暴れ足りねえ、エリカの奴んとこ行くか……」


ジャッ


 路地裏から風が巻き上がり、疾風のように駆け抜けていく。


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