暗い夜道
少し続いた。
───時は過ぎ、少女は夜道を一人で歩いていた。
「あームカつく!!」
そう言って、少女は地団駄を踏む。周りに人が居たら、奇異な目で見られるであろう行いを少女は行ってみせた。無論、周囲に人の気配はない。
少女が苛立っている原因はバーであった男である。
「何が『帰りな、お嬢さん』よ!あんな傭兵こっちから願い下げだわ!」
先程、バーに居た時とは違い、口調も仕草も歳相応になっている。それほどまでに、あの男に苛立っているのだろう。
───曰く、ジャックは凄腕の傭兵で、受けた依頼は全てこなしているという。
───曰く、ジャックは『魔弾の射手』と呼ばれる程、銃の扱いに長けているという。
───曰く、ジャックに依頼を出した人物は、近いうちに亡くなっているらしい。
最後の噂は確証が取れなかったため、気にすることもなく、(というか忘れていた)依頼を出したら一蹴されてしまったのだ。その上、『この辺の夜は物騒だ、送って行こうか?』などと舐めた態度で話しかけてきたのだ。プライドが高い彼女からすれば、彼の対応はよほど頭にきたのだろう。その後のジョウの『何かいるかい?』という声に、『結構です!』という声で返して、店を飛び出してしまったのだ。
「ああもう!とにかくムカつく!!」
そんな調子で、迎えが来る場所まで向かおうとしたところで、
「ゲへへへ、ここいらの夜は物騒でいけない。よろしけばお送りしますよ、お嬢様」
「デュフフ、美少女キタコレ!!」
本当に下卑た笑い声を出しながら、正面から二人組の男が近づいてきた。
「結構です」
きっぱりと断ると、少女はその横を通り過ぎようとする。しかし、
「まぁまぁ、そんなこと言わずに。ちょっと寄り道していこうよ」
「凄く肌綺麗だねぇ。オイラ、キミのこと好きになっちゃった」
そう言って、少女の前に立ち塞がる。それに対して、少女は毅然とした態度をもって、
「私に気安く触るな」
そう返したのだ。
この態度に、男達は少し怯むも彼らの矮小な自尊心に罅をいれるには充分だった。
「本当は紳士的にいこうと思ったんだが、気にいらねぇな、お前。今すぐここでヤっちまうか」
「オ、オイラもう我慢できない!!」
肥え太った男は目の前獲物に掴みかかる。
それ対して、少女は股間に足を振り上げていた。つまり金的というやつである。少女の蹴りは、少女の見た目に反してかなりの威力があり、男は呻き声を上げながら失神した。
少女は得意そうな顔をする。
「テメェ…調子に乗りやがって!」
もう一人のヒョロい男は、懐から銃を取り出した。さすがの少女も、これには顔を青くする。
「へへへ、死にたくなかったら大人しくしてな。大丈夫、やることやったらとんずらすっから」
そう言って、男は銃を構えたままにじり寄ってくる。少女は恐怖を感じ、目を瞑ってしまう。
その時─
「だから言ったろ?この辺の夜は危ないって」
一人の男が二人の間に割って入る。
「テメェ何モンだ!」
ヒョロい男は慌てて急に現れた人物に銃口を向ける。ヒョロい男からすると、目の前の男の顔は影になっており、顔を確認できない。だが少女からすれば、その声は聞き覚えのある声だった。
「ジャック!?」
「ああ、ご無事ですかなお嬢さん?」
そんな中、そのやりとりを見ていた男は声を荒げて、
「カッコつけてんじゃねぇぞ!!」
引金に指をかけ───
「おっと、まぁ待ちな旦那。赤ずきんって知ってるか?」
「はぁ?何を訳分からんことを…」
「まぁ赤ずきんってのは最後、悪いオオカミに襲われちまうんだが…」
銃を構えていた男は、痺れを切らして引金に指をかけようとする。そして───
ズドン、っと銃声が鳴り響く。
「悪いオオカミは、猟師に撃たれちまうのさ」
銃口に煙を燻らせ、ジャックと呼ばれた男は、そう呟いた。倒れたのは、悪い男であった
傍から見ていた少女は驚いた。ジャックが銃を抜いた瞬間が見えなかったのだ。また、早いだけでなく、倒れた男の傷を見ると頭部に一発。まさに正確無比。電光石火の早撃ちだった。
「おーい、お嬢さん?」
いつの間にか、銃をしまっていたジャックが目の前にいた。
「貴方…何者?」
つい、そんな疑問を投げかけてしまっていた。
「オレかい?オレは…さすらいの用心棒さ!」
そんな風におどけて言うジャックに呆れながら。
「ありがとう。お陰で助かったわ」
そうお礼の言葉を言った。それと同時に、もう一つ疑問が浮かんでくる。何故ジャックはここにいるのだろう?
「ねぇ、何故ここに来たの?」
その質問にジャックは、
「依頼の内容くらいは聞こうと思ってな…」
少しバツが悪そうにと答えた。
たぶん、続かない。