第2話 精霊
「ご主人さまですか?」
女の子の声がした。
「え、う、あ、は?」
驚いた。
声をかけられた先を見ると、小さな女の子が宙に浮いていた。羽根を付けた緑色の髪をした幼女である。黄緑色の光の服を纏ってふわふわと浮いている。
「ま、まさか、リムか?」
「うん、そうですよ。リムです!!」
リムとはゲームの中で出てくるオレのオトモ精霊である。
リムは嬉しかったらしく、宙を飛び回っている。
ゲーム内での装備がここにあるのならばと思ってはいたが、本当に存在するとなると存外驚くものだ。
「ご、ご主人さまもこちらに来ていらしたのですか、私、安心した!」
「本当だ、俺もお前がいてよかったよ」
「あっ!」
「どうしたんだ?リム?」
リムが慌てふためいてる。その様子もかわいい。
「そうだ、ご主人さま。メニュー画面って開けますか?」
「メニュー画面?」
「あ、はい。メニュー画面を思い浮かべてみてください。」
「ああ、やってみる」
メニュー画面を思い浮かべる。
そうすると、手元にメニュー画面が浮かび上がる。
「できましたね!」
メニュー画面には、ゲームでは大きなオプションが7つあったのだが、今は6つしかない。
そう、ゲーム終了のアイコンが消えている。これは戻れないという事だろうか。
それより、何故リムがメニュー画面の開き方を知っていたのだろうか。
リムが何か知っていそうなので聞いてみる。
「何でメニュー画面について知っていたんだ?」
「もともと私に与えられていた知識です。ご主人さまと意思疎通ができるのも、様々な知識を与えられたからなのです。」
「そうか」
それは、ゲーム内では機械的な会話しかできなかった事を指示しているのだろう。
「リム、ここは何処だ?」
「分かりません、マップをお使いになられてみては?」
「それも思い浮かべればいいのか?」
「はい」
マップと念じる。これもまた、視界にマップが現れる。最大10キロまで周りの地図を見る事ができる。便利だ。しかし、10キロ圏内に
森しかないので現状では役立たずだ。
そんな時だった。
____キィーギィーキキキィイイイ
叫び声。人ではない。まるで猿のようだった。
こちらに何か向かってくる気配がした。
数は8体、先頭に群れのボスがいる。
8体の小さな恐竜の様なモンスターが現れた。
ティドランだ。hunterZeでは雑魚モンスターだ。しかし、それはゲームの話である。こちらに向かってくるティドランの姿はとても恐ろしく見えた。
先頭にはティドランの頭領である、ドンティドラン。
オレは反射的に手元のボウガンを打った。
この森を彷徨っている間、暇つぶしにボウガンに弾を込めていた事が幸いだった。
銃弾は散弾。
それは幸運だった。
複数の玉がティドランの群れを襲う。
ティドラン達は一撃で死ぬ。もちろんドンティドランも。
hunterZeの武器の攻撃力設定は滅茶苦茶である。ゲーム内最強の武器ではラスボスさえも一撃で倒す事ができる。
もちろんそれは途轍もなくつまらないので直ぐに使わなくなった。
ティドラン達の死体を確認して冷静になる。
「流石です、ご主人さま」
「はあ、はあはあ」
怖かった。40キロ位の速度で襲ってきたのだ、ここはゲームではなく現実なのである。慣れなきゃいけないな。
「剥ぎ取らないのですか?」
「ティドランの素材は沢山あるしな〜、まあゲームではない剥ぎ取りもやってみるか。」
腰にぶら下げた刃渡10センチほどのナイフでティドランの肉を剥ぐ。
むむむ、以外と難しいぞ。だが、何かの補正があってなのか知らないが、俺でも素材を剥ぐことができた。
ただ一つ問題点があった、グロい。
さっき、オレを嘲笑っていった奴らは確か複数人で行動していたな。
異世界では、ゲームとは違ってパーティーを組めたりできるのだろうか。
もしそうならば、剥ぎ取り担当を雇おうではないか。
やはり、ここは夢ではないと感じた。正直、さっきまで目が覚めたら辛い1日の始まりだと思っていた。
しかし、ここまでリアルな夢は見た事ない。
現実世界に戻れるかは不明だが、戻れるとしたら現実世界に戻るだろうか。
オレは現実世界に思い残す事は何もない。しかし、この異世界とやらが過酷な世界かもしれない。そう考えれば、元の世界に戻る方法くらいは知っておくべきだろうか。
当分の目標は元の世界に戻る方法を探る事にしよう。