8話
あうう、更新遅れてすみません。
あの日、男は長い廊下を急ぎ足で歩く。
そして長い廊下をようやく終えればそこには大きな扉が立ち広がる。男は何かを唱えれば扉の中へと入っていく。扉の先には下へ降りる階段となりここからは奥まで見えない。男の足はスピードを緩めずにそのまま階段を下っていけばもう一度目の前に扉が現れる。
扉には様々な色と装飾が施されそのなかでも五色の色が目立つ。男はその一色へと迷いなく手をかざせばそれに呼応したように扉はゆっくりと開かれた。
中へと入れば男は部屋の中央へと向かう。そこにはへその位置まである白い台座と五色の玉が置かれていた。
男はその一つのを見ると顔をしかめる。
「まさかこんなことが」
そう呟くと同時に四色の輝く光が男の目の前へと現れた。
『いない』
『いないのではない』
『まさか彼がこんなことするなんて』
『……結界が』
四色の光がそれぞれに男へと告げれば目を伏せていた男は部屋の周りを眺める。そこには中央にを軸に五角形、否五芒星が描かれている。それぞれの点には五色の色が置かれ目の前の色とは違いこの場にない色だけが他の色より輝きを薄れていた。
それを眺めたあと男は重苦しくゆっくりと口が開く。
「無が動く」
◇
あの日セルシアが目覚めれば泣き崩れていた両親から弟のリードもろとも家族四人の抱擁をその場にいた侍従達は涙ぐみながら眺めていた。
すぐさまセルシアの容態を見てもらえば医師は驚愕した。つい先程までセルシアを纏っていた死期が今ではどこにもないと。
驚愕している両親と医師とは違い、幼いリードは嬉しそうにセルシアに抱きついた。
それから暫く時が過ぎていく。
「おはようございますセルシアお嬢様。おかげんはいかがでございますか」
「おはようカーナ。落ち着いてるわ」
侍女のカーナは目尻を下げ口元は弧を描けばカーテンをゆっくりと開ける。朝の日差しが部屋へと入り込めば薄暗い部屋は一転して明るい空間へと変わる。それと同時に庭園に美しく咲き誇る花の香りが風に乗り部屋へと入りセルシアの鼻を擽る。セルシアはゆっくりと目を細めベットからゆっくりと半身を起こす。
カーナは優しく毛布を下げれば服をセルシアへと着せる。
淡いクリーム色にレースを施し動けばふわりと広がるドレスはセルシアによく似合っており柔らかいプラチナブロンドの髪に櫛を通せば艷やかさが増す。そこに赤色のリボンで結えばそこには誰もが目を見張る愛らしい可憐な令嬢が目の前にいた。
「さあお嬢様、皆様がお待ちです」
セルシアが頷けば丁度良いタイミングで扉が開かれた。
そして第一声に聞こえたのは……
「セルシア、お誕生日おめでとう」
父であるグサノスの嬉しそうな声だった。横には母のシーナとリードもいる。
そう、今日はセルシア五歳の誕生日だ。あの日から数週間経ちついにこの日を迎える。立てないほど弱りきっていた身体は完全な完治ではないが今は人の手を借りて歩く。病気で痩せ細った身体だったがゆっくりと肉が付き以前のような姿を取り戻していく。血色の悪い荒れた肌と病気により傷めた髪は侍女達の力の賜物により吸い付くように柔らかでとろけそうなほどの白い肌をしている。
セルシアの元気を取り戻していく姿に誰もが喜び、同時に静まりかえっていた屋敷は彼女の回復と共にまた色を取り戻していくのだった。
「さて、もうじきセルシア宛にお客様が来る頃だ」
朝食を終え、普段ならそれぞれ別のことへ取りかかるのだが今日は皆が居間へと集まる。紅茶を一口含んだグサノスが嬉しそうに会話する。セルシアはソファに腰掛け隣に座るリードと一緒に首を傾げた。グサノスの隣にいるシーナは子供達の揃った様子に嬉しそうに微笑めばどのような人が来るかは秘密よと話す。
「せーしあおねえさま」
美しい青空色の瞳は向かい合うセルシアを映せば覗きこむように顔を近付けた。そのままリードはセルシアの耳元でまどのところにシュルがいると小声で教えればセルシアは不自然にならないように自然の動作でゆっくりと窓際へと目を向ける。そしてそのままリードの耳元へ寄せたら精霊様は私達に内緒で来てるみたいだから姿を見えるのは貴方だけみたい、と優しく微笑めば賢いリードはそっかあとだけ呟いたのが聞こえると同時にドアのノック音がする。お父様は立ち上がり部屋を出ていけばどうやら来客者が来たようだ。
リードと一緒にわくわくしながら先程お父様が出ていった扉を見ていたら不思議と扉の向かい側から向かってくる存在に鼓動が早くなる。隣のリードを見れば彼も何かを感じとったのか扉と窓を交互に見ては落ち着きがない。二人の様子に気がついたシーナは大丈夫ですよと二人を落ち着かせようと声をかけるが果たして二人に声が聞こえているのか結局ノック音により動きが止まったのだった……のだが扉が開かれる前に衝撃が来る。
『こんにちはお嬢さん』
「あ、こんにちは」
セルシアの視界に広がるのは黄色の光だった。
何故なら黄色の光がセルシアを覗きこむように真ん前に急に現れたものだからセルシアは驚いた。
「こらロクシェ!勝手に部屋に入るんじゃない!」
「貴方の入り方もどうなのだか」
扉がバンと音が勢いおく開かれると同時に大きな声で叫ばれるものだからセルシアとリードの肩が驚きびくりと震えたものだから男の隣に居たグサノスが注意をかけながら部屋へと入ってきた。二人を他所にシーナに久しぶりだなと話せば相変わらずですねと言われ、漸く二人の方へと振り向いた。
「先程はすまないな驚かせるつもりはなかったのだが。はじめまして私はカーミリアン・フィヨルド。そしてお嬢さんの目の前にいるのが……『ロクシェだ』
カーミリアンという男はグサノスと同じ騎士の服を身に付けているが彼よりも装飾品が多いことにより立場が上の存在だと示しているが彼とグサノスの纏う雰囲気は親しく感じるしセルシア達への話し方も気さくだ。そして彼の前へと現れた黄色の光はくるりと回って黄色を纏った精霊がセルシアを見つめた。
「はじめましてセルシア・クランブルクと申します」
「はじめましてリード・クランブルクです」
「セルシア嬢とリード君だね。今日はセルシア嬢に用があって来たんだ。君も後に受けることだからしっかり見ておきなさい」
セルシアとリードを確認するように彼の髪色と同じ金色の人を射ぬくような強い瞳に二人は同時に頷いた。カーミリアンの瞳はセルシアへと映し変えると、そうそうこれを渡そうと思ってねといってセルシアの目の前に小さな箱を差し出した。
「まずは五歳の誕生日おめでとうセルシア嬢っとね。こんなにも可愛らしいとは誰にも教えたくない気持ちも分からぬわけでもないな」
「綺麗……ありがとうございますカーミリアン様」
どうやらカーミリアンという男は一言多い男のようだ。現にお父様とお母様が聞かれなかったから答えてないだけだ、まあそうだったのですねふふふと会話しているあたりそうみたい。それは置いといて包装されたリボンをほどき中から現れたのは小さな水晶のような透き通った円い宝石が美しく施されているベルだった。ベルを手に持ち動かせば優しい鈴の音が余韻を残して消えていく。その時僅かにベルに施された水晶に色付いたのをセルシアは気がつかない。
彼の精霊様がさっさと説明しろとの表情でカーミリアンを見ているので彼はソファーに腰掛け目の前にいるセルシアへと向かい合いセルシア嬢は精霊様は知ってるよねと質問すれば彼の横にいる黄色の精霊様を見つめながらはいと答えた。
「生まれた時に色を見ただろう。精霊が人に加護を与えるのはリード君と私など限られた人ではない。精霊は少なからず人に色を与えるのだ。色は時に己を守る盾となり剣へと変わるように」
金色の瞳で強く見つめるカーミリアンにセルシアはゆっくりと頷けば彼は立ち上がり窓際へと寄ればロクシェも後を追う。リードがあっ、と声を漏らせば次には己の肩辺りを眺めたのでもしかしたらリードの精霊様が移動してきたのかもしれないと思いながらカーミリアンに名を呼ばれセルシアはゆっくりと席を立つ。
そこで私達を見守っていたお父様がまだ充分に歩くことの出来ない私のために抱き上げ窓際へと移動すればそれを見ていた彼はすまないと目を伏せたのは一瞬ですぐにロクシェ様へと向き右手をロクシェ様へ左手を私へと向けられた。
『人の子よ。そなたの色を我と加護の者に教えよ』
その言葉と同時に彼と同じ色が光を纏い私の回りを覆った。その光は私の身体を隅々まで探るような感覚で動くのを部屋に居る皆が見守る。やがて光がおさまれば彼とロクシェ様の元へ球体となり現れ二人がそれに触れようとした球体は一瞬にして霧のように噴散した。皆が驚くなか触れようとした二人は互いを見つめたのは一瞬だがすぐに冷静を取り戻す。
「どうやら精霊の色が弱いようだ」
『ならば共鳴する』
ロクシェの色が彼を包み込むように先程より強く輝きはじめる。
これは何、心の奥から蠢くこの強い気を。ロクシェが色を纏いながらセルシアに触れようと手を伸ばす。それに呼応しおうとセルシアの中に潜むそれは彼女の中から出ようともがく。それに反しセルシアは強烈な苦痛に顔を歪ませた。グサノスに抱えられていなければ今頃セルシアは倒れている。
「……は、あ……」
セルシアの苦し紛れに漏れた声にグサノスはもうやめろと言おうとした刹那、ロクシェが悲鳴をあげた。
「どうしたロクシェ!」
後ろに飛び退いたロクシェはカーミリアンの声に我に返ると自信の纏っていた強い光が解けていたことに気づけば慌ててセルシアへと詰め寄る。
『……気を失ってる』
このあと起こった出来事を知らぬまま彼女はグサノスに抱かれ眠っていた。
ヒーローまだ出ない……。




