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6話

更新遅れてすみません。

セルシアのお父さん視点です。

 彼女の誕生日まであと数週間……。


 目の前で運命の残酷さをまざまざと見せつけられるとは思いもしなかった。


 太陽は暗く差し掛かってきたころにクランブル一家はとある一室に集まっていた。長椅子に腰掛けているのはセルシアの母であるシーナと横には父であるグサノスが座る。二人の向こうには医師が居るのだがこの部屋の纏う重圧の中、苦し紛れに目の前に座る伯爵夫婦にどうきりだせばいいのか。そしてやっと、やっと己の心の中で決心したように彼の口が動くのだった。


「旦那様、奥様。お二人に席をはずして頂いたのは我々医師の答えを聞いていただくためでございます」

「……良い申せ」

「セルシア様は今眠っておられますが、私共の出来ることは先程の処置で最後になります。不甲斐ない私で誠に申し訳ありませんでした」


 深く深く頭を下げる医師はセルシアが生まれてからずっとクランブル家に勤めてくれた信頼の厚い医師の言葉に、妻は手で顔を覆い身体が強張る。妻だけでなく目の前の医師までも窶れ、大柄な彼の姿が小さく見えた。そして当然の様に私も医師の言葉に心を強く引き裂くような激しい苦痛に、クランブル家の主としての顔を投げ捨てたこの表情を垣間見れたのは恐らく居ないだろう。


「ごめんなさい、ごめんなさいセルシア……。私が貴女を、」


 隣で嘆く妻の肩を抱き私の方へ寄せればとうとう彼女の貴婦人としての仮面が剥がれ落ち私へと弱々しく掴まり声にならない叫びは涙と共に増ていった。

 セルシアは私と最愛の妻からようやくもうけることが出来た初めての子供だった。妻は今とは違い身体が弱く医師からは妊娠は止めた方がいいと言われるが彼女は拒みそして産まれたのがセルシアだった。出産を終えた妻は心なしか以前よりも顔色が良かったのだが、肝心の我が子を抱こうと赤子を抱き抱える乳母の腕の中を覗けば私は息を飲むのだった。弱々しい、今にも命の灯火が消えそうな我が子をまざまざと見せつけられたように感じた。そしてそのあと行った儀式もまたしても己の心を苦しめたものだった。どん底だった私のその思いを救うように開かれた美しい蒼翠の瞳を見た瞬間に私は悲しみよりも愛する心が強くなったのだ。例え命を灯す灯火が弱くてもわたしは愛する子と一緒に居たいと願った。例え五、六年しか生きられぬこの子だとしても私は精一杯の愛情をこの子に捧げようと。そう、覚悟していたのに……。



「シーナ……早くセルシアの所へ行こう。あの子は隠しているが凄い寂しがりやだ、私達が一緒に居てあげなくては駄目だ」


 そして私達はセルシアの居る部屋へと移動すれば窶れた侍女のカーナが頭を下げるのを私は手で制止させる。先程までずっと居た部屋の筈なのに私は苦虫を噛み潰したような表情になる。ほんの数ヶ月前までセルシアの部屋はほのかに薫る花の匂いがしたのに今は沢山の薬の匂いが混じったこの部屋は娘が知ればどんな表情をするだろう。

 べットで眠るセルシアに近付き妻はセルシアの小さな、弱々しい細ばった手をにぎる。私は優しく彼女の頭を撫でればほんの僅かだが命の生命を感じとれた。

 この一ヶ月で生気が薄れていく娘の姿を目の当たりにしてきた私は心の中で蠢くモノが今にも外へ出ようと暴れる。

 あの時覚悟したはずなのに今ではその灯火を消えないでくれ。そして永遠に私達の元で照らしてくれと願うのは私の我が儘なのだろうか。



 静寂した部屋には妻のすすり泣く声が酷く耳に入るがそれを止める者は誰もこの部屋には居ない。

 いったいどれだけ時間が経ったのだろうか。確か医師との会話の時は太陽が落ち薄暗い外が今では真っ暗になっている。幼いリードに死に際を見せるのは過酷だと判断した私と妻だが息子はごねて最近はずっと隣の部屋で寝ており恐らく今頃寝ている時間だろう。


 私はそっとセルシアの青白くなった頬に触れれば僅かだが体温を感じとれ安堵する。少し前までは子供特有の張りのある柔な頬は今ではぼろぼろになり桃色の健康的な愛らしい唇はカサカサで紫色に変色してしまった。その他にも変わり果てた我が子の姿を眺めるのがあまりにも心痛で私はみるに耐えれない。見続ければ今にも涙が溢れでそうな勢いだからだ。


 今のクランブル家の屋敷は暗く重苦しい気を纏っているだろう。妻と私だけでなく屋敷の者達全てがセルシアを愛している。我が子はこんなにも愛されているのにこの仕打ちはあまりにも耐えられなかった。せめて、せめて精霊様と契約できれば……。

 赤子の時は駄目だったが五歳の時にはと誰もが願った。だが五歳を迎える前に今まさに目の前の命の灯火が消えるのを我々は黙って見守ることしか出来ないなんてあまりにも酷い。


 少しずつ弱りはてる自身を知人が見ればどんな反応をするだろう。騎士になり剣一本と己の技量で今の地位まで上ってきた私が。自傷気味な考えにフッと呆れれば突然妻の肩が動いた。


「セルシア……!ああセルシア……」


 僅かに動いた瞼は妻の声に反応するように瞼により隠れていた瞳がゆっくりと現れた。



 私はその時身体に強い衝撃が走った。変わり果て前の面影を亡くしていたとばかり思った我が子の姿が変わらないそれを私に向けた時を。


「……ぉ……は、よぅ……」


 私と妻のどちらにも似てない蒼翠の瞳は今も昔も変わらずに美しい輝きを放ち私達の姿を捉えるのだった。


刹那、私は身体が反射的に動き出した。


 とっさに妻が私の名を呼ぶこえが聞こえたが動き出した足は止まらなかった。

 部屋を出てすぐに隣の部屋へと入れば目的の者がいて驚いた表情をしたが構わずに抱き上げ直ぐ様セルシアの部屋へと戻った。

 シーナは私の行動に驚愕していたが私はそっとリードをセルシアの寝るベットへと座らせた。


「リード、無理は十分承知だ。精霊様を呼んでくれ」


 私の言葉に誰もが耳を疑っただろう。私自身もその理由は分かっている。精霊様と仮契約をしてはいるが、まだ一歳……二歳にも満たない幼子が精霊様を呼ぶという行為がどうなるのか。


「旦那様、そんは「もう、とっくにやってます」


 シーナの言葉を被せ発したリードの言葉に部屋は静まりかえる。


「おとうさまとおかあさまがいしさんによばれてから、ずっとよびかけております。でも、だれも……。そしたらシュルがきて、それがせーしあねえさまのごうだって。だから……だから……」


 泣き出すリードに私と妻、そして騒ぎに駆けつけた侍女達と側近、誰もがどん底に落とされたような気持ちになった。

 

それがセーシアの業……。それが精霊様のくだされた応えだというのか。

 涙を流すリードの頬をそっと触れた存在に誰もが目を見張った。


「せーしあ、おねえさま」


 美しい蒼翠はリードへと向けられていた。その瞳に移る色は愛、自身の最愛の弟へと向けられたそれはリードの涙を止めるには凄まじい効力だった。そして今は紫色に変色した唇は優しく弧を描く。


「なか……ないで。ぁなたのわるいの、ぜーんぶわたし……の……もの、よ。……だから、ないちゃ……だめ」


 そしてゆっくりとセルシアは私と妻へと視線を向ける。


「おは、よう……おとさま、おかぁさ……ま」



 おはよう。



 セルシアの言葉に私と妻はハッとした。だから反射的に応えたのだ。


「ああ、おはようセルシア」

「ええ、おはようセルシア」


 今の時刻を考えればもう夜であるのはセルシアだって理解していた。しかし私達はその意図を反射的にセルシアにそう応えれば、彼女は嬉しそうに目を細める。その光景にとうとう私の中でぼろぼろになったそれは涙となりこぼれ落ち床に染みを作る。



 それがまるで最後の言葉に聞こえたのは私だけではないはずだ。妻はセルシアの手を握り泣き崩れ、リードは涙を流しながら執拗に首を横に振る。そして私は……。



「セルシア……」


 瞼を閉じかけようとしたセルシアは私の言葉に応えるように最後の力を振り絞り懸命に瞼を開く。


「……ずっと、ずっと愛している」


 私の言葉の返事として伏せられた目尻から一粒の涙が流れた。











まだまだ続きます。

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