5話
視点が違います。
ブクマありがとうございます!
初めてあれを目にしたとき、誰もが思った。
ああ、なんてか弱きものなのだろうと。
クレイアン王国は遥か昔から人と精霊が共存する。精霊は母となる存在の元産まれ、人間界と精霊界を好きなように行き来することができる。
元々は別々の存在が何故干渉することになったかはこの国が今とは違い緑は枯れ荒れはてていた時だった。クレイアン王国の幼き王が避けることの出来ぬ戦に苦しみ悲しんでいるところを一人の精霊が声を掛けたのだ。
人の王となる者よ、何故泣く。
その言葉と共に全てが始まった。精霊が加護した王は戦を止め、様々な綻びを正し国のために全てを望んだ。その姿からいつしか賢王と崇められた。精霊が人へ加護を与えたことを知った他の精霊達は次第に無関心だった人へ興味を持ちはじめだした。それと同時に緑が戻り今の国の姿へと変化した。
精霊は多大な力を持ち、人の性質を見抜く力がある。そして自身の気に入った存在を見つければ多大な加護を与える。
人は加護を求め、では精霊は何を人に求めるのか。
とある暖かな日に我々を求める願いが精霊の母なる存在へと届く。母はついこの間誕生したばかりの精霊達を呼べば次に私を呼ぶのだった。
さきほど人の世界から産まれの知らせが届きました。この子達を連れてその元へいきなさい。
私は了承すれば若い精霊達と、興味を示した精霊がちらほら付いてこればそれを率いて人間界の元へと向かうのだった。
とある屋敷へと足を向ければ日の光を一番差し込んでいる部屋があったのでそちらへと向かった。そこにはやはり目的のものと家主であろう男を先頭に祈りを口にした。
「どうか精霊様。クランブル家の第一子である我が子を御覧下さいませ」
その言葉と共に私と他の精霊達が己の色を灯せば若い精霊は始めてみる産まれたばかりの人の子を見ようと目を輝かせながら我先にとばかりに近寄った。それに続くように私達も近寄る。長い年月人を見てきた私と同じ熟練の仲間達もやはりこの時は毎度ながら心が踊るのだった。
そして人の子を見た我々は思わず息を呑むのだった。
目の前の人の子は私が見てきた中で一番小さくそして弱々しい。ああ、なんてか弱きものなのだろう。そう呟きそうになるのを心の奥へとしまいこむ。横にいる熟練の仲間達も口には出さず私と同じ表情をしているのだった。
だがそれを破るように若い精霊が叫ぶのだった。
『ああ、なんてこと!薄命じゃない!』
咲かせることのない枯れる蕾を愛でたって意味がないと言えば若い精霊達は姿をその場を去っていくのだった。
それを眺めている熟練の精霊達も若い精霊の言葉に咎めることなく諦めた表情で散り散りに居なくなるのを私は呆然と眺めていれば一人の精霊が悲しそうに人に近寄る。暫く人の顔を眺めている精霊に私は見覚えがあった。確か数年前に人に加護を与えたはずである。何故ここにいるのかは分からぬが私が見ていたらハッと顔を上げた。どうやら私の言いたいことが分かっていたように目を伏せ名残惜しそうに離れていくのだった。
この屋敷に来た精霊は私を残し誰もが居ないのを確認すれば、薄命のか弱き人へと覗き込むのだった。
太陽に照らされ反射した美しく輝くプラチナブロンドは今まで見てきた人の中で誰よりも目を奪われた。
そして先程までずっと閉ざされた瞼は初めてこの世界を移すのだ。
瞳を見た私は急激な衝撃を受けるのだった。蒼翠色が私を射止めるように向けられていれば私は慌てて我にかえる。そして距離を取れば心を落ち着かせるのだった。この人の来るべく未来はもって数年後には散るだろう。美しい容姿を想像する前に私達精霊は皆死を予感した。
私達精霊は人の業を組取る。
本来精霊とは人と異なる感情を持つ。何故人は笑うのか、喜ぶのか、悲しむのか、怒るのか。己の持つ感情とは違うことに不思議なのだ。だからこそ興味を持つ。何故、何故、何故?それが若い精霊と熟練の精霊の違いなのだろう。
熟練は長い間人を見てきた。人と精霊は流れている時が違う。ゆっくりと進む精霊からみれば人は命が短くみえる。なのに何故こんなにも成長することが出来るのか。短い命だからこそ人がおこす行動を精霊は見届ける。
精霊が人に望むものは、人のもつ感情なのかもしれない。
人の頭上を何回か回るとゆっくりと口を開いた。
『薄命な人の子よ。お前の業は何を示す』
そっと目の前にのものだけに聞こえるように唱えれば、あちらの人が多いほうが私を見ていたことに気がついた。
おそらくこの親だろう。私へと羨望の眼差しを向けるので親のもとへと飛んでいく。
『この人間はそう長く生きられぬだろう。もって五年ぐらいだな』
そう残せば私は精霊界へと帰っていった。
精霊とは自由気ままである。だからこそあのとき叫んだ若い精霊はあの言葉を吐き捨てた人のことなどあの場を去れば直ぐ様忘れてしまうのだ。だけど私はあの人を忘れることはなかった。
あれから暫く経てば精霊の母なる存在に呼ばれた。今日はこの仲間達に付いて行きなさいと言われたのでそれに従えば見覚えのある建物が見えてきた。
目の前に寝かされている人を精霊達が眺めているのを私は眺めているだけだった。
皆が絶賛するなか仲間の中で蒼色のシュルツが特に目の前の人をお気に召したようだった。おそらくこれから起こることを考えながら部屋の奥で聞こえた苦しげな声を探すように見つめた。小さな存在に目が奪われた。
ああ、なんてことだ。己の業を今まさに全うし続けている人がいるのだ。苦しそうに胸元を握りしめると同時に別の感情が頭のなかで流れ込んできた。どうか、弟の儀式が終わるまで耐えるのよ。私は邪魔したくないの。流れてくる強い感情に私は困惑した。ようやく頭を上げた小さな存在は迷わずに私をとらえた。
あの日見た美しい蒼翠色を私は忘れることはなかった、そして今もその美しさは曇ることなく光を纏っている。そして口元がゆっくりと動くのを逃がさなかった。
「おおまさか!」
人の親であろう男が歓喜したと同時に仲間が話しかけてきた。
『シュルツが人を選んだわ。私達は戻りましょ』
シュルツが選んだのなら私達はもはやお役御免だ。他の精霊がこの人にもう興味をなくしたようにさっさと精霊界へと帰っていく。他者の干渉を受けるならこちらは関係ない。私達精霊は淡白なのだ。
確かに本来なら私も皆と同じように立ち去るべきなのだが美しい色が私を離さなかった。
ああ、せめてほんのすこしだけでもその苦しみを和らげてあげよう。
少しでも美しい色が輝きを灯せるならば。
欠陥してるんですよ。




