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4話

蝕む中にあるそれは

 太陽が照りつけ、自然とシャツの袖を捲る暑さへと変わる。

 クランブルク家の屋敷の使用人達の服装も厚着から動きやすい薄着へと変化していた。

 緑に囲まれた豊かな国、クレイアン王国は一年の季節が寒い気候から緩やかな気候へと一転する時期である。

 屋敷の中は少しずつ季節の花で色鮮やかに飾られるのを幼い少年の書いた手紙で告げられるのは目を覚まして暫くだった。




「ふふ、いい薫り」


 手元には小さな桃色の花を握り、そこから溢れ出す甘い薫りに鼻を擽る。

花を持つ少女は他とは異質の雰囲気を纏うのは四歳の小さな身体にしては過剰に華奢すぎる身体に、微笑んでいるのにもかかわらず顔色は青ざめていて見るからに弱々しい。しかしそれでも少女の美貌は日が経つごとに花開いていくかのようだ。




 少女もといセルシアは弟の書いただろう筆跡と花を眺めながら小さな赤い果実を一口口元へと運んだ。


 口のなかでほんのり甘く広がる果実は目覚めの空っぽのお腹にはとても優しい。自然とこの果実を食べたあとは身体の調子が良く思える。しかし以前まで無かったはずのこの果実が現れるようになったのはいつ頃だったろうか。

 そんなことをぼんやりと考えていれば部屋の扉が開かれ驚いた声が聞こえた。



「セ、セルシアお嬢様!」




 扉を見れば窶れた姿のカーナが勢いよくセルシアの元へ駆け寄る。


「セルシアお嬢様、いつ頃お目覚めでございましたか?当主様、奥方様、リード様、屋敷中の皆がセルシアお嬢様をとてもとても心配しておりました。うう、本当に良かったです」


 セルシアの手を優しく両手で包み込みながら涙を流すカーナにセルシアは困ったように微笑むのだった。


「ごめんなさい、また迷惑をかけてしまって」


 カーナがセルシアお嬢様がこうして目の前で微笑んでいていただけるだけで私は十分ですと言うのだからセルシアはまたも困ったように微笑むのだった。



 カーナはセルシアが目を覚ました事を急いで皆に知らせるために部屋を出ていけば、セルシアは日差しが入る窓の外を眺めた。


 ここのところ何度となく倒れ意識を取り戻すのに数日かかる身体は少し前までは歩けていたはずの足は弱まりこうして起き上がることで精一杯になっていた。

 あと一月で誕生日を迎えるのに果たして身体がもつかどうか。医師によればいつ亡くなってもおかしくないと言われるほどにセルシアの身体はボロボロになっていた。ボロボロになっていくセルシアと共に屋敷中が心を蝕む。


 セルシアは皆を愛していると同時に皆もセルシアを愛していた。

 王国で働く騎士であるお父様は勤務時間を今までの半分ほどにしセルシアに何かあれば直ぐ様駆け付けて来れるようにしたり、お母様は毎日精霊堂へ足を運び祈るのだった。そしてリードはセルシアの元へ毎日来ては手紙と一緒に何かを添えて渡す。屋敷で働く使用人の皆だっていっぱいいっぱいセルシアが少しでも快適に過ごせるようにあちらこちら気にかけてくれる。



 ボロボロになっていくセルシアの姿に皆が涙ぐみながら同じ事を口にしていた。



 どうか五歳の誕生日まで。



 あと一月、少なくとも私にとっては長い過酷な時間。


 弱気になっていくセルシアの心の片隅にはいつぞや聞こえたあの言葉を思い出す。



『おやすみセルシア。今はゆっくり眠りなよ』


 優しい声とともに眠りについたあの時は苦痛が嘘のように癒されていた。でもあれからずっと聞こえることのないあの声は一体なんだったのか。そしてポツリと呟く。



「おはよう」



 あと何回言えるそれを思いながら皆が部屋に来るまでそっと袖口を濡らすのだった。

 幼い少女が宿す体力はいつまで持つのか。ボロボロな身体が命を蝕むのを幼い少女は黙って待つしかならないのか。


 これはあまりにも無情だ。


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